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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

婚約破棄されて修道院に行った侯爵令嬢の話

作者: 白川明

 私の名前はキーラ・イーガン。

 今はただのキーラとだけ呼ばれる。今の私は老境に差し掛かろうとする取り立てて特徴のない、ただの修道女だ。

  

 私には他の誰にも決して話さないことがあった。

 私の娘時代のことだ。


 これは、決して語られることのない私の物語。




「キーラ・イーガン、お前との婚約を破棄する!」


 ジェラルド様は王立学園の卒業パーティーの最中、そのように仰られた。

 私は呆然と壇上に上がるジェラルド様を見上げた。彼は酷く冷たい眼差しで私を見下ろした。

 ジェラルド様はこの国の王位継承権第一位の、いずれこの国を統治されるお方だ。私は彼の婚約者だ。いや、だったのか。


 私は侯爵家に生まれた。

 私の生家であるイーガン家は、王家に縁がある由緒正しい家だ。過去に王家に嫁がれた方が数名いらっしゃったという。当時、私と同程度の家格の家に、ジェラルド様と同年代の娘は私以外にいなかった。それゆえ、私は選ばれた。

 そのような理由であの方の婚約者となった私であったが、幼い頃から、あの方に相応しい淑女になるべく、努力を欠かさなかった。その、つもりだ。

 私の家にも、私自身にも、国王陛下が認められた婚約を取り止めるほどの瑕疵はないはずだ。

 愛されては、いなかった。

 けれどもそれは、さしたる問題ではないはずだ。愛というのは物語の中にだけあるものだ。少なくとも私たち貴族にとっては。


「ジェラルド様、どうしてですか……?」


 だから私は無作法にも、ジェラルド様にそう訊ねてしまった。

 ジェラルド様は、大層ご不快だという顔をされた。特にお名前を私が口にしたときに。


「お前が私の伴侶に相応しくないからに決まっているだろう。私にその汚い顔を見せるな、ーー」


 ジェラルド様が最後に言った言葉を当時の私は知らなかった。周りの、私たちの同級生たちが口元を隠して笑ったのが見えた。

 春を売る者たちのことを指すというのを、私はあとになって知った。

 それでも、私はジェラルド様のお言葉に、その振る舞いに、傷付いたのだと思う。気が動転しただけではなく。

 訳も分からないまま、私はただ一礼して、その場から退出した。


 屋敷に戻った私は、自室の椅子に座り込んだ。寝台に身体を投げ出したい気持ちになったが、そんなはしたないことは出来ない。

 正装から着替えることも出来ず、しばらくそうしていると、侍女が私を呼びに来た。そうしてお父様の執務室に向かった。私がそこに入ることはほとんどない。


「失礼致します。キーラが参りました」


 入れ、と中からお父様の声がした。

 怒っていらっしゃった。

 お父様は机に座り、何か書き物をなされていた。


「殿下から聞いたな」


 室内に入った私に一瞥もくれず、お父様は言った。私はただ、はい、と答えた。


「殿下のご不興を買ったのだ。わかっているな、キーラ?」

「はい……私を修道院に行かせて下さいませ」

「既に手配している。このまま向かえ」

「かしこまりました」


 私は一礼し、お父様の執務室を出た。お父様は一度もこちらを見ることはなかった。


 私は屋敷の外に向かおうとして、お母様にお別れの挨拶をすべきでは、ということに気付いた。しかし、この時間、お母様は愛人と過ごしているはずだ。以前、用事があってお尋ねしたときに、逢瀬を目撃してしまい、お母様に打たれた。お父様には勿論お話ししていない。けれども気付いてはいるのだろう。

 お母様が、愛人とのひとときより、私との最後の別れを優先するとは思えなかった。また打たれるのだろう。

 だから、私は急いで乳母にだけ声を掛け、屋敷を後にした。乳母と執事だけが私の別れを惜しみ、これからの行く末を祈ってくれた。出過ぎた行為なのだろう。それでも私は嬉しかった。



