7. いよいよ決戦開始
かくして準備は進み決戦の日となった。ロイクの数は72機。残ったロイク50機に練習機8機と予備パーツからくみ上げてとりあえず動くようになった程度の機体14機が追加されている、数だけなら22機も増えているのだが、増えた分は基本的に戦力としては期待できない数合わせ兼囮である
72機のロイクは前回のように隣国の領地を抜けて再びスピリット国の領地に入った、そして前回のように最大巡航速度で跳び始める。作戦の変更はここからだ、1分程進み左右に12機ずつロイクが酸化剤を使った高速飛行で飛び去っていく、そして再び1分たった頃再度12機ずつ左右に分かれ、最後に残った24機も距離を放しだした。
ロイク隊は12機で編成される中隊を6つに分けて進軍している、前回国境を越えてから敵の機体キルリオがロイク隊と戦闘するまでにかかった時間は4分、今回も同様の時間になると計算した、まとまって進軍してくるアスファルト国のロイクに対して1機が迎撃に出たはずだが作戦開始から1分、つまりキルリオ出撃後にロイク隊は分かれた、この動きに対してスピリット国はどう動くのか、さらに一機出撃させるのか、それとも一機で十分と思ってくれるのか、ロイク隊の皆が緊張しているとソレはやってきた
フーゴのコックピットでビービーと敵接近アラートがなった、場所はプラントに一番近い中央付近のロイク隊、フーゴのいる場所は6つに分かれたロイク隊の右から2番目、一番狙われずらく、適度に燃料や酸化剤を温存できるポジションである、そのフーゴからも敵の機体が視認できた
「敵さんのお出ました、急ぐぞ、各機速度を上げろ」
ベルナールは光無線通信でそう告げる、ソレを受けて通信機を積んだ仲間の機体は短時間のみプラズマフィールドを解除し、後方に居る通信車両へと電波通信で情報を送りつつ向こうからも情報を受け取る、更新された情報を中隊の仲間へ送信しつつ再度プラズマフィールドを発生させステルス状態になる。戦闘中にステルスを解除するなんて通常の戦争では絶対にやらない行為だが、スピリット国はステルス状態でも発見してくる技術を持っている、なら情報の共有を優先しようという作戦だ
中央付近のロイク隊で戦闘において、先手を取ったのは当然スピリット国の兵器キルリオだ、キルリオは上空のガス雲の中から右手のライフルを中央付近のロイク隊に向ける、銃口の先にまるで魔法陣のような模様が空中に何層も浮かび上がっていき、臨界点を迎えたライフルはロイク隊に向けて放たれた、キルリオのパイロットはこの一撃で中隊の半分は撃墜できると思っていた、しかし航空機の爆撃にすら匹敵するこの一撃をロイク隊はしのいで見せた、しかもただの一機もかけることなく。その理由はキルリオが爆撃の為に精製した魔法陣の光をロイク隊が見逃さなかったからだ、前回の敗北を経験して、最低一機は必ず上空を警戒する事という決まりが出来ていた。
攻撃を受けたロイク隊は敵の爆撃に合わせて全速力で後退しつつ反撃を行う、ミサイルの8割を撃ちつつ右手のライフルで牽制を行う、12機しかいないロイク中隊の攻撃ではキルリオには当たらないが、もとより当たる事なんて期待していない、数秒あるいは数十秒程度の足止めの為に撃っているだけだ。稼いだわずかな時間の間に山岳地帯の中でも比較的遮蔽物のある場所に逃げていく
ミサイルを全部撃墜したキルリオは再度ロイク中隊に照準を向ける、今度はミサイルを使い撃墜しようとした、キルリオの後方に小さな魔法陣が浮かび上がる、空中に描かれた36個の魔法陣の一つ一つから光のミサイルが発射され、キルリオのパイロットは爆撃を躱された事に多少驚いたが今度こそ半数以上の撃墜を確信した
ロイク隊はチャフスモークを周囲に撒いた、お互いのチャフスモークが重なるギリギリの距離で巻かれたスモークによってかなりの広範囲にわたって視認不可能な防御エリアが形成される
