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幸福脳炎  作者: 泥色の卵
2/3

Episode.2


 久々に会えると期待して自宅のドアを開けると、帰りを待っていた高校生の息子と妻が出迎える。

 感動の再会を果たした瞬間、妻と息子はぐらつき、その場に倒れた。

 そして二人とも救急搬送され、数時間後には帰らぬ人となった。


 死ぬ直前の妻と息子の顔は忘れられない。

 幸せそうな顔だった。


 彼らの死が寺岡を研究に固執させていた。

 彼らの死を無駄にしないためにも……そして自分が会ったことで死んでしまったのではないかという罪悪感を少しでも拭うために。

 そしてこの脳炎の治療法を見つけて娘に再会するために。彼は寝食を忘れて研究に没頭した。


 各国、各研究機関は色々な説を立てて治療法や症状のメカニズムを解明しようと奮闘していた。

 会いたい人にあったら、性的興奮を覚えたら、急激な幸福感に包まれたら、幸福感と共にそれを失うことに恐怖を覚えたら、家族との間で幸福を感じたら……

 様々な説を立てては否定事例により消えていった。


 その中で寺岡はある条件に焦点を当てていた。

 それはすでに仮説として別機関で上がっていたが、否定事例があるとして消えた説だった。


 しかし自分の妻と息子を失ったときの状況。それを何度も何度も考えるうちに、その仮説が正しいとしか考えられなくなっていたのだ。

 やけくそに近かった。この仮説が証明できなければ、家族に顔向けできない。そう自分にプレッシャーをかけていた。


 そして寺岡はその説を簡易的にでも立証するため、数十件の事例が記載された用紙を助手に手渡した。


「有名人の目の前で亡くなった大学生いただろう」


「はい。4人の内1人だけが亡くなった」


「そうだ。彼の親御さんの連絡先が知りたい。調べてもらえるかい?」


「わかりました」

 助手は忙しなく手帳にメモを取っている。


「あと、ヨガ教室で亡くなった女性の件も、そのご家族とヨガ教室に連絡をつけて話ができるようにしてほしいんだ。他にも多いが、手分けして手配して、情報を集めてくれないか」


「了解しました。先生」

 彼がピックアップしたのは、彼の仮説を一見して否定する事例ばかりだったが、これさえ仮説に当てはまれば立証に大きく近づくものだった。


 そうして情報を集めては集計し、仮設を立証すること約2日。

 彼は辿り着いた。もしかすると、隅々まで探せばそれすらも否定する事例もあったのかもしれないが、とりあえずのところ、彼の説は簡易的に立証された。


「分かったよ……発症の条件が」


「本当ですか!?先生」


「再会だよ」

 再会。それが彼の導き出した答えだった。


「会いたい人に初めて会っただけでは発症しない」


「自分が会いたいと思う人と出会ったときにオキシトシンが分泌され、その状況、条件にウィルスが反応して重篤な急性脳炎を起こす」


「やりましたね!先生!早く各機関に知らせましょう!合っていれば、多くの命が救われます!」

 その発表から再会しないように対策が取られ、発表から1日の間は死亡者が激減した。彼の仮説は正しいものと評価された。


「梨花!体調は大丈夫か?」


「お父さん!電話かけても、LINE送っても返事も既読もつかないから心配してたんだよ!」


「もしかしてお母さんと翔太の後を追ったんじゃないかって…」


「ごめんな…でももう大丈夫だ、この病気を治すことができるんだ!」


「あと少し…あと少しで会える…!」


「うん、待ってるね…体に気をつけて頑張ってね…!無理しないようにね!」


 娘との久々の会話を終えて、寺岡は涙が溢れそうだった。

 そして残された娘のためにも、必ず幸福脳炎を打ち倒すと心に固く誓った。


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