 私は馬車で町外れの女子修道院に向かった。持たされたのは父が書いた書状と、修道院への持参金のみ。

 修道女になってまず始めにしたことは、髪を切ることだった。腰ほどまである豊かな金髪の巻き毛。私はそれほど見目良くはない。しかし髪だけは密かに自慢にしていた。勿論、今では不要の産物だ。他の修道女によって、肩くらいまでの長さにばっさり切られた。切られた髪は私の手元に戻ってくることはなかった。売られ、その代金は誰かの懐に仕舞われた。

 修道院での生活は慣れないことばかりだった。今までと違い、身の回りのことは全て自分でしなければならず、いつ何をするかも決められていた。私はそれまで糸を紡ぐことや刺繍くらいしか手仕事をしたことがなかった。

 修道院には貴族の娘が多かった。当然、私のことを知る者も多い。皆、私を憐れむか蔑んでいた。良い気味だと思う者が大半らしい。高位貴族の醜聞は社交界の格好の話題だが、それは世俗を離れたはずのここでも変わりないらしい。


 修道女には自由な時間はほぼない。けれど、決められた時間と時間にはわずかな隙間がある。私はそんな時間があると、決まって行く場所があった。

 修道院の裏手には森があり、その手前には荒れ果てた畑があった。修道院の敷地内の他の畑は整備されていたが、ここだけは荒れ放題だった。どこか不気味なそこは滅多に人が来なかった。私はそこでだけ息がつけた。

