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【異世界恋愛2】独立した短編・中編・長編

【コミカライズ】旦那様、それは殺意とどう違うのですか?

 よくある「王命による結婚」というもので、私と彼の間に、愛などあろうはずもなかったのだ。


 * * *


「お嬢様、何もいま発たなくても良いではありませんか。婚礼衣装の片付けすら済んでいないというのに」


 生家から嫁ぎ先までついてきた侍女のメアリが、脱ぎ捨てられたドレスを拾い上げながら、不満を隠さぬ怒り口調で言う。


(怒っているなぁ。よほど母上から言い含められてきたんだろう。必ずや初夜まで見届けるように、と)


 すでに純白の婚礼衣装は脱ぎ捨て、その下の複雑怪奇なレースに彩られた下着も外し、代わりに遠征用の耐久値と防御力に特化した装備をすっかり身につけたシエナは、後ろ髪を手早く一本に結い上げつつ答えた。


「そうは言っても、旦那様は無理がたたって熱を出してしまわれたということで、結局今日は起き上がってこれなかっただろう。まさかメアリは、私に妻強権を行使し、寝込んでいる旦那様を襲いに行けとでも言っているのか? もし私が男で旦那様が女だった場合、『いいから足を開け、抱かせろ』などと高熱に浮かされているにもかかわらず迫ったと人様に知れたら、人でなしの悪評がとどまるとこを知らないぞ?」


 くるりとシエナが振り返ったときには、すでに鎖帷子まで身につけた、戦士の姿となっていた。

 シエナの母親と同年代のメアリは、眉間の皺がなおいっそう深くなりそうなほど眉を寄せ、「お嬢様」と苛立った口調でシエナを呼ぶ。


「せめて寝所に侍り、お加減がよくなるまで看病の真似事でもなさったらどうなんです。そのくらいなら、お嬢様にもおできになるでしょう? 実際の看病は他の者に任せておけば良いのですから」

最初(ハナ)から豪快に諦めているくせに、ぐずぐずと私を引き止めるのはやめるんだ。だいたいな、メアリは私を天下一の不器用者だと思いこんでいるようだが、傷病兵の手当てならそれなりに上達した。傷口から鉄砲玉を抉り出すのも、腐りかけた手足をすぱっと切り落とすのも」

「お嬢様! 戦場でのお話は極力、極力持ち出さぬよう! ここは名門公爵家で、お嬢様はその跡取り様に嫁がれたんです! 皆様びっくりなさいますでしょう……」


 くどくどくどくど。

 聞き慣れた小言を、シエナは右から左にさらりと聞き流す。それでも頭の中にわずかに残った気がして、顔を床に平行になるまで倒し、とんとん、と片手で耳を軽く叩いた。

 うるさいのうるさいの、出てけー。

 メアリの顔が、いよいよ怒りの色に染まる。

 不穏過ぎる気配にシエナはため息をついて、一応の反撃をした。


「そもそも、メアリもメアリだ。嫁いだ私をいまだに『お嬢様』だなんて。本来なら、公爵家の面々がぐうの音も出ないほどの完璧な侍女ぶりで、私を『奥様』と呼ぶ場面だと思う。ちょっと練習してみようか。はいっ」


 パチンと高く指を打ち鳴らし、そのままメアリを指し示す。

 ぴくぴくと表情筋を忙しく動かしていたメアリは、すぐさま吠えた。


「奥様! おふざけもたいがいになさいませ! あなたはもう旦那様のある身ですよ!! 今までのような無頼が許されるなどと、ゆめゆめ思わぬことです!! 返事!!」


 ひゅうっと口笛を吹いて、シエナは満面の笑みを浮かべた。「はーい、わかりました!」と大変良い子な返事をしつつ、減らず口を叩くのも忘れなかった。


「さすがメアリ、一流の侍女だけある。ちゃんと『奥様』って呼ぶことは忘れなかった。でも惜しいな、この家の生え抜きの侍女さんの前で私をそんな風に怒鳴りつけたら、規律が乱れちゃうよ。こういった貴族のお屋敷組織は、結局のところ軍隊と同じだからね。上下関係は絶対、命令系統は厳しく。じゃないと、戦場に出たときに作戦をうまく遂行することができずに多数の犠牲を出してしまう」

