私はこうしておじさんになった
お風呂から上がり、時計を見ると夜9時になっていた。いつものようにゲームアプリを開くと、先ほどとは変わってギルドメンバーが活発にチャットしていた。話題の中心は、2週間後に迫ったギルド戦について。重要な詳細を聞きながらも、私は気づいた。何を話しているのかわからないということを。いくつかわかったことといえばギルド戦では参加人数が多いほど有利になるため、私の参加も求められているようだ。次に、もし1日も参加しなければ、ギルドから強制退会になってしまうという。
1日も参加しなかったら退会……?
一瞬、退会の言葉につられたが3日間もある中で一日もでないんだからそれも当然かと私は納得した。しかし、これは確かに自由度を持てお目る人には向いてないなと思った。そんなことを考えているとギルド戦の話が一段落した。ギルドマスターのスタンプを機に次々とユーザがログアウトをした。私もアプリを閉じようとした。すると、今後は違う話題が流れてきた。それは仕事の悩みだった。スタンプと一緒にいくつものコメントが流れてきた。
「ちょっと聞いてよ、新しいプロジェクトの責任者になったんだけど、なかなか上手くいかなくて…」
「どしたん、話聞こか?」
「↑はやくかえれww」
「警察まだ?」
「仕事の降り割り間違えた。ある一人が想像以上に苦手な作業らしく全く仕事が進んでない。このままだとチームの残業時間削られていく」
「そんなん、作業変えればいいじゃん」
「めんどくさそ」
「ギルマスが代わりにやれば?」
「俺が本当ならやってもいいんだけど、その資料の作成者を既にその人間で入れたから違う人間が遂行するわけにはいかないんだよ。」
「そんな意味わからないルールあるの??」
瞬く間にグループチャットが始まっていきコメントが進んでいった。私も暇だったので、とりあえず様子を見ることにした。彼らの話を聞いているうちに、私も自分の仕事のことを考えさせられた。すると突然自分の名前が表示された。
「今日のギルド戦で何か分からないことはある?」
私は「特にないです」と答えたものの、正直なところ、ギルド戦で勝つためには自分がどのくらいの強さならいいのか、実感がわかずにいた。そこですこし過程は飛ばして「このゲームで強くなるには、どれくらい課金すればいいんでしょうか?」と質問してみた。③すると、チャットルームはすぐにいくつものゆユーザが書き込み中になった。
「金」
「どれだけ金をいれたのか」
「金・もしくは強運」
「なんだかんだ強運ならあまり課金しなくても強い」
このゲームは金なのか?ここはホストとか何なのかな……?
確かに会社にもゲームが好きな人はいっぱいいるらしいけどそういう人たちの多くは、ゲームをやりすぎて寝不足になったとかいうからてっきり時間が大事だと思ったんだけど……。このゲームは明らかにそいういうものじゃないのかな。数秒後、サブマスがつぶやいた。
「このゲームはガチャが厳しいから、課金しても簡単に強くなれるとは限らないよ。多分公式のチャンネルには入ってると思うけど、重要なのはピックアップキャラなのね。そのピックアップキャラをどれだけ引けるかで強さがきまる。しかしそのピックアップが本当に出ない。もともと最高レアが出る確率がフェスのときだけ3%なのね。そしてその中でピックアップキャラが出る確率は0.6%ね。もし本気で強くなりたいなら毎回自力で引くか、天井というシステムで交換する必要がある。月5万円プラスαで、年間100万円くらいは覚悟しておいた方がいいかもね」
「↑長文コメお疲れ」
「↑読まなくてもいい」
「金額書くのやめてくれない?つらいんだけど??」
「↑完璧な私怨ww」
その金額を見て、私は思わず「皆さんは一体どんなお仕事をされているんですか?」と尋ねたくなった。しかしさすがにゲームの中でその質問は野暮だと思った。自分も何の仕事をしてるのか聞かれたらさすがに嫌だし。
「でもさすがに毎回そこまで課金してる人は子のギルドにはあんまりいないよ。とりあえずエンジョイできればいいというスタンスではあるから」
「エンジョイって何ですかww」
「ギルマス、出会い癖だったの!?」
「新人、気をつけろww」
「大丈夫です。今度のギルド戦頑張ります。」
「まじめだなーー」
「これはギルマスが惚れてしまう」
「ギルマスは男でもいけるの??」
この瞬間、私は朝に話していたゲーム内の性別による面倒な話を思い出した。たぶん、みんな男性っぽいし今ここで自分が女性というと……、どうなるんだろう??少なくとも良いイメージがわかない。もしかして自意識過かもしれないけど。
そして私はふと自分の姿が映ってる窓ををちらりと見た。
……、あんまりモテないし、いや全くモテないし、ここで女性といっても他の人がっかりするかな。
そして私はふざけてつぶやいた。
「私、おじさんですけど大丈夫なんですか?」
するとすぐにいくつものコメントが来た。
「ギルマスモテモテ!!」
「ギルマスかっこいい!!」
「おじさんの猛アピール」
「今日はもうログアウトしようかなww」
私はやってしまった。これで私はこのゲーム、このギルド内ではおじさんとして生きていく定めとなった。
「……おじさんとおじさん、需要ありますか??」
ギルマスはしっかり空気を読んだ。そして私はそれにこたえる必要があると思った。
「ありません。いや、もしかしたらあるのかもしれません……?最近の時代は多様性です。」
「↑多様性。いいことばだなー」
「↑私はおなか一杯なんで大丈夫です。」
「wwww」
私はこれからどうすればいいんだろう。
そうして私は一人壁を見た。