 その日も私は荒れた畑で一息ついていた。ふと、畑の奥、森と接するところに何かがあるのを見つけた。何となく興味を覚え、私は近くに寄った。

 それは朽ち、草に半ば覆われた墓だった。

 修道院内の墓地は別の場所にあった。ここにはその墓だけがあった。

 私は墓石の草を除き、できるだけ綺麗にした。

 深い理由はなかった。どこか哀れに感じていたし、墓の主を勝手に自分と重ねていたような気もする。

 ただ、そうするのが相応しい行為のように思えた。

 銘に書かれた名は薄れ、読めなかった。


「何しているの」


 突然降って沸いた声に私はぎょっとした。小鳥が囀ずるような可憐な声だった。

 振り返ると、若い娘が私をじっと見つめていた。空色の大きな美しく澄んだ瞳で。

 私と同室のアイリスだった。

 私と同年代らしいアイリスは瞳だけではなく、顔の造作も、所作も美しかった。男爵家の出というが、私にはそうは思えなかった。

 年配の修道女ならば説教されるに違いないので、私は少しだけほっとした。


「この方のお墓が荒れていたので」

「墓の主が誰か知っているの?」

「いいえ、お名前もわかりません」


 そう言った私をアイリスはまじまじと見つめた。


「神に見捨てられた女の墓よ」

「そう、なのですか……?」


 敷地の外れとはいえ、ここは神の家の中には違いない。異端者が埋葬されるはずはないのだが。


「馬鹿な子」


 アイリスはそれだけ言うと、去っていった。

 私はただ呆然とした。

 鐘の音が聞こえて我に返り、私は慌てて礼拝堂に向かった。祈りの時間だ。



「あなた、散々陰口叩かれて、悔しくないの?」


 その日の晩、就寝直前にアイリスがそう声を掛けた。彼女とはそれまでほとんど話したことはなかった。

 アイリスは深遠の令嬢めいた容姿に関わらず、物言いは率直だった。むしろ平民のようだった。


「いいえ。私と殿下の婚約が取り止めになったのは事実ですし」

「あなたが淫売だから、破棄されたって本当なの?」


 私がふしだらな女だから、ジェラルド様との婚約が破棄された、ということを修道院の中で皆が噂していた。私に聞こえるように。


「いいえ、誓って私は潔白です」


 その噂がどこから来たのか私には想像も出来なかった。私はどの殿方とも関係を持っていないし、持とうとしたこともない。婚約者がいるのだから、当たり前のことなのに。


「ならそう言えばいいじゃない」

「お伝えしましたが、皆様信じて下さりませんでした」


 アイリスは可愛らしい声で笑った。


「口だけなら何とでも言えるものね」


 腹が立つはずだが、そのとき私は特に何も思わなかった。こちらを見ながら、声を潜めて笑われるよりはまだ良いと思ったからかもしれない。


 気付いたときには、私はアイリスに心を許すようになっていた。何者にも縛られない奔放な彼女は、私とは正反対だった。

 とは言っても、アイリスの振る舞いは傍若無人というほどではなかった。己の意志をほとんど曲げなかったが、そもそもあまり主張をしない娘だった。

 彼女との語らいが窮屈な生活の中で唯一の癒しだった。とは言っても、ほとんど彼女が話し、私は聞く一方だったが。

 私はそのような日々が天に召されるまで続くと思っていた。

 しかし、そうはならなかった。



 ある日、目覚めると、隣の寝台が空だった。祈りの時間にも、食事の時間にも、労働の時間になっても、彼女は現れず、夕べになった。


「アイリスに何があったのですか?」


 私は堪えきれず、先輩の修道女に尋ねた。彼女は私が声を掛けたことに怪訝な顔をしたのち、嘲るような表情と声音で告げた。


「あの娘は王太子殿下と結婚するんだよ。どこかの誰かさんとは違ってきっと貞淑なんだろうよ」




 私だけが知らなかった。

 貴族の娘が修道院に行くのは嫁ぎ先がないからだけではない。嫁ぐ前の行儀見習いとして、行くこともある。私の場合は違ったが、知識としては当然知っていた。気付かなかったのも、アイリス本人に聞かなかったのも、私自身が修道院に来た理由に触れたくなかったからだ。


 私はその日から脱け殻のように何も思うことも考えることなく、日々を過ごした。修道院では決まりに従って生活すればよいため、その点は楽だった。

 

 ジェラルド殿下とアイリスの結婚式の日が近付いてきた。盛大な式になるらしいというのは、そのときの私の耳にも入ってきた。けれども何も感じなかった。事実、私には何の関係もない事柄だ。


 二人の結婚式が行われる日の夜、私は院長に呼び出された。


「王太子妃がお前を呼んでいる。早く行きなさい」


 はい、と返事をしそうになった私はそのとき、ふっと目が覚めたような気になった。


「なぜでしょうか? 私は世を捨てた身です。まして王太子妃様とは何の縁もございません」

 