無駄だ、キルリオのパイロットはそう思った、例えスモークを撒こうともキルリオのミサイルは敵がいると思われるエリアに向かい飛んでいくし、敵が動けばその時に発生するスモークのわずかな流れを感知してミサイルは軌道を変える、さらに言えばミサイルは手動でも軌道を変更できる、ただ煙幕を撒くだけで回避できる可能性がある他国のミサイルとは出来が違う。
しかしロイク隊は広範囲に撒いたスモークから外に向けて12本のスモークの道をバラバラな方向に形成し始めた、一つは斜面を登るように、一つは斜面を滑り落ちるように、あるいは渓谷に似た地形に向けて、ミサイルみたいな物が飛んでいきスモークで道を作っていく、この戦術にキルリオのパイロットは見覚えがあった、前回の戦闘でしぶとかったロイクが使った戦術だ、あのテニスボールのように転がったあのロイクの亡霊でもみているのだろうか、キルリオのパイロットはまさか、と思いつつ頭の中で思いついたゾンビを振り払う
ロイク隊は作ったスモークの道の中を地面スレスレに高速で飛んでいく、キルリオのミサイルはジェットエンジンによって乱れたスモークの流れを見逃さない、しかしいくらキルリオのミサイルでもスモークの流れから推測できるロイクの位置は正確ではなかった、何しろジェットの出力、地形の状態、ロイクの機体重量など、あらゆる状態を計算しなければならない、完全な予測は不可能だった
ミサイルは爆発しスモークは四散した、そして撃墜されたロイクはたった2機、他はダメージこそ有るが飛べる機体が8機、飛べないがまだ動く機体が2機である、生き残ったロイク隊はバラバラな方向に分かれていく、キルリオのパイロットからすればロイク隊が逃げるのなら追う理由は無い、次の標的に向かおうとした、しかしその瞬間にロイク隊が前進を始めた
キルリオのパイロットは少し混乱しつつ仕方がないと、前進するロイク隊にライフルを発射したが外れてしまった、銃口を向けた瞬間に前進をやめて再度後退を始めたからだ、そしてロイク隊は残ったミサイルをすべて撃ち尽くす、どう見てもただの時間稼ぎと挑発行為、こんな行為に付き合う理由は無いが、相手をしなければこのロイク隊はプラントを襲うだろう、ならば全機撃墜するしかない、キルリオはライフルによって飛べなくなったロイク2機を数秒で撃墜し、残った8機に向かう、さっきのようにミサイルを使いたいところだが、キルリオのミサイルは無限に撃てるわけでは無い、まして敵は目の前にいる8機以外に60機もいるのだからココで無駄に消耗するわけにはいかない
キルリオの周囲でバリアとロイクが撃った銃弾が接触しバチバチと音を立てる中、キルリオのパイロットは落ち着いて接近しライフルの照準を合わせる、ロイク隊は狙ってくるキルリオにミサイルのようなものを一発撃った、キルリオは先にそっちを迎撃したが、その瞬間に大量のスモークが発生しキルリオの視界を塞いだ、ロイク一機が自分の周辺にスモークを巻いただけなら他の機体に照準を向ければいいし、もし全機がスモークを撒くのなら今度こそミサイルを使えばいい、さっきと同じようにバラバラに逃げるようなスモークはもう無いはずだ、アレはスモークを使いすぎる、しかしキルリオに向けてスモークが来るのは予想外だった、少しだけ移動し再度狙いを定めると今度は別のロイクがキルリオに向けてスモークを撃つ、今度は迎撃せずとも空中で炸裂した、スモーク一発に付き稼げる時間なんてせいぜい数秒、普通の戦闘であればただの無駄遣い、しかし今だけはその数秒が値千金の価値を持っていた
程なくして中隊との戦闘は終わる、結果は当然キルリオの圧勝、しかし大分時間を稼がれてしまった為キルリオのパイロットは少し焦っていた、次はもっと早く撃墜しなければと思い次の中隊に向けて飛ぶ、しかし次に遭遇したロイク中隊も先ほどの部隊と同じように回避しミサイルを発射しつつ比較的遮蔽物が多い場所にこもり始めた、そして先ほどと同じようにミサイルを発射したら再びスモークをバラバラに展開し始めたのだ
