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第一話 転生

目を覚ますと、眼前には草原が広がっていた。

 心地よい風が彼を心待ちにしていたようであった。

「俺は死んだのか...?」

 それにしては身体の感覚が鮮明だ。

 しかも、先ほどまで着ていた血まみれの服ではなく、どこかの国の民族衣装のような服を着ていた。

 (なんだこれは、これはどういうことなんだ?)

 あたり一面何もない様子であったが、舗装された道路を見つけた。

 なにがなんだかよくわからないが、とりあえず歩いてみよう。

 誰かに会えるかもしれない。

 そう思い、清水は舗装された道路を歩き始めた。

 

 歩きながら、今自分が置かれている不思議な現象について考えていた。

 これはもしかして今はやりの異世界転生というやつなのだろうか。

 不慮の事故で死んだ人間が、神に選ばれ世界を救うというやつだ。

 シンプルで分かりやすいジャンルは嫌いではなかった。

 こんな主人公になってみたいとも妄想したこともあった。

 しかし、今彼が思うことは『何故俺なのか』という考えのみであった。

 俺は人殺しだ。妻と間男を殺している。そんな俺が世界を救う?

 何を言っているんだ。俺はそんなことしたくない。

 早く楽になりたくて、この喪失感・罪悪感から逃げたくて死んだ男だ。

 死ねば楽になると思ったのに、なんだこれは。

 これで世界を救ってくれとか王様に言われたらどうしようか。

 嫌ですって言ったら、殺されるのかな。

 まあそれならそれで好都合か。

 

 そんなことを考えながら、ただひたすらに歩き続けていた。


 しばらく歩いたが、誰にも会わない。

 人工的な建築物も見えない。

 腹が減ったし、のども乾いた。

「クソ、なんで誰もいないんだ?」

 焦りや苛立ちを感じる。

 しかし、清水は日本という発展した国で暮らしていたただの会社員だ。

 困難な状況でのサバイバルスキルや生き残るための知恵を持っていない。

 ここで立ち止まって待っていても、誰も通ることはないだろう。

 ひたすら歩き続けるしかない。

 まあ、死んだらそれまでだ、そういう運命だったのだろう。

 俺に対する罪と罰なのかもしれない。

 とにかく歩き続けてみよう。

 

 清水は歩き続けたが、誰にも会わず、建物も見えなかった。

 どれだけの距離を歩いたのだろう。

 段々と足腰の感覚がなくなってくるのを感じる。

 視界もぼやけてきた。

 腹が減った。のどが渇いた。

 楽になりたいとは思っていたが、こんな風に死ぬのは苦しいな。

 何も考えられない、何も感じられない。

 歩く力もなくなってしまい、清水は倒れこんでしまう。

 (俺は、死ぬのか..........)

 考える力もなく、身体も動かなくなり、やがて清水は瞳を閉じた。

 もう疲れた、早く寝よう......

 瞳を閉じる直前に人影が見えたような気がしたが、もうそんなことはどうでもよかった。

 

 

 夢を見ていた。

 妻と一緒に結婚記念日を祝っていた。

 快活に笑う妻の姿をみて、俺も笑顔になっていた。

 しかし、次に目を開くと快活に笑っていた妻の顔が歪んだ。

 口から血を流し、恨めしそうな目で私を見ていた。

 吐き気がした。

 恨みや怒りがごちゃ混ぜになったような感情になった。

「お、俺は.... 」

 お前が悪いんだ....俺を裏切るから......

 血だらけの妻が、清水の目の前までやって来る。

「や、やめろ!来るな――――!」


 

「うわあああああああ!!!」

 俺は悪夢から覚めるように飛び起きた。

 夢だったのか?

 ベッドで寝ていた。周囲は石のレンガの壁が見える。

 どうやら俺は生きているらしい。

 心のどこかで安心している自分がいた。

 ここはどこだ.... ?