「ここは戦場ではありません! すべて戦場に置き換えて表現するのはおよしなさい!」

「はーい」


 二度目の返事は、ここまでついてきてくれたメアリが相手なだけに誠実に。けれどそっけなく。


(違わないよ、戦場と同じだ。それもメアリ以外は誰一人味方がいない。この家の誰も彼もが、私を憎み、認めてなどいない。もちろん、「生涯の伴侶」になった、旦那様でさえも)


 結婚当日、結局顔を合わせることがかなわなかった相手を思い、シエナはそっと息を吐き出す。

 冴えない顔を見られてメアリに心配をかける前に、出てしまおう。そう思い直して、シエナは笑顔になった。


「それじゃあ、長くても二週間くらいかな。行ってくるよ、戦場に。もしこの家の侍女に邪険にされるようだったら、メアリは家に帰っちゃって良いからね。どうせ私はこの先も遠征続きでこの家には寄り付かない。その方が、きっとこの家にも、旦那様にも都合が良いはずだ」

「何をおっしゃいます。旦那様、病気がちとはいいますけど、きっととてもお優しい方ですよ。お嬢様が出立なさったと聞いたら、気落ちされることでしょう。せめて無事にお帰りになってくださいね。可及的速やかに」


(メアリは結局、人がいいなぁ)


 子供の頃から手塩にかけて育て上げた「お嬢様」のシエナが、決して惨めな思いをしないよう、全方位に気を配っている。その気持ちを無下にするのはさすがに心が痛む、と憎まれ口をやめて、シエナは笑顔のまま旅立つ。


「行ってきます。行き先あんまり良い場所じゃないから、お土産は期待しないでおいてね」


 いつだって、無事に帰って来れるかすら、わからないのだから。


 * * *


 シエナは田舎領主の三番目の娘。両親が兄や姉のしつけに気を取られている間に大自然の中でのびのびと育ち、めきめきと武芸の才を発揮するに至った。

 領地が国境の近くだったこともあり、戦争の気配が濃厚になった頃「それは誰かがやらなければいけないことだから」と家を飛び出し、新兵として前線で戦い抜いて生還。

 当初は少年を装っていたが、やがて末端貴族の娘であることが噂にのぼり、その卓越した戦闘能力ともあいまって「戦女神」と祭り上げられるに至った。

 シエナが戦場に立つと、勝利は約束されたものと、派手に喧伝された。

 実際には何度か負け戦も経験していたが、「戦女神」の名の下に不名誉な戦歴は隠された。

 そして、国王はさらにシエナと国の結びつきを強固にするため、奇策を打った。

 準王家である三大公爵家の跡取り息子と、シエナの結婚を大々的に発表したのである。


(そういえば戦場にいるときに何か書類きたけど「サインだけいただければ」って言われて「兵站の件かな?」くらいの感覚でサインだけしてあとは部下にまわしちゃっていたんだよなぁ……。「シエナさま、結婚の件承諾したんですか?」て副官のサンドに確認されたときには、もう王宮からの使者はとんずらしていたし。あそこからすごい勢いで全部話が進んじゃって。ついてないよな、私の旦那様は)


 きちんと書類に目を通していたら、断るくらいの理性はシエナにもあったというのに。

 公爵家に嫁ぐ、すなわち未来の公爵夫人。どう考えても、シエナはその地位に必要とされる教養が不足している。しかも、戦場暮らしを続けてすでに二十五歳。不本意な夜這いはすべて叩き返してきて、実は鉄壁の処女を守り抜いているとはいえ、男所帯の長い年増だなんてまともな目で見られるはずはない。さらに言えば、旦那様は年上の三十歳。これまで妻や恋人、婚約者のひとりもいたはず。そこに断りようのない「王命による結婚」が降って湧いて身ぎれいに準備をしたとあらば、シエナには想像もつかない愁嘆場や修羅場のひとつやふたつ……。


「『戦女神』に箔を付けるための結婚とはいえ、こんなの誰も幸せになってないよ……。結婚しちゃったけど、旦那様は熱を出して当然だよね。私だって自分が男だったらこんな女嫌だし……」


 結婚式当日の今日、シエナは衣装を身に着けて待機していたが、旦那様は高熱で起き上がれないと欠席。もともと、体が弱いので式は内々ですませ、お披露目はまた改めてと言われてはいたものの、肩透かし感があったのは否めない。

