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七色の輝きに満ちて  作者: 鏡桜 久音
―― 序章 忘れられた土地 ~最果ての島の日常~ ――
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◆ 欠片其のⅣ:身の振り方 ◆

 兄が神殿に続く道に消えて行くのを見送ったエメラは、男に視線を下げる。


木に座らせるようにされた外套の男は、うなだれるように目を閉じ意識を失っている。


ボサボサの髪と伸びた髭で分かりにくいが、おそらく年齢は25歳くらいだろう。けれど、汚れた服や肌のせいでそれよりも老けて見える。


周囲への警戒を解くことなく、エメラは男の様子を見守った。


大きな怪我はないようだが、かなり衰弱しているようだ。


アギスビットが男の傍らに座り込み、男の顔を見上げている。


アギスビットは比較的人懐っこい性格だが、この子は特別人に懐きやすいようだ。


しばらくすると、兄が向かった神殿とは違う方向から見知った人物が歩いてきた。いつもコイズに稽古をつけてくれたりウチに食材をくれたりと、何かと面倒を見てくれるゲンマおじさんだ。


右脇に薪の束を抱えていた。薪取りの帰りなのだろう。


「どうしたエメラ、こんな所で?」


「ゲンマおじさん!」


エメラに気づいたゲンマは、いつもの調子で声をかけた。


「こいつは何だ。」


同時に木にもたれかからせていた男にも気付いていたようで、エメラに訊ねた。


エメラが事の経緯を説明すると、そうかと一言呟いて未だ目覚めない男を一瞥した。


少し遅れて数人の里人がぞろぞろとゲンマが来たのと同じ道からやって来た。みんなエメラが子供の頃から知っている村の男衆だ。


シェプリーフの里では薪に使う森の木を採ってくるのは男たちの仕事なのだ。


「ん?エメラか。どうしたんだ?」


「ゲンさん、何かあったか?」


エメラの姿を確認した男衆は何だ何だと心配混じりにざわめいた。


エメラに代わって、ゲンマがさっき聞いた話を男衆に説明する。


「――…というわけだ。俺はコイツを背負って戻るから、お前らは薪持って先帰ってろ。エメラも、一緒に帰るぞ。コイズには何か残しとけ。」


ゲンマはシェプリーフの里のリーダー的存在だ。里長が不在の里をまとめるのも、信頼を置かれていたゲンマが任されている。


男衆はゲンマの指示に頷き、里への道を歩いて行った。


指示を出し終えたゲンマは、首に掛けていた手拭いをエメラに渡す。


ゲンマの提案を受けて一緒に里に戻ることにしたエメラは、コイズ宛のメッセージを手拭いに書いて側の木に結び付けた。


ゲンマは男を背負うと、里への道を歩き出した。エメラは懐いてしまったアギスビットを抱えて、ゲンマの後ろについて歩く。



 ――◇――◇――◇――◇――◇――◇――◇――



 里に着くとゲンマは家まで男を運んでくれた。


男の纏っている外套を脱がせて持ち物と一緒にテーブルの上に置いた。


ゴチャン。


金属製の武具でも入れているのか、麻の袋が鈍い音を立てた。軽い鎖の音が混じるその袋は妙に分厚い。


「こいつはどうするんだ?」


「すみません、そこにある兄のベッドにお願いします。」


エメラはそう言って、ゲンマに男を1階にあるコイズのベットに寝かせてもらった。


「それで?」


「何ですか?」


「これから、どうするつもりだ?」


ゲンマは真っ直ぐにエメラを見る。何かを試すような、確かめるような真剣な眼差しだ。


「とりあえず、熱が下がって体力が回復するまでは……。その後は…わかりません。」


エメラは正直に答える。


「今はそれでも構わねえが、身の振り方ってのはしっかり考えておいた方がいい。それこそ、先の先まで。…大事なモンを、守りてぇならな」


ゲンマはそう言ってエメラの頭に手を乗せると、またなと玄関の扉を開ける。


 ゲンマを送り出したエメラは、男の様子を見守りつつ兄の帰りを待つ。


途中、医者が訪ねて来て男の診察をしてくれた。念のためにとゲンマが呼んでくれたようだ。


エメラが看た通り、大きな怪我はなく衰弱しているだけのようだ。疲労と栄養失調であるとのことから、疲労回復の効果を持つ薬と栄養剤の注射をしてくれた。熱があがるだろうと言われたので、氷水とタオルを用意しておいた。


そうして、兄が神殿から帰ってくるまでの間何が起きても対処できるように準備を整える。


やがて熱があがったのか、更に男の呼吸が激しく乱れ始めた。


すると、何やらボソボソと声が聞こえる。


その声の主が男のものであることにエメラはすぐに気がついた。


ここには他に声を発する者はいないのだから――。


熱のせいでうなされているのだろう。


エメラは気になって耳を澄ませてみた。


「な…ぜ……メ…スまない……よせ……めろ…許して…くれ……た、の…む…止めてくれ」


そんな呟きを最後に男のうわ言はおさまった。


 熱によって無意識に紡がれた途切れ途切れの言葉の意味など、エメラにわかるはずもない。


ただ、男が何か込み入った事情を持っているのは確かだ。


「今のは一体…?」


一抹の不安を抱いたエメラはよくないことが起きる気がした。


けれど自分の勘は大抵外れる。そう思い直して、一応頭の片隅に置いておくことにする。


 男の熱も少しおさまり手持無沙汰になったエメラは、本を読みながら兄の帰りを待つことにした。


ここまで読んでくださりありがとうございます。


よければ評価、ブックマークよろしくお願いします。

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