 同室だった、などは理由になるはずもない。


「知りません。馬車が待っている、早く行きなさい」


 院長にはとりつく島もなかった。

 私は行く選択肢しかなかった。

 修道服のまま、私は向かった。


 馬車に乗るのは修道院に来た日以来だった。行き先はやはり王城だった。


 馬車から降りて、違和感に気付いた。

 静かすぎる。

 今宵、王城では晩餐会が開かれているはずだった。見上げる城には灯りが煌々とついている。しかし、人々の声も、物音もしなかった。


「玉座の間にて、アイリス様がお待ちです」


 御者はそれだけ言うと、馬車で去っていった。

 おかしいことはわかっていた。しかし、帰る手段のない私は、進むしかなかった。


 王城へは父に、あるいは殿下に付いて何度も訪れたことがあった。だから迷うことはなかった。

 玉座の間に辿り着くまで、誰とも出会わなかった。使用人ですら見かけなかった。


 豪奢な扉の前に立つ。本来なら近衛兵がそこを守り、扉の開け閉めを行っていた。私が自分の手で開くしかないようだった。

 私の力で開けられるか、不安に思いつつ、そっと扉に手を添える。すると扉はひとりでに開いた。

 途端、嗅いだこともない匂いがした。鉄臭い何か。

 当時の私は、人はもちろん獣の血の匂いを嗅いだことがなかった。噎せ返るような血の匂いも、嗅いだだけではわからなかった。

 だから、私は目の前に飛び込んできた積み上げられたそれらを見て、固まった。悲鳴を上げなかったのではなく、衝撃で声が出なかったのだと、今ならわかる。

 人間の死体が無造作に積み上げられていた。


「いらっしゃい、キーラ・イーガン」


 鈴を転がすような、場違いな声が降ってきた。それから扉が閉まる音がした。

 私は声のした方をゆっくりと向いた。

 純白だったドレスを真っ赤に染めた女が、玉座に優雅に腰掛けていた。結い上げた髪は濡れたような黒髪だった。自前の空色の瞳を含めて、女は何もかもが美しかった。


「アイリスなの?」

「勿論。他に何に見えるの?」


 私が押し黙ると、アイリスは立ち上がり、こちらにゆっくりと歩みよった。そして私に向かい合う場所に立った。


「あたしに聞きたいことがあるのじゃない? 今なら何でも答えてあげるわ」


 暗に、黙ることは許さない、という意志を感じた。

 私は何か喋らないといけない、と無理矢理口を開いた。


「あなたが、これを、やったの?」


 アイリスは満足げに微笑んだ。正しい問いを発した生徒を見た教師のように。


「そうよ。あたし一人で全部やったわ」

「なぜ……?」

「あたしが聖女で魔女だからよ」



 あたしには生まれつき不思議な力があったの。ある人によると魔力、というものらしいわ。

 あたしはその力で怪我や病を癒すことや、魔物を倒すことが出来たわ。あの頃のあたしは人の役に立ちたくて、自分の力を人々のために使ったわ。いつしかあたしは聖女と呼ばれるようになったの。予言にある、世を救う聖女だと。仰々しくて面映ゆい気持ちだったけれど、気にしないようにしていたわ。それよりも、あたしは自分の力で人々を助けることに熱中したわ。そうね、あの頃は周りのことが見えていなかったの。何より、愚かなことに、人間を信じていたのよ。

 どんなに人のために尽くしても、人は自分とはかけ離れた存在を厭う。いいえ、憎みすらする。加えてあたしのような存在は為政者にとっては、利用できなければ、速やかに排除すべき存在でしかない。

 あたしを魔女だと言い出したのは、当時のこの国の王太子よ。ええ、あなたの元婚約者の父親ね。

 人々は瞬く間に手の平を返した。当然よね。誰も王族には逆らいたくないし、あたしは用が済めばどうなったっていい存在だもの。

 あたしが捕らえられ、斬首されるまでは本当にすぐだったわ。馬鹿なことに、あたしは首を落とされる日の朝まで誰かが助けてくれると信じていたのよ。

 あなた、信じていないという顔をしているわね。首が繋がっているじゃない、と。そうね、あたしは一度死んだわ。でも、ある人と約束をして甦らせて貰ったの。ある人に力を貸す代わりに、ね。

