2.美人は冒険者に助けられる
1週間の猶予を貰っていたが、修道院に行くのに多くの荷物は必要ないので2日後にはもう準備が整った。
「それでは行って参ります。」
「本当にすまない。」
「謝らないでください。寄付金代わりの宝石類も持たせていただきましたし、西の修道院は環境も良いと聞いています。」
「何かあれば手紙を書きなさい。」
「はい、さようなら、お父様。」
そうしてお父様だけに見送られて私は伯爵家を出た。
♢♢♢
街に着くと乗合馬車に乗り、エリーゼは順調に西へ向かう旅をしていた。しかしその道中で事件は起きてしまった。突然馬が嘶き馬車が激しく揺れて止まる。
ーーなっ何⁈
「金目の物を奪え!急げ!」
賊だ。もうすぐで次の街へ着くところだったのに。
エリーゼや他の客は馬車から乱暴に降ろされ無理やり荷物を奪われた。斬り殺されないだけまだマシだったが、賊の一人がフードを目深に被っていたエリーゼの腕を掴んで顔を覗き込んできた。
「うへぇやっぱ美人だった!こんな宝石持ってるからどこかの貴族の女なんだろうなぁ!」
「連れていこうぜ!」
ゾッとした。どうしていつも私だけこうなるのだろうか。他の客も馬車の御者も見て見ぬ振り。当然だ、みんな自分の命が惜しいのだから。
ーーあぁ、こんなことばかりなら、美人になんて生まれたくなかった…!!
エリーゼが目をギュッと瞑りそう心の中で嘆いた時、突然剣の音と賊達の苦しむ声、そして地面に倒れていく音がした。
恐る恐る目を開くと、そこには屈強な身体つきの男が一人立っていた。他の賊は全員斬り伏せられている。その男はズンズンとこちらに向かって歩いてくる。私の腕を掴んでいた賊はその手を離し、ヘナヘナとその場に座り込んだ。
「大丈夫ですか?」
冒険者風の装いのその人は、エリーゼに優しく手を差し伸べてくれた。エリーゼは自然とその手を取り、他の乗客と共に安全な場所に集められ、応援の冒険者や街の兵士が到着するまで、守られていた。
その間、エリーゼは自分の手を眺めて考えていた。
ーー初めて会う男性に触れるなんて、絶対に出来なかったのに…嫌だと思わなかった…
応援が到着した後、冒険者風の彼がその場を立ち去ろうとしたので、エリーゼは慌てて追いかけた。
「あっ、あの!」
「ん?」
「助けていただき、ありがとうございました。私、エリーゼと申します。」
「当然のことですよ。俺はアンセル。エリーゼさんはこの先のキュアノスに行くつもりなんですよね?」
「はい、その通りです。」
「馬車が壊れているので、乗客の皆さんはそれぞれ兵士の馬に同乗させて貰えますよ。荷物は冒険者達が運びます。」
「あ…わかりました…。」
同乗と聞いて一瞬戸惑ったが、ちょうどその時後ろから兵士の一人が近づいて来た。
「貴女は私の馬に乗ってください。」
そう言われて兵士の方へ振り返ろうとした時、強めの風がふいてフードが取れてしまった。エリーゼの美しい顔立ちが顕になり、アンセルやその場にいる人の視線が集まった。
ーーあっしまった…
そう思った時にはもう遅く、兵士は頬を染めてエリーゼに興奮したように距離を詰めてくる。
「さっさぁ早く、僕の馬へ…」
ーーいっいやっ…
その時エリーゼと兵士の間に割って入ってきた影があった。アンセルだった。
「この子は俺が連れて行くよ。」
「なっ!」
「いいな?」
反論しようとした相手にアンセルは威厳のある睨みをきかしてそれを許さなかった。兵士は不服そうではあったが引き下がって他の乗客の方へ行ってくれた。
だがエリーゼにとっては興奮した兵士から冒険者に人が変わっただけだった。エリーゼは男なんて皆んな一緒だと観念してアンセルの方に向き直ると、彼は実にサッパリした態度でエリーゼに対応した。
「じゃあ俺の馬で行こうか。」
そう言って自分の馬の方へ歩いていく。エリーゼはその対応に拍子抜けしながら後ろに付いていったが、内心戸惑っていた。
ーーこんな人いるんだ…なんだか自意識過剰で私ったら恥ずかしい…
そんな事を思いながらエリーゼは終始紳士なアンセルと共にキュアノスへ向かった。