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1.美人は家を出る

バチーン

玄関ホールに響くその音とともに私の右頬がじわっと赤くなり痛みだす。


「エリーゼ!!あなた!!よくも私の婚約者に色目を使ったわね!!」


頬を叩かれ、怒鳴られているのはこの私、エリーゼ・フォンターナ、18歳。

ここフォンターナ伯爵家の当主であるベン・フォンターナ伯爵が、かつて平民の母に心を奪われ、その間に生まれたのが私だった。

母は6年前に病で亡くなり、その後になって私の存在を知った伯爵によって、ようやくこの屋敷へと引き取られた。

だが、伯爵家にはもう一人の娘――ザビーナがいる。

私よりひとつ年下の17歳で、彼女が今、私の頬を叩いた張本人だ。

異母妹であるザビーナは、私がこの家に来て以来、ずっとあからさまな敵意を向けてきた。


ちなみに、彼女の母である伯爵夫人は体が弱く、ほとんど自室から出てこない。

私の存在にも、興味がないようだった。


「いったいなんのこと?」

「貴女こないだヨハネス様が来た時にわざと応接室の前の廊下を通ったんでしょ!部屋から出てくる私達とちょうど会うように!」

とんだ言い掛かりだ。父に呼ばれて執務室へ向かうために歩いていたら、たまたま扉が空いて、ザビーナと婚約者のヨハネスが出て来たのだ。その時確かに彼と目は合ったが…。

「手紙が来たのよ!?美しいあの女性は誰だって…もしこれで婚約者を変えてなんて言われたらっ!!」

「落ち着いてザビーナ、そんな事ある訳ないじゃない。」

「黙って!!お父様に言いつけてやるから!!」

そう言ってザビーナは父の執務室の方へ走っていってしまった。

ーーあぁ…廊下を走ってはいけないわ…

そう頭の中で注意しながらエリーゼもその後を追って行った。



♢♢♢

執務室の前まで来ると、中からサビーナの怒った声とそれを宥める父の声が聞こえてくる。父はサビーナに甘い。エリーゼのことも可愛がってくれていたが、最近は面倒そうな表情を向けられることが多くなった。


というのも、年頃になってからのエリーゼは美しく、どこかで見掛けただけのどこぞの貴族から縁談話が来ることも多いのだが、それを断ると相手方がフォンターナ家の出鱈目な悪評を社交界で言いふらすのだ。今やエリーゼは悪女で、フォンターナ家は娘の顔の良さを使って王家に近付こうとしている、だの酷い噂話が真実のように捉えられている。


扉は半開きだったので軽くノックだけして部屋の中に入る。するとザビーナがキッとこちらを睨んでくる。

「エリーゼ、ちょうど良かった。話がある。」

「はい、何でしょうお父様。」

なんだか嫌な予感がしたがそれが当たってしまう。

「お前には修道院に入ってもらおうと思う。」

「!!」

私が驚く横でザビーナは嬉しそうに顔を輝かせている。

「エリーゼに非は無いと信じたいのだが…。ヨハネス君のこと以外にも、またお前に遊ばれたと非難する手紙が後を絶たなくてな。早く婚約者を決めてくれれば良かったのだが、もうそろそろ私も限界なんだ。」

エリーゼは納得した。父は私にもザビーナ同様に家庭教師を付けてくれたので淑女教育を受ける事ができ、社交界にも参加させてくれた。しかしその頃からエリーゼを求める声が多数押し寄せたのだ。

エリーゼが誰かと婚約すれば良かったのだが、それは無理だった。

「申し訳ありません。私が男性嫌いなばかりに…」

「いや…うむ、まあそれも仕方のないことだったが…」

私は母が亡くなって父に引き取られるまでの数ヶ月間の一人暮らしの中で、何度か男性に襲われそうになった事がある。何とか難は逃れたものの、男性に性的対象として見られることに酷く嫌悪感を覚えるようになったため、結婚など考えられなかった。

だからこれはもう潮時なのだろう。


「修道院の件、承知しました。今まで本当にありがとうございました。」

私は本心からのお礼の言葉を述べ、美しくお辞儀をして執務室を出た。



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