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七色の輝きに満ちて  作者: 鏡桜 久音
―― 序章 忘れられた土地 ~最果ての島の日常~ ――
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◆ 欠片其のⅢ:森の猛者 ◆

倒れていたのは成人男性だった。汚れたボロボロの外套を身に纏い、おそらく2、3ヶ月は整えられていないであろう髭を生やしている。フードの隙間から覗く赤みがかった髪は見るからにボサボサである。


コイズは男の鼻と口を覆うように、数センチのところまで自分の手の平を近づけた。


確認してみると呼吸はしているようだ。


そのまま放って置くこともできないが、ここまで来ると 調査は今日中に済ませてしまいたい。


時刻は昼過ぎ。


日が落ちてしまうと、清浄な空気を漂わせるこの森もさすがに真っ暗になる。


「しょうがない、残るか。」


「そうだな。俺が一人でざっと探して来るよ。」


エメラは腕を腰に当てて息をつくように言ったが、私も神殿に行きたかったけど…と名残惜しそうにブツブツと呟く。


そうして、エメラはそのまま男の介抱を、コイズは一人で目的を果たしに行くことになった。


コイズは男を背負って元の道まで戻った。


「お前も二人を見ててくれよ。」


コイズはエメラの腕に大人しく納まっているアギスビットを撫でながら言った。


アギスビットはただの小動物だ。魔物が襲ってきたところで、逃げる以外の術はない。それでも、行き倒れた男を見つけた立役者なので、無意識に称賛する気持ちが現れた言葉でもあった。


コイズはエメラの姿が見えなくなるまで、何度も振り返りながら神殿に向かった。



 ――◇――◇――◇――◇――◇――◇――◇――



道なりに真っ直ぐ歩いて行くと、木々の隙間から古びた神殿がちらちら見えて来た。


何事もなく到着しそうだと思った時、木々深い森の奥からガササッと音が聞こえた。


訝しみながらも音がする方を覗き見ると、50m程奥の草木が小刻みに揺れていた。


また、何かの動物だろうかと、草木の揺れを目で追った。家でよぎった嫌な予感がコイズの胸を叩くのを感じつつ、コイズは近づいて来る草木を凝視する。


40m、38、36、34m…。


以外と速いな…、パイルービーか?


コイズはその速さから、跳ねるように軽やかに駆けるパイルービーの姿が頭をよぎった。けれど、パイルービーは拓けた場所が近くにある所にしかいない。森というより林に生息している魔物だ。魔物といっても、人に危害を加えることがない穏やかな性格をしている。そのため生物学的には魔物だが、コイズ達のパイルービーへの認識は動物である。


 30mを過ぎた辺りで、コイズは何が近づいて来ているのかを予測できた。まだはっきりした姿が見えるわけではないが、あのシルエットはこの島に『アイツ』しかいないのだ。


「ヴィェアアアァァァ…!」


コイズの目の前の草木が揺れた瞬間、テベルヴィアの顔が突然現れ勢いよく飛び出して来た。


しかし、完全に我を失っているわけではないらしく、コイズの前に着地すると威嚇のような声をあげた。


コイズに向かって歯を剥き出しにして唸っている。


いけるかもしれない…!


我を忘れた完全な凶暴化ではないなら、逃げ切るチャンスは残っている。


コイズはゆっくりと慎重に右足を引いた。砂の道がかすかにジャリッという音を立てる。


人の耳に届くか届かないかという程の小さな音も、テベルヴィアの気に障るのではないかという緊張で鼓動が跳ねる。


完全に消し去ることのできないかすかな音を憎らしく感じながら、コイズはゆっくりと足を地面につける。


緊迫した沈黙の時が流れる。テベルヴィアは唸り続けたままコイズを見つめている。


1m程だった距離が徐々に広がっていく。


「うぁ…っ!!」


その時、コイズはバランスを崩してしまった。


しまった…!


視界が激しくぶれたかと思うと、尻に強い衝撃が走る。


ハッとしたコイズはテベルヴィアを見る。


歯ぎしりしながら唸っていたテベルヴィアは口元が開いていた。


態勢がテベルヴィアより下になってしまい、今までよりも大きくなった迫力と威圧を感じた。


気圧されてしまったコイズは、咄嗟に側に落ちていた木の枝を掴んだ。


妙に軽い。


そう思う間もなく、テベルヴィアに向かってそれを構える。


しかし…


「って、みじかっ…!」


コイズが手にした枝は求めた長さの半分もない。


ペンよりは長く短剣より短い。そう、ちょうどお箸くらいの長さと細さだ。


そもそも刃すらまともに通らないテベルヴィアには、木の枝など何の役にも立ちはしない。


そしてこの直後、動揺したコイズはやってはいけない“うっかりミス”をやらかしてしまうことになる。


「なんだよ、もう!」


役に立つかこんな物!と、手にした枝を放り投げた。


投げること事態は問題ではない。問題は投げた方向…


コイズは苛立ちに任せて、枝を前方に投げたのだ。


そう、テベルヴィアがいる方向に…。


「ガグァギャアアアァァァ…!」


木の枝はテベルヴィアの前足の側に落ちて跳ねた。


木の枝に驚いたテベルヴィアは、興奮状態が限界に達し、ついに完全に凶暴化してしまった。


「のわぁあぁあぁぁー~っ!」


テベルヴィアの雄叫びと同時に、コイズは全速力で逃げるのだった。


ここまで読んでくださりありがとうございます。

テベルヴィアに遭遇したコイズ。一体どうなるのでしょうかね?


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