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キュプロ・ミノア文字(III. 観光誘致の円筒型印章)

作者: 板堂研究所(Bando Research Corporation)

 ここで取り上げるのは、1967年、古代キプロスのエンコミ(Famagustaの近く)から発見された円筒型の粘土製印章(19.10番)。キュプロ・ミノア文字が、周囲に27行、刻印されている。J.チャドウィックの「線文字B 古代地中海の諸文字」(細井敦子訳。学芸書林。1996年)に、イラスト(図32)があり、「CREWS Display: A Cypro-Minoan Clay Ball」で検索すると、Silvia Ferraraによる写真が掲載されている。

 印章の文字列に関し、オランダの研究者、Fred C.Woudhuizen は、ネット論文「The Language of Linear C and Linear D from Cyprus」(2017年)の中で、Emilia Massonによる、全27行の模写を転載。また「Luwian Studies 914 Cypro-Minoan Syllabary」で検索すると、10~16行目が掲載されている。

 去年、三鷹の中近東文化センターの図書館で、パリの「ALASIA考古学ミッション」編纂による「ALASIA 第4巻」(1971年)の中に E. Massonの関係論文を発見したので、そこに大きく掲載された、印章の文字列(模写)と照合しつつ、それまで作成していた日本語訳を再度、見直し、次の通りの成果が得られたので御報告する。


 I. 音価の解明


 解読に当たり、筆者は、キュプロ・ミノア文字の50音表(地球ことば村の「世界の文字」・「キュプロ・ミノア文字」)を基本とし、音価不明の記号について、キプロス音節文字の50音表(同「世界の文字」の「キュプロス文字」)、また線文字A・Bの類似記号の音価(同「世界の文字」・「線文字B」の50音表等)を参考にしつつ、次の通り、音価を当てはめた。


 1.特定記号に、縦棒ないし横棒が、一本余計にある場合、記号の本来の音価に、SIないしYAを加え、二本余計にある場合、NIを加える。


 2.「W」の下部で、折り返す二点のすぐ下に、「・」が両目の様に打ってある記号は、MA。 


 3.「S」状に曲がる縦棒を基本とする記号に関し、上の突端から右側に、短い縦棒が降りている場合、YA/SI。上の突端から右側に、少し離れて短い縦棒が打ってある場合、NO。形状と音価から、ヤシの木を模した合成記号だろう。


 4.「ロ」の記号は、キプロス音節文字に準じLU。あるいは四辺に因み、YO。


 5.「V」の下に、皿の様な短い横棒があり、また右上の突端から、短い横棒が垂れ下がっている場合、線文字Aの類似記号(AB65)に準じて、YU。


 6. 3行目や 8行目にて、キュプロ・ミノア文字の「A」の上部中央の「籠」の中に、短い縦棒が本来の1本でなく、2本ある記号が登場するところ、合成記号で ANI/ARA/ASI/AYAと読み換え可能だが、ここでは古代キプロスの呼称であるALASIYA (アラシヤ)の省略形と解釈する。これを基本形とし、加えて、上部中央の「籠」の左下に突起のある記号(4行目)は「アラシヤし」、下に支えの様な横棒のひかれた記号(5行目、25行目、27行目)は「のアラシヤ」と読んだ。



 II. ローマ字変換と日本語解釈



 各行毎にローマ字変換して、左から右へ読み、日本語として解釈すれば、次の通り。各行で()内は、右から左へ読んだ場合。なお冒頭の2行に関し、音価の解説を入れた。キュプロ・ミノア文字の50音表を基本とする。


1.   E MI/YU SI-RU/SI-NU TI YA TI


 笑み 許しぬ/油脂塗る 地。ヤシ

(地ヤシで塗りし、弓/夢の絵)


(解説)左から右へ(1)から(6)まで記号に番号を振れば、


(1)キュプロ・ミノア文字のE。

(2) MIと線文字AのJU(AB65)の合成記号。

(3)キプロス音節文字で、RU+短い縦棒SI、あるいはNU+長い縦棒SI。

(4)TI。

(5)YA。

(6)TI。


2.  MO/(MO-ISA-NAI)/(NI-SAN-YA) SA/YA‘ SA NANI/NARA YUMI/NOYUYA TI NO I/HI


  も誘いさ/優しいさ。そんなに言う、湯道の碑。

  (命/ヒノキの湯浴みなら、さあさ、兄さんや)


