お嬢様の親友は最強!?
星暦1589年、セレシア、ルーネイト王国・星霊協会総本山。
「おや、戻ったのですね。シスターエアリィ」
「はい、ただいま戻りました。司祭アルベリヒ」
私は司祭様に声をかけられた。
「申し訳ないのですが、急ぎ魔獣討伐に向かって頂けますか?」
「魔獣討伐ですか? 星霊騎士団員では対応できないのでしょうか?」
「えぇ、王国の国境沿いにとても巨大な魔獣が現れたらしいのですが、彼らではまるで歯が立たなかったのですよ……お願いできますか?」
「承知しました。このエアリィ=D=クロフォード、魔獣討伐の任を確かに受け賜りました」
「戻ったばかりだというのに申し訳ない……では確かに頼みましたよ」
私は司祭様に一礼をして、星霊協会を後にした。
*ルーネイト王国、国境沿いの山脈*
「……目撃情報があったのはこの辺りね」
「おーい、こっちこっち! こっちだよエリィ!」
聞き覚えのある声がした方角に視線を向けると、一人の子どもが走ってきた。
「あら奇遇ねユウキ、貴方も魔獣討伐かしら?」
「ん、下町の人たちが襲われたみたいでね。これ以上被害が出る前にボクが倒しておこうかなぁって」
私達の会話を遮るかのように強風が吹き、ユウキの銀髪が風に揺らいだ……
「………!」
「……ん、風の流れが変わったね」
「えぇ」
中性的な顔立ちをしたユウキの夜空色の瞳が細まり、一点を見つめている。
「……気を付けて、エリィ」
「……確かにこれはすごい威圧感……星霊騎士団が敗走したというのも納得ね」
ユウキが鉄扇を振って境界を操り、空隙から弓を取り出した。
「あら、いつもの片刃の剣は使わないの? たしかカタナとか言ったかしら?」
「んー、実はボクって弓のほうが得意なんだよね……一応大神家当主専属の剣術指南役だから刀も使うけどね」
「でも見たところ矢を持ってないみたいね」
「ボクの場合、弓を射るという形式が大切なだけで矢は必要ないんだ」
ユウキが弓の弦を引き絞り、指を離す……
「言うなれば不可視の矢ってところかな。ボクの霊力を飛ばしてるわけだから」
ユウキの不可視の矢に被弾したのか、茂みの中から魔獣が姿を現した。
「あちゃあ……思ってたより大きいねー」
「ちょっと……これって飛竜じゃない……!」
私は修道服の中に隠していた短槍を取り出しながら、飛竜の右翼側へと移動を始めた。
「正直、二人だけで飛竜の相手をするのは骨が折れるわね……」
「そだねー、誰かが助っ人とかしてくれないかなぁ」
「それでは僭越ながら私が加勢いたしましょう」
乾いた銃声が十二発分鳴り響き、外套に身を包んだ青年がエアリィの前に着地した。
「ふむ、やはりただの銀弾では飛竜に致命傷を与えるのは難しいようですね」
「シルバー、どうしてここに?」
「ずっとお嬢様の後を追っていたのですが……」
「えーと……エリィのお友達?」
「彼は私の従者よ」
「D=D=シルバーと申します。お嬢様の護衛であり通訳です、以後お見知りおきを」
シルバーは両手に持っていたスイングアウト式回転式拳銃の、シリンダーを振り出し空薬莢を排出させると、指と指の間に挟んだ銀弾を三発ずつ薬室に装弾していく。
「お嬢様、これより私は飛竜の生命活動を止めるための術式を用意します」
「純銀は優れた魔術媒体だから有効打にはなりそうね……さしずめ魔弾といったところかしらね」
「それじゃあボクとエリィで飛竜の動きを阻害しようか」
私は背中から蝙蝠の翼を生やすと同時に、飛竜との距離を詰めた……が、私の動きを先読みしていたのか飛竜の前足が振り上げられる。
「エリィ、危ない!」
目の前で振り上げられた鋼鉄をも切り裂く飛竜の爪が私の命を刈り取る直前に、ユウキが霊力で形成された不可視の矢を放つ……が、飛竜は大きく横に跳躍してユウキの矢を避けた。
「避けられてるじゃない! どこを狙ってるのよ!」
「だいじょーぶ、これでいいんだよエリィ」
「え?」
確かに不可視の矢を回避したはずの飛竜が転倒し、両翼を大きく動かしながら悶えている。
「なるほど……先程弓を取り出していた不思議な空間を経由させたのですね」
「あたり、敢えて回避をさせて油断をしている相手に対して、空隙を経由して急所に向かって射る……これがボクの必勝法だよ」
「……ユウキ……可愛い顔をしながら中々えげつないことするわね……」
「不可視にして急所必中の攻撃とは……これぞ正しく、いともたやすく行われるえげつない行為というものですね」
「獅子は兎を狩るのにも全力を尽くすものだよ?」
「流石はお嬢様のご友人、飛竜相手にウサギ呼ばわりとは」
「……ユウキ、もう全部貴方だけでいいような気がするのだけれど……えい!」
地でのたうち回りながら苦しんでいる飛竜の脳天に短槍を突き立てる。
「お嬢様は『私が全く活躍出来なかったじゃない……折角久々に楽しめそうな相手だったのに……』と、仰られています」
「シルバー、勝手に変な通訳をするのはやめてちょうだい……それと早くこの飛竜を楽にしてあげなさい」
「承知致しました」
彼は左手の拳銃を外套のホルスターに納め、右手のリボルバーを飛竜に向けた。
「流石に飛竜だけあってタフですね……まぁ天才達の死体を継ぎ接ぎして造られた怪物には敵いませんが」
シルバーは無表情のまま引き金を引いた。
「術式起動、術式付加・魔狩りの銀弾、術式展開」
魔術を込められた銀弾が飛竜の躰に触れると同時に飛竜は絶命し、その亡骸が溶けるように消滅した。
「お疲れー、それじゃあボクは下町の人達に報告しないと」
「私も協会に報告しておかないといけないわね」
「それでは私は妹様と共に夕食の買い出しを済ませておきましょう……妹様、もう出てきてもよろしいですよ」
木陰に隠れていたアミルが私達の元へ歩いてくる。
「あ、アミルまで連れてきたのね……」
「当然です、妹様を一人にするよりも私と共に行動しているほうが安全ですから」
ユウキが再び鉄扇を振り、空隙を二つ創り出す。
「右の空隙は協会に、左の空隙は城下町に繋いでおいたからね。それじゃあね」
更に足元にも三つ目の空隙を創り出し、その中に飛び込むようにしてユウキの姿が消えた。
「では、お嬢様の大好物を買ってまいります」
シルバーとアミルも姿を消す。
「はぁ、なんだかどっと疲れたわね……」
私も空隙を使い、星霊協会に向かった……