 シエナはそのまま夜を迎えるのに耐えきれず、公爵家を飛び出してきてしまった。

 本当は、シエナの副官である青年サンドから「今回の戦闘、閣下が出てこなくても良いようにする」と事前に念押しをされていた。


(だけど私の問題ではなく、旦那様の問題で結婚式を挙げられなかったし、初夜もなかったんだ。だから私が戦場に現れても怒るなよ)


 心の中で年上の部下に言い訳をしつつ、単騎、夕日の沈む田畑の間の道に馬を走らせていれば、正面の森から人馬の近づいてくる気配があった。


「急ぎか……?」


 思わず声に出してから、シエナは馬の足を止めて、その場で待機した。


(この先は公爵家の敷地で、用件を知らせる宛があるとすれば……)


 果たして、木立の間から現れたのは、見慣れた黒髪の青年。速度を重視したのか鎧は身につけておらず、馬に負担をかけぬ軽装で、またたく間に距離を詰めて来る。

 シエナの手前から減速しながら近づいてきて、驚いた顔で見てきた。


「こんなところで何をしているんですか。今日、花嫁でしょう。戻りますよ」

「なんだ、サンド。参列なら間に合わないぞ。式はもう、だいぶ前に終わってる」

「終わって……?」


 普段は冷静さを欠くことなく、シエナを的確にサポートしてくれる有能な副官だというのに、このときばかりはなぜか声がひっくり返るほどに驚いていた。確認するように胸のポケットから眼鏡を取り出して顔にのせ、「シエナさまですよね?」とぶしつけなまでにまっすぐ目をのぞきこんでくる。


「なぜ、終わっただなんて。始められなかった、の間違いですよね?」


 さらっと言われて、シエナはおおいにむすっとした。


「そうだよ。旦那様にすっぽかされたんだ。笑っていいよ。男勝りの猿女が、お上品な旦那様に愛想を尽かされて、結婚生活は始まる前から破綻しているって」

「あなたらしくない卑屈の大行列ですけど、どこでそんなにたくさん仕入れてきたんですか? さては、よほどあなたの旦那は悪人なのでしょう。百戦錬磨の我らが戦女神に、そこまで悲しいことを言わせるなんて」


 サンドの眼鏡の縁が光り、灰色の瞳が酷薄な色を帯びる。戦場ならいまのセリフの間に五人は屠っていただろう。


(なになに、サンド。なんでそんなに怒ってるの?)


 どうも先程から様子がおかしいと思いつつも、シエナとて一介の武人。気迫で負けるわけにはいかないと、ことさら胸を反らして(うそぶ)く。


「べつに、百戦錬磨だって国が大げさに吹聴しているだけで、私はそこまで常勝将軍ではないし、サンドみたいな優秀な副官がいるからの功績であって……。それにさ、サンドは私の旦那様には会ったことないだろ? なのに知ったような悪口はやめてもらえないかな。ほら、仮にも私の旦那様なんだから」

「閣下、それならお聞きしますが、いまどこへ向かっていたんですか? つつがなく結婚を終えたご夫婦は、僭越ながら本日甘い夜をお過ごしになるのでは?」

「甘……っ」

「今日は特別な一日のはずですよ。それなのに、こんなところで何をしているんです」


 真面目くさった顔で重ねて言われ、シエナは妙に動揺してしまった。かーっと顔に血がのぼってくるのがわかる。

 もともと、シエナは戦場生活が長いとはいえ、本人が周りにそう見せているほどに、がさつではない。男性同士があけすけと性愛を話題にしているのを聞くのは大の苦手で、いつもそういった話が始まるとさっと場を辞するようにしてきた。

 サンドはそういったシエナの性質を深く理解している節があり、決して男女の営み事をからかい半分にも口にすることがなかったし、恋愛めいた感情をのぞかせる部下がいればシエナの盾となって遠ざけてくれていた。

 それなのに。


「わ、私は……。私がいないと、サンドが困っているんじゃないかと思って。ここのところ、結婚準備に専念しろ、戦場には出てくるなって言っていたけど、無理させたよね。それで、今日はもう暇になったことだし」

「つまり、閣下は私の元へ来ようとしていたということですか? 結婚当日に夫になる男を振り切り、俺の元へ?」


 上ってきた血が、さーっと引いていく感覚。背筋まで冷えていくが、どんな表情をして良いかわからず、シエナはひとまずにこっと笑ってみた。心の中は大嵐が吹き荒れていた。


(不義密通みたいに言われた……。仕事に行こうとしただけなのに、わざわざ「俺の元へ」を強調して……)