(解説)左から右へ(1)から(8)まで記号に番号を振れば、


(1)MO(田)の左側(SA)の縦棒(I)がない、あるいは2×(3矢)と考える。

(2)SA。矢の形に整えている。

(3)同上。

(4)NA+縦棒2本。

(5)YU+右側に横棒3本。右側にNOの字が隠れている。

(6)TI。

(7)NO。

(8)I。



3.  TE NO MA LI KI NO TI NO ALASIYA


 天の 万力/魔力 、木の地のアラシヤ

(アラシヤの地の霧は、魔の 手)


4.  A ? ? ‘ KA-SI PA ALASIYA-SI RO


 A ……樫の葉の、アラシヤを知ろう

(下ろし。アラシヤは、しか……)


5.   TI NO ? ? YO/LU  NO-ALASIYA ‘


 地の  ……夜のアラシヤ。

(アラシヤの夜……の地)


6.  A-LA SI-YA NE(?) PA YA/NO TI NO PA NO


 嵐の屋根は、八千の葉の、ノアの

(ノアの地の矢は、根ヤシ。嵐)


7.  TIYA/TISI TO NO ‘ PA NO SU MA SI


 地ヤシとの由。ノアの 住まし

(待つのは、喉地)


8.  TI NO SA/YA NO ISI KA ‘ ALASIYA NO


 地のサヤの 石か。アラシヤの

(のアラシヤ、樫の産地)


9.  SA NA-NI/RA YU-SA TI NO LI MOYA KA/TIYASI

 

 そんなに言う、幸の里は、もやか。

(地ヤシも、森の治癒さ。ならさ、)


10.  YO/LU NO SA/TA YU/MI KA ‘ KOYOI IKOYO


 夜 の 沙汰、夢か。今宵、行こうよ

(行こうよ、今宵。痒み沙汰の夜)


11.  RO SI-YA E LI YO/LU TE KO NO E


 よろしや、遠慮。夜で この宴/縁。

(あの子出るよ、梨園の社)


12.  KO NO HI SI/NO TI I-KO KAYA YA


 この日、菱の地 行こうかや。

(牢屋、かや。濃い地/恋しいの、火の粉)


13.  TI NO SA/TA LI JU TO PA KO


 八千の沙汰 (が)理由の、賭博。

  (ここはと、遊里。揺れ沙汰の地)


14.  SE YATI/KA YUMI MO KA TI SA/TA


 せやし、弓(三日月)/夢も 勝ちさ/たいさ。

(幸かも、弓か。勝ち/徒歩せん)


15.  YU/MI  KA ‘ SE (ENE) RO SI-(NU/RU)


 弓(三日月)/ 夢か。仕方ない、遠路しぬるか。 

(死ぬる路、遠征。痒み)


16.  KA YO/LU SI-NU KA+(YA/SI)YA KA SI-(NU/RU)


 夜、死ぬ。蚊帳、貸しや。貸しぬ。蚊で、死ぬるや。

(知るか? 蚊帳、貸しぬ。夜か)


17.  YA SA/TA YU/MI KA MINI/NIYU KO TO (?)


 そうだ、夢/弓(三日月)か。神にこと……

(床にいるか、痒み沙汰や) 


18. KO PA I/SI-ALASIYA TI MA NI/II I RUSI/NUSI


 乾杯! アラシヤの島に居るし、

(ヤシ塗る日。良い町アラシヤ氏、パコ!) 


