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第三話 「自分」のものではない

 二人は彼を捕まえようとした。

 ソーラもようやく死ねるのだと、喜んでいた。


 ――


 しかし、彼の体はそれを望んでいなかった。


 ――

 

 瞬く間に大男二人の懐に入り、一人の喉を突いて短刀を奪うと、首を搔っ切った。

 「なんだこいつ...!!!」

 大男は後ろへ下がると、懐から笛を取り出し、笛を吹いた。

 そうすると、ぞろぞろと人が出てきた。恐らく7.8人。

 「こいつを殺す、兄弟の仇だ」

 いとも簡単に弟を殺した男は、眉一つ動かさず沈黙している。

 (こいつは素人じゃない...兵士か?いや、このツラなら目立つはずだ...)

 仲間が男に飛びかかる。

 (流石にこの数なら...)

 そう思ったのも束の間

 目の前でどんどん仲間が殺されていった。

 「なんだこいつッッ!」「グハッ!」「やめてくれッ!」

 気づけば仲間は倒され、血だらけの男が一人立っていた。

 「な、何なんだ、お前!」

 男が歩いてくる。

 「ひッ、ひいいいい!!!」

 殺されると思った。

 しかし、待っていたのは思いがけない質問だった。

 『仲間の数と場所は?』

 酷く冷たい声だった。

 「き、北にある山だ!30人くらい!!!」

 言い終わると同時に、大男の首が飛んだ。

 

 ソーラは夢を見ていた。

 自分がスーパーヒーローになった夢だ。

 自分をさらおうとする敵をばっさばっさとなぎ倒し、颯爽とその場を出ていく。

 これは夢だ、早く目覚めないと....

 ソーラが夢と思うのには理由があった。

 あれだけ人殺しの罪悪感を感じていたにも関わらず、生々しい血だらけの腕、首を落とされた死体を見ても何も感じない。

 ざっと見て10人ほど殺した。

 体が勝手に動いた。何も考えられなかった。何も感じなかった。

 先ほどの質問も、自分が発したものではないほど低い声だった。

 何故か怒りを感じている。

 腐敗・犯罪は許さないといったような気持ちが湧き上がってくる。

 そこでソーラは気付いた。

 ――

 

 これは夢じゃない。


 ――

 死にたいなどという気持ちは消えていた。

 いや忘れていたという方が正しい。

 体が戦いを求めている。

 湧き上がる怒りを抑えきれず、ソーラはその場を後にした。

 

 

 ソーラは北の山の砦の入り口に来ていた。

 山賊の住処であるようだ。

 ソーラは門番のもとへ向かう。

 「誰だ、テメエ」

 「ここのボスに会いたくて...」

 「何の用で?」

 「君たちの仲間を捕まえたんだ。罪を認めて自首してほしくてね」

 そう言うと、門番の二人は大きく笑っていた。

 「アッハッハッハッ!!!お前みてえなガリガリ君がか?冗談も程々にしてくれ」

 「もやしみてえな体のやつがあいつらを殺せるわけねえ、あ、あれかい?自殺志願者かい?」

 大きく笑う二人を前にソーラは、目を細めた。

 「そうか、せっかく土産も持ってきたのに残念だ。」

 ソーラは袋を手渡す。

 門番が袋を開けると、驚いて袋を地面に落とした。

 「どうした?大事なものだぞ?丁寧に扱え」

 袋の中身は先ほどの大男の首だった。

 「て、テメエ!!!」

 門番はすぐさま槍を構え、ソーラを刺殺そうとした。

 すぐさまソーラは槍を奪い取り、一人の心臓付近を突き、驚くもう片方の門番の喉を突いた。

 「あ……が……」

 ソーラはひどく冷静だった。やはり死体を見ても何も感じない。

 先ほどのやり取りも考えて行ったことではなかった。

 彼はそこから一つの仮説に至った。

 この能力は元々の体の持ち主のものだ。

 清水創太にこんな能力はない。ただの会社員だ。

 この体の持ち主は武術の達人だ。

 そうでないと納得がいかない。

 体の持ち主に「生きろ」と言われているような感じがする。

 犯罪や悪を許さないこの熱い気持ちは、清水創太にはない。

 しかし、この気持ちは不思議と「ソーラ」に「生きる目的」を与えようとしている。

 湧き上がるこの気持ちと共に、ソーラは奥へ進んだ。


 


 山賊の長は、町へ人をさらいに行った連中が返ってこないことに憤りを感じていた。

「あいつらは、まだ戻ってこねえのか....」

 どうせ奴らのことだ。酒場や娼館で遊んでいるに違いない。

 誘拐は足がつきやすい、その為迅速な行動が必要だとあれ程言っているのに.....