 サンドは眼鏡のフレームを軽く指で押し上げ「わかりました、それでは参りましょう」と言ってきた。

 その笑顔がとても怖い。

 怖いが確認しないわけには行かないので、シエナは恐る恐る聞いた。


「どこへ?」

「決まっています。閣下は俺のいるところを目指していたんでしょう? 俺は閣下のいるところを目指していました。閣下のおうちはどこですか? 送って差し上げますから、一緒に行きましょう。言っておきますけど、逃げたら刺し違える覚悟で捕まえてその場で押し倒しますよ。俺はこういう冗談言わないのを、あなたはよくご存知ですよね」


 * * *


「ま、まぁ……サンドは私の大切な副官だからね。私の夫になるひとに、この機会に挨拶っていうのも悪くない考えだと思うよ。うん。戦場ではいつも相棒で、私の背中を守ってくれるし。背中どころか私なんか頼り切っちゃって事務仕事も全部任せちゃってるし」


 夫以外の男(サンド)を婚家につれていくにあたり、シエナは合理的な理由をなんとかひねり出そうと苦心していた。

 ほとんど日が落ちて薄暗くなりかけた一本道を、馬を並べて歩きながらサンドがにこやかに答える。

 実に楽しげに。


「そうですね。さすがに結婚の書類はご自分で署名なさっていましたけど、代わりに俺がしても良かったんですよ。閣下にはそろそろ身を固めてもらうつもりでいたので。アイザックス公爵家は武芸を尊ぶ家風で、閣下にぴったりの嫁ぎ先です。肩身の狭い思いなんて、決してさせません」

「んん? そ、それはもしかすると、下剋上的な何かかな?さてはサンド、私が孕んで戦場に立てない間に、私の地位を脅かすつもりだったな?」

「それも悪くないですね。あなた、若い頃から前線で働き詰めでしたし。何年か家庭生活を送るのも良いかと思います。子どもを二人も三人も育てるなら、戦場より大変かもしれませんけど」

「そ、そんなに!? どうかな~、旦那様お体弱いみたいだし、それに相手が私だし。跡継ぎ一人作ったら、あとはもう用無し~、なんて……」


 あまり得意ではない男女間の話題を、自分なりになんとか展開させようとしているのに、サンドはどうもうまく乗っかってくれない。普段ならどんな時でもすかさずフォローをしてくれるというのに、今日は追い詰めるようなことばかり言ってくる。


「旦那様の体が弱いってそれどこ情報ですか? 戦場では負けなしのあなたが音を上げるような体力馬鹿だったらどうします? あなたとの子どもなら何人でも欲しいなんて強欲なことを言い出すかもしれませんけど、実際に閣下は何人までならとお考えですか?」

「それは考えたことなかったし、あってもサンドと話すことじゃないよね。まずはほら、旦那様と」

「俺も知りたいです」

「副官、仕事熱心だな~。そんなに下剋上したかったかぁ~……」


(く、苦しい……。なんなんだ今日は。ちょっと怒ってる? 私が敵前逃亡したから? 「そんな閣下に幻滅しました」ってノリなの? これは)


 容赦のない攻めに心臓がばくばく言っている。正直なところ、サンドが敵側にいたら自分はとっくに打ち破られ、追い落とされていたのではないかとすら思う。本気で。


「下剋上なんか興味無いですけど、俺は実際あなたの上でも下でも構わないんですよ。あなたと一緒にいられるのなら」

「ささささ、サンドさ~ん!! それはほら、人妻に言うセリフじゃないと思います! 私ほら、あの、今日」

「結婚式。挙げてないってことは、まだギリ口説けるって理解ですけど、どうですか。閣下は、俺のことどう思っていますか」


 心の底から恐ろしいことに、公爵家の正門がすでに眼前に迫っていて、衛兵の姿も目視できる距離なのである。


(こんなところで、やめて~~、サンドやめて~~!)