19.  KA/TISI A RO TO ‘  I-YO KO


 勝ち氏なろうと。「ヒヨコ

(今宵や、灯篭明し)


20.  RO TI NO MO RO NO YU-NO/MI TI


 殺し」飲もう、もうろうの湯を飲みし。

  (湯を呑み、のろまの徴)


21.  YA TE KO NO SU KA SA/TA TI


 やって行こう、「鴻巣」(クノッソス)か、さて

(ちっとはさ、貸すので、残って)


22.  LI-KO/KA-I LO KO-I-YA SA/TA A-SI(?) TI


 チリコロ、来いや。沙汰無し……ちっ

(やって……明日、最後や。やろうかい)  


23.  (FU) YU KA ‘ DASE (EI)(I/RO)TI


 不愉快。出せ、エイ! イチ

(散ろう。エイ、出せ。いかん、言う) 


24.  KORO/KA TA/SA ALASIYA-NO TE MIYA PA MA RANA/NANI


 コロだ。アラシヤの手、見や。はまるな、

(何? まあ、やめて。アラシヤの沙汰) 


25.  TI (RU/NU)+SI YA SA YO/LU NO-ALASIYA ‘  TE LO


 散財するし。主や、去るよ。夜のアラシヤの天路。

(軽くて。アラシヤの夜さ、ヤシ塗る地)


26.  SA NARA YUMI/NOYUYA TI YA TINO SAN-NO/SI


 さようなら、夢の湯屋、地ヤシ の産地

(資産や地のヤシ、湯屋の夢ならさ)


27.  YA/ NISAN KA NUSI /RUSI YA/ NISAN SA LU/YO NO-ALASIYA


 や。「兄さん」か、死ぬや。軽しや、兄さん。去る夜の、アラシヤ。

(アラシヤの夜、さよう。知る/死ぬかや) 



 III. 日本語訳の整理


 以上の日本語訳を整理すれば、次の通り。


(左から右へ)


 1.笑み許しぬ、油脂塗る 地、 ヤシ

 2.も誘いさ/優しいさ。そんなに言う、湯道の碑。

 3.天の 万力/魔力 、樹木の地のアラシヤ

 4.A ? ? 樫の葉の、アラシヤを知ろう

 5.地の  ? ? 夜のアラシヤ。

 6.嵐の屋根は、八千の葉の、ノアの

 7.地ヤシとの由。ノアの 住まし

 8.地のサヤの石か。アラシヤの 

 9.そんなに言う、幸の里は、もやか。

 10.夜 の 沙汰は、夢か。今宵、行こうよ。

 11.よろしや、遠慮。夜でこの宴/縁。 

 12.この日、菱の地 行こうかや。

 13.八千の沙汰 (が)理由の、賭博。

 14.そうだし、弓(三日月)は勝ちさ。夢も勝ちたいさ。

 15.弓(三日月)/夢か。仕方ない、遠路しぬるか。  

 16.夜、死ぬ。蚊帳、貸しや。貸しぬ。蚊で、死ぬるや。

 17.そうだ、夢/弓(三日月)か。神にこと……

 18.乾杯! アラシヤの島に居るし、

 19.勝ち氏ならんと。「ヒヨコ

 20.殺し」飲もう、もうろうの湯を飲みし。

 21.やって行こう、「鴻巣」(クノッソス。一種のボード・ゲーム)か。さて

 22.チリコロ、来いや。沙汰無し……ちっ、

 23.不愉快。出せ、エイ! イチ

 24.コロだ。アラシヤの手、見や。はまるな、

 25.散財するし。主や、去るよ。夜のアラシヤの天路。

 26.さようなら、夢の湯屋、地ヤシ の産地

 27.や。「兄さん」か、死ぬや。軽しや、兄さん。去る夜の、アラシヤ。



(右から左へ)


 1.地ヤシで塗りし、弓/夢の絵。

 2.命/ヒノキの湯浴みなら、さあさ、兄さんや。

 3.アラシヤの地の霧は、魔の手を

 4.下ろし。アラシヤは、しか ? ? ? ?

 5.アラシヤの夜 ? ? の地

 6.ノアの地の矢は、根ヤシ。嵐

 7.待つのは、喉地

 8.のアラシヤ、樫の産地。

 9. 地ヤシも、森の治癒さ。ならさ、

 10.行こうよ、今宵。痒み沙汰の夜。

 11.あの子出るよ、梨園の社。

 12.牢屋、かや。濃い地/恋しいの、火の粉。

 13.ここはと、遊里。揺れ沙汰の地。

 14.幸かも、三日月か。勝ちに出よう、歩いて

 15.死ぬる路、遠征だ。痒みを

 16.感じるか? 蚊帳、貸しぬ。夜か。

 17.床にいるか、痒み沙汰や。

 18.ヤシ塗る日。良い町アラシヤ氏、パコ!