 ある人は誰かって? あなたが知っている呼び方をするなら、そうね、魔王、というのが一番わかりやすいかしら。

 この世を滅ぼす魔物の王よ。

 そう、聖女(あたし)が倒すと予言された存在よ。



「蘇ってからあたしは力を蓄えたわ。そうして、まずはこの国から滅ぼそうとおもったの。あたしを裏切って殺したのだから、まあ順当よね」

「殿下も……」


 私が声を発すると、アイリスは小首を傾げて、「なあに?」と言った。


「殿下もあなたが……」

「ああ、あのぼんくら?」


 アイリスが右手を上げ、下ろすと、何かが私の前にどさりと音を立てて落ちた。

 恐る恐る私は視線を下げる。

 それはボロボロになった婚礼衣装を纏ったジェラルド殿下だった。顔は恐怖にひきつっている。


「これだけまだ殺していないのよ。あなたを待っていたから」


 アイリスは心から嬉しそうに笑った。その笑顔に私は寒気がした。


「あなたはあたしの墓を清めてくれたから、特別に機会をあげるわ」


 アイリスが指を鳴らすと、私の足元に耳障りな音を立てて短剣が現れた。


「それでその男の喉を掻き切ったら、あなたの命は見逃してあげるわ」


 ジェラルド殿下を見下ろすと、這いずるようにして逃げようとしていた。


「ああ、その男の腱は切っておいたわ。それと喧しかったから、舌も抜いておいたわ」


 だから、安心して殺せばいいわ。そう、アイリスは言った。

 私は、彼女の言葉のまま屈んで、短剣を拾い上げた。私には重かったが、使いこなせないほどではなかった。

 私は殿下を見下ろす。殿下は何か言おうとしていたようだが、勿論それは音にはならなかった。

 これは、多分、私に初めて与えられた選択肢だ。

 私はただ、周りに流されるまま生きてきた。いや、そうするしか生きる術がなかった。

 でも、今は違う。私は選ぶことができる。


 私は短剣を両手で持ったまま、ふらふらと殿下に近付いた。殿下は必死に何か言おうとしている。命乞いだろう。

 そうして、私は短剣を思い切り振りかぶった。



「あら、いいの?」

「ええ」


 殿下のすぐ傍に短剣が落ちている。私が投げ捨てたものだ。殿下がほっと安心しているのが見えた。

 アイリスは怪訝そうにこちらを眺めていた。


「本当にいいの? その男はあたしと結婚するためにあなたを捨てたのよ。命も助かって復讐もできるのよ。あなたには得しかないと思うけれど」

「私は、保身で他人を犠牲にするような人間にはなりたくありません。ましてかつて婚約者であった方を」


 アイリスは一瞬目を丸くしたのち、笑った。


「馬鹿な子ね」


 彼女が手を上げる。私は目を瞑り、腕を組んだ。祈ろうと思ったが、祈りの文句は一つも浮かばなかった。ただ恐怖だけを感じた。


 何かが潰れる音がした。

 しかし、私は何も感じなかった。死ぬときは痛みを感じないものだろうかと私は思った。

 私はそっと目を開けた。


 すると、真っ赤な何かが目に飛び込んできた。まじまじと見てしまってから、それが潰された殿下の頭部だとわかり、酸っぱいものが込み上げてきた。が、なんとか堪えられた。


「興ざめだわ」


 アイリスは背を向け、片手をひらひらと降った。すると、私の背後で扉が開く音がした。


「あたしの気が変わらないうちにとっととお行きなさいな」




 そのあとの私の記憶は曖昧だ。

 修道院に一度立ち寄った気もするし、そうではない気もする。

 国は彼女によって滅ぼされた。私は隣国に逃げ延びていた。

 それからしばらく私は各地をさ迷った。物乞いもした。

 とある国の修道院に置いて貰えることが出来たのは、私に最後に残った幸運だった。

 それ以後、私はずっとその修道院にいる。




「ついに帝都が落とされたそうです」


 朝の祈りが終わったとき、院長がそう言った。

 皆が、声を上げる。おお神よ、我らを見捨てたもうたか。

 これで、人間の国の大半が魔王の手に落ちたことになる。

 意外ともったものだと、私は心の中でだけ思った。


「予言の聖女は現れないのでしょうか」


 隣の修道女が悲嘆にくれた声で言う。

 私は何も言わず、祈るふりをした。


 この世界はもうすぐ魔王と魔女ーーかつての聖女に滅ぼされる。しかし私はそれを語らない。私が、私の物語を語らないように。


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― 新着の感想 ―
[一言] なるほどなぁ…。 なるほどなぁ…と思わせるこわい話でした。 こわいのは誰なのかな…と感じさせる話でしたね。血腥いはずなのに、思い出だからなのか、どこか乾いた味わいのある話でした。 最後がまた…
[良い点] この有終の破滅美がたまらなく良い。クールだ。どんどんこういう作品を読みたい!
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