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お嬢様と知恵袋

「やはり永夜城シリーズは最高の書籍ね。シルバーが入れてくれる紅茶を飲みながら、世界最高の物語を嗜む。これぞ真のカリスマというもの……ふふっ、あまりのカリスマ性に自分が恐ろしくなるわね」

「……失礼ながらお嬢様、カリスマの意味を理解されていますでしょうか?」


 シルバーの言葉に私は手に持っていた愛読書をテーブルに置き、堂々たる態度でシルバーに向き合う。


「あら、当然じゃない? カリスマというのは……あれよ、なんかスマートですごい雰囲気のことよ」


 ……い、意味なんて知らないわよ……ただ何となく格好いいから言ってみたかっただけだもの。


「……カリスマのスマはスマートではありませんよ。元々は古代ギリシャ語の恩寵、恵みという意味の言葉であるカリスが語源とされており文脈では神からの賜物、聖霊の力という意味で使われることが多かったようです。現状、最も多く使われている意味合いとしましては特別な才能や魅力を持つ人物とでも言うべきでしょうか。確か私の記憶ではドイツの社会学者マックス・ウェーバーがこの言葉をよく使っていたかと」


 へ、へぇ……さすが歩く知恵袋のシルバーね。


「も、もちろん知っていたわよ! 今のはシルバー、あなたの知識を試しただけに過ぎないわ。でもしっかりと勉強しているみたいで安心したわ」

「お嬢様の従者である以上この程度は当然のことです」

「そう、瀟洒でいい心構えね。シルバー」

「ところでお嬢様、瀟洒の意味は理解されていますでしょうか?」

「もうやめて! 見栄を張って難しい言葉を使おうとした私が悪かったから!!」


 私が自身の無知を認めるとシルバーは、いつもと変わらない無表情でありながらも、どこか楽しげな雰囲気を纏わせながら私のカップを取り上げた。


「あ、ちょっとまだ飲んでいるのだけれど……」

「すっかり紅茶が冷めてしまったようです、新しく淹れ直して参ります」

「別に温め直してくれれば私はそれで構わないのだけれど」

「いいえお嬢様、温め直した紅茶と珈琲ほど美味しくないものはございません。あんなものを飲むぐらいなら泥水でも飲んだ方がマシというものです」


 私のカップを持ったシルバーが厨房へと向かうのを見届けながら、私は永夜城シリーズの一作目、永夜城物語『吸血姫アリア』を手に取る。


「お嬢様ただいま戻りました。新しい紅茶を淹れて参りました」

「あら、この香りは……特別な紅……」

「普通の紅茶です」


 食い気味に訂正を入れてくるシルバー。この子、一応私の従者よね?


「……ねぇシルバー……もしかして私って舐められているのかしら?」

「そのようなはずがございません。お嬢様は完全無欠の素晴らしいお方です」

「その割には私の扱いが雑のような気がするのだけれど……」

「真のカリスマ性を持つ者は、周囲からの扱いなど気にも留めないものです。少なくともこれまで私が見てきた人物はそうでした」


 そう言いながらシルバーはテキパキと分厚い本を何冊かテーブルの上に置き始めた。


「ねぇシルバー、その本は何かしら?」

「真のカリスマたる者は日頃から頭も鍛えているものです」

「……つまり?」


 いつも無表情のシルバーが口角の端だけを持ち上げた……なんだか嫌な予感がするわね。


「突然ですがお嬢様、勉強のお時間です」

「……え?」


 こうして私の至福の時は消え去った……

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