紙飛行機は金星に
ラジオ大賞、直前ですみません
紙飛行機という玩具が、グライダーを経て飛行機に昇華した頃は、飛行機は夢だった。
紙の浮力を使って滑空させる遊び。グライダーが飛ぶ前から、紙の発明の副産物として存在していたそれは、空を飛びたいという夢を人類一般より若干強く持っていた私を魅了した。
でも、ここじゃ、人を乗せるものではなく、人や建物を壊す悪夢だ。
無人飛行機が頭上を行き交う中、百年前の技術(防空壕)に身を潜めて生き延びた私は、もはや、紙飛行機で遊ぶ気になれなかった。
『飛行機は国境のない土地にしか飛ばしてはならない』
というすら考えるようになっていた。
転機が訪れたのは、母親と兄に連れられて逃げた2ヶ月後だった。兄は16歳。18歳になると、徴兵または予備兵として、出国できなくなる。その先は戦死が重症。そうでなくとも人を殺す立場になる。だからこそ、母は私達を連れて逃げた。
そんな難民に
『将来の徴兵を避けた奴』
『祖国を裏切った者』
というレッテルを貼る大統領。
そういう誹謗をそのまま流す、SNSや動画サイト。
そんな私達を支えてくれた学生ボランティアが、気分転換にと誘ってくれたのが、某研究所の一般公開だった。そこではボランティアの先輩の大学院生達が訪問者に色々説明・実演してくれてた。そして、たまたま私達のグループを案内してくれた大学院生は、金星がテーマで、火星・金星の過去と将来のミッションを熱っぽく語ってくれた。
その日以来、私は紙飛行機で再び遊ぶようになった。
『国境のない土地にしか……』
という怒りは
『じゃあ、国境のない惑星で飛ばせば良い』
と昇華されたのだ。
火星は気圧が低いから浮力不足で紙飛行機は飛ばせない。だが金星なら?
地表から50kmの雲層は、1気圧でしかも摂氏50度ほど。普通に紙飛行機が飛ばせる環境なのだ。
私の作った紙飛行機を金星の飛行船から投げる。あるいは紙飛行機を単純に落として行く末を見る。
そんな夢は、私の進路を決めた。金星の強酸性の雲でも溶けない紙を選び、金星の雲までおりて、気球どころか飛行船として飛ばすミッションを模索する。
結果的に、米国や欧州はもちろんの事、中国やインド、日本、韓国、はてはロシアの科学者を巻き込んだ大計画となった。科学者に国境はなく、金星に国境はない。
願わくは、飛行機が再び戦争と無縁のものでありますように。
案は1ヶ月前からあったのですが、遅くなりました