「帰ったら、しっかり教育してやらねえとな......」

 山賊に身をやつすような人間は、ほとんどがまともな教育を受けられず、暴力でしか成り上がることのできない環境にいた

 ものがほとんどだ。

 この長もアリアナ町の貧民街で生まれ、暴力でのし上がってきた。

 奪わなければ奪われる。そんな世界で暮らしてきたのだ。

 彼にとってこの生活は悪くなかった。

 酒も女も困らないし、多少の銭だってある。

 アリアナの衛兵など、銭を出せばこちらになんら口出しはしてこない。

 あの町もそうだが、役所が腐っているのだ。

 稼げば稼ぐほど、役所に目を付けられ持っていかれる。

 真面目に働くやつがバカを見る世界で、あくせく働くなんてとんでもない。

 食い物に困るなら、商人の輸送隊を襲えばいい。

 女が欲しいなら、誘拐すればいい。

 奪うことは簡単だ。奪わなければ奪われる。それだけだ。

 そんなことを考えていると、天幕の外から敵襲を告げる鐘が鳴った。

「なんだ...?また誘拐された人間の連れか?」

 誘拐などが発生すると、たまに人が訪ねてくる。

 うちの恋人を知らないか、云々だ。

 金は払うから、開放してくれってせがんでくる。

 俺達はそういうやつを殺して金を得る。

 大体、そういう噂が立つ頃にはもう奴隷商人などに引き渡している。

 開放してくれって頼み込む奴を殺すのは最高に気分がいい。

 自分が優位に立っているという幸福感がたまらない。

「さて、そろそろ捕まえただろう....誰も言いに来ねえのは妙だが.....」

 長はまた人を殺せると下品な笑みを浮かべながら天幕を出た。


 ――

 

 外に出た瞬間、想定外の光景に長の笑顔は消えた。

 部下が皆殺しにされている。とんでもない量の血の池が出来上がっている。

 その池の真ん中には、一人の男が立っていた。

 体中に鮮血を浴びており、虚ろな目をしている。

 息遣いすら感じず、まるで立ったまま死んでいるように見えた。

 長の息遣いが荒くなる。心臓の鼓動が早くなるのを感じる。

 鬼神だ。そこには、血だらけの鬼神が立っていた。

「あ....あ....化け物.....」

 その言葉に気付いたのか、その男が顔を上げた。

 夜の暗がりを照らすようなかがり火が男の姿をより鮮明にする。

 その白髪はおぞましい量の血を浴びて紅くなり、衣服も血で染まっている。

 鬼神だ。俺の行いを鬼神が裁きに来たのだ。

 一歩ずつゆっくりと鬼神が近づいてくる。

 その一歩一歩がやたら大きく聞こえる。

 まるで死のカウントダウンのように。

「い、嫌だ...俺はまだ死にたくない......」

 足が動かない。動けと言っても動いてくれない。

 尿を垂れ流していることなどまるで気にならない。

 怖い、死にたくない。

「動け....!動けよ.....!」

 鬼神が目の前にやって来る。

 その目は虚ろで、生気を感じられない。

 まるで自分を人間と思っていない、「獲物」であるかような視線を向けてくる。

 ああ、俺はここで死ぬ。

 これが殺される側の視点なのか.....

 あいつらにとって俺はこんな風に見えていたのだろうか。

 鬼神が槍を構える。

 長は「死」の意味をこの時初めて知った。

 鬼神が槍を突き出す。

 やけに世界が遅く見えた。

 そうして長は目をつぶった。

 

 「まあ、待て。こいつには聞きたいことが山ほどあるんだ。」


 突き出した槍は長に刺さることはなかった。

 鬼神が突き出した槍の柄は長の目の前で掴まれていた。

 ソーラの横には、まるで岩山のような大きさの男が立っていた。

 「しばらく眠れ。」

 大男はソーラの首元をトンと叩き、気絶させた。

 「危ないところだった、さてあいつは.....」

 長を見ると、泡を吹いて気絶していた。

 「派手にやったみたいだな.....生きてるやつがいて助かった。」

 そう言うと、大男はソーラと長を担ぎあげ砦を出ていった。

 もうすぐ夜が明けそうな時間だった。


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