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七色の輝きに満ちて  作者: 鏡桜 久音
―― 序章 忘れられた土地 ~最果ての島の日常~ ――
1/20

――プロローグ――


彼は走っていた。


欲を偽りで着飾ったこの国から、真実を取り戻すために。


母が残した形見を手にして、真実を宿す一族の隠れ里を探し出すために。


自分がサフィー・ルセネレスでなければ、知ることはなかったという使命感が彼を突き動かしていた。


唯一の心残りは、幾ばくか年の離れた弟のことである。


子どもの頃からずっと慕ってくれていただけに、何も告げずに置いていってしまうのは気が引けた。


自分が知った真実を教えても、この国の闇を話しても、自分の置かれた状況を伝えても、あの子ならきっと、自分を信じ支えようとしてくれるだろう。


この身に何が起ころうと、この世で一番の、そして唯一の味方になってくれるに違いないのだ。


走る速度を落とすことなく、自分が去った後の弟の姿を脳裏に浮かべる。


半分怒り半分心配し、置き去りにされた悲しみが入り交じったなんともいえない表情。


そして、大人になる少し前の少年少女特有の気恥ずかしさからか、少し顔を俯かせるのだ。


そんな弟が容易に想像できる。


生まれた時から共に過ごしてきたのだから。


けれど、大事な弟を危険なことに巻き込むわけにはいかない。


これから自分はこの国の…、いや、もしかしたらこの世界の闇と戦うことになる。


たった一人の大切な家族だ。弟には幸せに生きてほしい。何も知らずに何も背負うことなく、笑っていてほしい。その幸福がずっと続くように、弟を脅かすかもしれないモノは俺がすべて消し去ってやる。


振り返って追っ手を確認する余裕もなく、彼は広い通りを駆け抜ける。


大通りが交差する場所に差し掛かった時、左右の道から別の追っ手が道を塞いだ。


距離にして約5m。


さらに、後ろの方からも迫る追っ手の姿。


これまでか…!


「うっ…」


「ぐぁ」


そう思った瞬間、追っ手の背後でドサリドサリという鈍い音がした。


視線とともにその場にいた全員の意識が音のした方に注がれる。


「よお、サフ! 中々ピンチみたいじゃん? 一人で全部抱えようなんて水くさいことするからだぞぉ!っと!」


「まったく、今回ばかりはコイツと同感! 俺たちくらいは頼れよな、サフっ!」


「レビィ! ドット!」


サフィーに不満をぶつける声が聞こえた。


誰にわからずともサフィーにはわかる。


自分をサフという愛称で呼ぶのは、昔からの旧友二人だけだ。

いや、悪友と呼ぶべきか。


二人の悪戯や悪巧みに付き合わされた挙げ句、その尻拭いはほとんど自分がやっていたのだから。


サフィーのいた地区で一番強かったのが、レビィだった。


レビィは年の割に小さい子供だったが、体格の差をものともせずに取っ組み合いの喧嘩に突っ込んでいた。隣の地区の年上のガキ大将との喧嘩にも、中型の動物にも負けたことがないくらいだ。

そんなレビィの右腕的存在がドットだった。


ドットは要領がよく、器用に立ち回りレビィを助けていた。


レビィの行き当たりばったりな行動も、その先の展開まで予想して対応していた策士だ。


〝お前も逃げるぞ!〟


そう言っていつも首根っこを捕まれ、サフィーは二人に引きずり回されていた。


そして何故かいつもサフィーだけが大人たちにこっぴどく叱られるのだ。一度、無実の弟までも叱られて大泣きしていた時は、さすがに怒りが爆発したこともある。


特に運命的な出会いというわけでもなかったはずなのだが、なぜかサフィーはこの二人に気に入られていつも何かに巻き込まれていた。


よく付き合っていられたよなと自分でも思う。


 そんな二人がどこかからサフィーの事情を嗅ぎ付け加勢に来てくれたのだ。


レビィの勘とドットの頭脳なら不思議なことではない。


二人は喧嘩慣れした動きで追っ手を蹴散らしていく。


我が悪友ながら頼もしい。


「ほら、行けサフ‼」


その光景に足を止めていたサフィーに、ドットの声が届いた。


ドットは素早い動きで攻撃をかわしながら、早くしろと視線を送る。


多勢に無勢ではあるものの、二人は追っ手を左右に追いやっていた。


相変わらず、コンビネーションばっちりだ。


真ん中がポッカリ空いて、真っ直ぐ進む道が先まで見える。


「ありがとう!」


二人の頼もしい背に向かって叫びながら、サフィーは駆け出した。


「死ぬなよ。」


通り抜けたサフィーに、レビィが一言告げる。


口元をニヤリとさせるその顔は、企みを思いついた時と変わらない悪戯小僧のそれだった。


「そっちもな!」


サフィーは一瞬だけ立ち止まって、レビィと視線を会わせるとニヤリと返す。


そして、二人の助けを素直に受け取り、再び走り出すのだった。





何とか国を脱したサフィーは、自分が生まれ育った国を初めて外から見た。


それはまるで、国全体が虹に包まれているかのようだった。


虹色に彩られた光の輝きを放つこの美しい光景を彼は忘れることはないだろう。


そして、この美しい輝きが真実のものに変わる瞬間を願いながら、サフィーはセプンステルを目に焼き付けた。



こうして、真実に向かう運命の歯車が回り始める―――。




 ――◇――◇――◇――◇――◇――◇――◇――




奇跡の国のセプンステル



世界の中心に成るその国は



光輝く神秘の国



夢に溢れたその国は



自由で素敵な楽しい国



ただ一つの魔法を宿すその国は



物に恵まれた豊かな国



幸福に満ちたその国は



愛に溢れた美しい国



見知らぬ土地のある場所に



愛を捨てた一人の男



男は望む



全てを己の意のままに



集めた手下と奇跡の国を奪わんと



激しい戦の狼煙をあげる



戦禍に落ちた奇跡の国は



ただ一つの魔法を守るため



秘密の場所に魔法を封じた



世界に鍵を散りばめて



奇跡の国の輝きは



魂持たぬ光のみ



奇跡の国の愛し子は



世界の小さな片隅で



真実放つ時を待つ



再び起こる奇跡の輝き



来たるその日をただ信じ―――。



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