 19.今宵は、灯篭明し。

 20.湯を呑み、のろまの徴。

 21.ちっとはさ、貸すので、残って

 22.やって……明日、最後や。やろうかい。 

 23.散ろう。エイ、出せ! いかん、言う   

 24.何? まあ、やめて。アラシヤの沙汰

 25.軽くて。アラシヤの夜さ、ヤシ塗る地。

 26.資産や地ヤシ、湯屋の夢ならさ。 

 27.アラシヤの夜、さようなら。知る/死ぬかや。



 IV. 解説



 この印章では、2行目の通り「湯道の碑」として、アラシヤの魅力を紹介しており、次の通り。


 1.冒頭


 1行目は、右から左へ「地ヤシで塗りし、弓/夢の絵」と読めるが、キプロスの北西、パフォス地方の北部には、弓形の海岸線が認められる。

 然るに2行目に「湯道」、「湯浴み」と記され、また9行目(右から左)に森林浴が示唆されている事を踏まえ、ネットで調べると、キプロスには、古代から硫黄泉で知られた、Kalopanayiotisの温泉地があり、「弓形の海岸線」の南方、森林に覆われた丘陵・山岳地帯に確認できるので、有力な候補地だろう。



 2.「木の地」(樹木の豊かな土地)(3行目、左から)と表現し、木の種類につき解説している。 


「ヤシ」(1行目、左から):「根ヤシ」(6行目、右から)とも表現。


「ヒノキ」(2行目、右から):語源が「火おこしの木」と言われる。


「樫」(4行目、左から):3回登場するが、キプロスでは3種類の樫の木が自生する。特に常緑のGolden Oakが有名で、国の保護下にあり、島の輪郭から「樫の葉形のアラシヤ」(4行目、左から)が成立するだろう。


「地ヤシ」(7行目、左から):6-8行目(左から)では「嵐の屋根は、八千の葉の、ノアの地ヤシ」、「サヤの石か」とし、26行目(右から)では「資産」としているので、木の形状や、食用になるサヤ豆の特徴的な、イナゴマメと推定される。


 以上から、この印章は「木の地」アラシヤに因み、木の切り株を模して円筒形にしたのだろう。 



 3.「ノア」は、「ノアの箱舟」で有名な、旧約聖書の登場人物だろう。キプロスでは、復活祭の50日後の初夏に、カタクリスモス(大洪水)の祭日があり、中でもラルナカの祝賀行事が盛大。その理由は、ラルナカは、古代のキティオンの跡地にあるが、伝説上、キティオンは、ノアの子孫のキッティム(Kittim)が建設した由。


 4.「鴻巣」(21行目、左から)は、クレタ島・クノッソス宮殿の様に「中庭」を中心に、多数のスロットに分かれた盤を使うゲームだろう。

 ルーレットの類ならば、カゴの中でサイコロ等を回転させ、混ぜた後、出て来た目の数に従い、ゲーム盤上の当たりが決まる。22行目の「チリコロ」は、カゴの回転する音だろう。ゲーム盤の特定箇所に自分のコマを置いた上、結果を待つルールと見られる。

 円筒形の印章は、このゲーム用のカゴを模していよう。因みにエンコミ等の遺跡から、キュプロ・ミノア文字の刻まれた、粘土製の小さな玉(直径1.8~2.0cm)が多数発見されており、紀元前14世紀から11世紀のものと推定されている。用途不明だが、カゴの中で回転させた玉かも知れない。


(参考)英国ケンブリッジ大学の研究者P.スチール(Philippa Steele)のネット論文「The Mystery of ancient Cypriot clay balls」。


 5.語尾に「や」の付く単語が多いが、まるで関西弁の様に強調形と理解すると、意味が通る。例えば「せやし」⇒「そうだし」の意味で、「やし」は、ヤシ(椰子)の掛け言葉。なおキプロス音節文字の刻まれた、アマサスの石板(ICS194)でも「や」が多用されている。

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