 ベッドから起き上がろうとしたが、身体に力が入らない。

 どうやらかなり身体がやられているようだ。

「あっ!目が覚めたんですね!!!」

 その声に目を向けると、籠の中に野菜や果物を詰めた女性がいた。

「よかったです!身体の調子はどうですか?」

「ああ、ありがとうございます。まだ身体の方はあまり力が入らなくて...」

「そうですか!ベッドで待っててください!今ご飯を作りますから!」

 女性はそう言って鼻歌を歌いながら、料理を作り始めた。

 年齢は10代後半くらいだろうか。とても元気な女性だ。

 ベッドで待っていると、料理を持って来てくれた。

 ポトフのようなものだろうか、野菜が煮込まれている。

「さあ、召し上がれ!」

「ありがとうございます。いただきます。」

 スープを口に入れると、野菜の甘みや芳醇な香りを感じてとても美味しかった。

「美味しい!優しい味がします」

 思わず言葉が口に出た。

 女性はその言葉に笑顔で

「よかったです!たくさん食べてくださいね!」

 と言われ、ソーラは久しぶりに安心感を抱いた。

 

 

 スープを召し上がり、少し活力が湧いてきた。

「すみません、自己紹介もしていないのにこんなにもてなして頂いてしまって」

「いえいえ、気にしないでください」

「私の名前は創太 清水といいます、あなたのお名前は?」

「私は、マライアです!ソーラさんですね!よろしくお願いします!」

 どうやら私の創太という名前がなまってしまったようだった。

 まあいいか、ソーラで。いい名前だ。

 この際に名前を変えてしまうのもありだろう。

「ホントにびっくりしたんですよ!村の前の道で倒れていたんですから!」

 マライアさんの話によると、昨日の昼に村人が道路で倒れている俺を見つけて運んでくれたらしい。

「ソーラさんの服装が見たことのないものだったので、どこかのお金持ちの方の息子さんかなって思っていたんですよ!」

 マライアさんの服を見ると、俺とは違いかなり薄い服を着ている。

「それにソーラさんがとても整った顔をしていらっしゃるので、どこかの王子様なんじゃないかってみんな噂してました!」

「いえいえ、自分なんてただのおじさんですよ」

 俺はもう29歳だ。至って普通の顔つきだし、段々おなか周りが気になる年ごろだ。

「そんなことないです!すごいカッコイイですよ!」

 うーん、この世界では俺のような顔が美形と言われるのだろうか。

「すみません、何か自分の顔を見られるようなものはありますか?」

「鏡があります!どうぞ!」

 マライアさんから鏡を貰い、自分の顔を見ると、思わず絶句してしまった。

 鏡には、とんでもないイケメンが映っていた。

 俺の顔じゃないぞこれは。なんだこのイケメンは。

 マッ○ミケルセンの若い頃みたいだ。

 そこで、俺は本当に異世界に転生したということを自覚した。

 本当に生まれ変わったのか、俺は。

 よく見ると、体つきも全然違う。

 筋肉質な体をしていて、よく絞れている。

「大丈夫ですか...?しばらく固まってますけど...?」

「ああ!すみません、これお返しします」

 どうやら俺は自分の顔をずっと見ていたようだ。

 そりゃそうだ。こんな顔であったら、自分に見とれるのも無理はないだろう。

 マライアさんに鏡を返すと、色々なことを聞かれた。

 どこから来たのか・なんで道に倒れていたのか・親は誰なのかなどだ。

 残念ながら俺はそれを答えることができなかった。

 死ぬ前のことを言うのはまずいだろう。世界が違うのだから。

 記憶に何らかの障害が残ったということで、何とかやり過ごした。

 こんなことを話していると、随分と時間が経っており気づけば夜になっていた。

「あ、もうこんな時間!そろそろ私は寝ますね!おやすみなさい!」

「ええ、おやすみなさい。今日はありがとうございました。」

 俺が笑顔でほほ笑むと、マライアさんは顔を赤面させて部屋を出ていった。

 ファンサをするアイドルってこんな感じなのだろうか......

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