「答えられないんですか」


 やめてくれない。

 緊張と焦りで変な汗が出て乾き、目元が潤んでいるのを感じて(百戦錬磨の戦女神なのに……)と愚にもつかないことを胸中で愚痴りつつ。

 シエナは、ずっと言うことはないと思っていたその言葉を口にした。


「好きだよ。すごく信頼しているし、サンドに背中を守ってもらえると安心できるし、サンドの広い背中を見るのも好きだった。サンドがそばにいるとほっとする。たぶん、私にとってサンド以上の……」


 副官はいないよ。


 その言葉を言う前に、正門から走ってきた衛兵が明るく声を張り上げた。


「おかえりなさいませ、若様、奥様! 結婚式、まだ間に合いますよ!!」


 * * *


「え……?」


 首を傾げたシエナの視線の先で、サンドは暗い空気の中、見間違えでなければうっすら頬を染めていた。

 それから、シエナの方へ顔を向け、真面目くさった顔で言った。


「サンドというのは通称のようなもので、正式な名前ではありません。確かに俺の個人情報は軍内部では伏せていましたが、あなたの立場で俺に少しでも興味があれば、調べることは可能であったはず。しかも、あなたはそれだけではなく結婚相手の名前すらしっかり確認していなかったみたいですけど、大丈夫ですか? 本当に目を離せない、危なっかしい上官だ……」


 ぶつぶつと言うサンドを前に絶句しかけたシエナであったが、よくよく見ると耳まで赤い。その照れ隠しのように「俺がいないと」と言っている目の前の男に、断固として一言いわねば気がすまなくなり、言った。


「歯、食いしばろうか? なぁ、サンド。大丈夫ですかって私に言う前に、もう少しわかりやすく普段の会話に混ぜてくれてもよくない? 結婚だよ!? 私と、サンドの! っていうことだよね!? 高熱だなんて部下に真っ赤な嘘言わせて結婚式さぼってる場合かな? 歯を食いしばろう? 私に一発殴られてみよう? 戦場では上官の言うことは絶対だからね!」


 もちろん、本気で殴るつもりはなかったが。

 サンドは、眼鏡を押し上げると、にっこりと笑って言った。


「俺は『仕事で遅れる』と言って構わないって言ってあったんですけど、実際思った以上に足止めを食ってしまって、家令が気を利かせたつもりで熱だなんて言ったのかもしれません。子どもの頃、寝込みがちだった時期があるので、そのイメージで言ってしまうんですかね。そこは確認しますが、閣下がいま俺を殴りたいのであれば止めません。どうぞどうぞ、ぜひ」


「ぜひって何!?」


 シエナにはもうよくわからなかったが、どうもサンドは殴られたいらしい。

 意を決して馬を寄せると、拳を振りかぶった。

 しかし、どうにも暴力を振るう気になどなれず、ぽす、と胸を軽く突いたのみ。サンドは素早くその手首を取って、甘く笑み崩れた。


「それではこの後、俺は刺し違えるつもりであなたを押し倒しますね。子どもは何人が良いかお聞きしても大丈夫ですか? それともここでは話せない? あとで二人のときに?」

「刺し……それは……あなたが刺す気なら私はとっくに。私はべつにあなたをどうこうするつもりはなくて」

「べつに、そういう殺意的な意味で言ったのではありませんが、あなたに俺のすべてを捧げる意味としては、そういう意味でも結構です」

「殺意的な意味ではないっていうのはつまり!?」


 その問いに直接答えることなく、サンドは下心などかけらもなさそうな優美さで答えた。


「夫婦になると、閣下のまた違った面が見られて嬉しいですね」


(この男は、一体何を言っているのか)


 あわあわと唇を震わせて言葉を失っているシエナをよそに、サンドは捕まえたままであった手に唇を寄せて、優しく口付ける。とろけるような眼差しでシエナを見つめ、微笑んだ。


「まだ間に合いますよ、今日を特別な一日にしましょう」


★最後までお読み頂きありがとうございましたー!!

 ブクマや★で応援をいただけますと、励みになります!!


 2022年お疲れ様でした、良いお年を!!

 2023年がどなたさまにとっても素敵な一年となりますように!!


 また次の作品でお目にかかれましたら幸いです。




【2023.1.2 追記】


★あけましておめでとうございます!★


応援頂きありがとうございました!!

年末年始ということもあり、明るい気分になって頂けるような作品を目指しました。

皆様のおかげでたくさんの方に読んで頂くことが出来ました!!


どなたさまも今年が良い一年でありますように。

そして、健康……!健康に過ごして頂けましたら幸いです!!



有沢真尋


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