そんな馬鹿な・・・キルリオのパイロットは目の前の光景が信じられない、確かにスモークの中を高速で飛ぶのは有効な回避手段だ、しかしスモークの中は視界が一切ない、赤外線も紫外線もあらゆる視界を得る手段をスモークが塞いでしまう、頼れるのはコンピューターに保存された地形データのみ、ソレも前もって準備していたものではないから地形データには誤差がある、そもそも機体についてる加速度計などでは機体の速度を完全に測れない、モニターに表示されるメーターと現実の速度が少し違うだけで地形データが正確でも地面や岩に激突してしまうだろう、そんな中を斜面や渓谷に沿って飛ぶなんて自殺行為だ、前回のしぶといロイクみたいに運が良かっただけならともかく先ほど倒した12機のロイクは正確にスモークを飛んでいた、目の前の12機も行動に迷いが無くスモークの張り方も正確だ、余程の操縦技術とこの戦術用の訓練を積まない限りこんな事できるはずがない、ましてアスファルト国はこの前80機ものロイクと精鋭パイロットを失ったばかりのはずだ
混乱するキルリオのパイロットをよそに12機ロイクはスモークの中を飛んでいき再びキルリオのミサイルを回避した、今度は撃墜1機小破1機、ダメージがあるが飛べる機体が10機だった。ロイク隊のパイロットは訓練していたのだ、この日の為に前回の敗北より以前から
前回80機で戦いを挑む際にアスファルト国の軍部は考えた、本当にコレが最後の戦いなのか?と。そしてあろうことかパイロットを温存することにした、ロイクは80機失ってもまだ50機あるじゃないか、戦車も航空機もあるんだからと
アスファルト国には対スピリット国戦を想定した戦術やデータがほとんど無かった、有るのは他国との戦争を僅かに観測しただけ、その範囲で考えるなら勝率は完全に0、戦おうと考えるだけ無意味だった、ソコに一人の英雄が現れた、その英雄はスピリット国の兵器キルリオと戦闘して生き残ったパイロット、実戦を経験しかつ対応策を考え付くことが出来る稀有な人間、しかも既存の戦術というノイズなしに真っ白な状態から自分だけで考えた戦術だ、作戦参謀をはじめ最初にそんな考えを聞いたときは何を馬鹿な事をと思ったものだが、ロイク基地の司令官は真剣にとらえ、何度も英雄から情報を貰い作戦を考えた、既存の戦術を基本としていたら絶対に考え付かないであろう敵の機体を撃破する事を諦めた作戦
その作戦のおかげでわずかながら勝率が生まれたのだ、なら戦力を温存しておけばあるいは次の可能性もあるかもしれないと軍は考えたのだ
勿論ただ温存しただけでは意味が無いが、英雄は一回の敗北を糧にスピリット国に勝てる可能性のある作戦を考えた、今回の作戦が上手くいくのならより英雄の考えを取り入れた作戦を作りたい、英雄の考えた戦術のどれが有効でどれが無効なのか、それを確認するための必要な犠牲だと判断したのだ
更に英雄考案の戦術を他のパイロットに練習させるための時間もほしい。あるいは英雄のさらなる成長を促せないか?英雄の生存に関しては分の悪い賭けたが、どのみち絶望的なのに変わりはない
そうして行われた前回の作戦において80機のロイク部隊の中で精鋭と呼べるパイロットは英雄の周囲につけたパイロットと部隊長だけだった、軍部は80機ものロイクを捨て石にして次につながる博打に見事勝ち、その結果十分に訓練を積んだ精鋭たちが今まさに時間を稼いでくれているのである。キルリオのパイロットは事ココに至ってようやく敗北を認めて基地に支援を要請した
一番右側を行くロイク中隊は時々行う後方のロイク基地の総司令が率いる通信車両との通信で作戦が想定通り行われているのを知った、この後に起きる事を想定し少しだけコースを変更する。その数分後、前方にミサイルを確認した。キルリオが使う光のミサイルではなく一般的な形状の鉄の塊のミサイルが飛んできていた、ロイク中隊はすぐさま近くの遮蔽物に身を隠しスモークを展開する、そしてさらにジェットを使わずにロイクの足を使って隠れる遮蔽物を変える、キルリオの使うミサイルと違い今飛んできているミサイルは普通の国のミサイルと大差は無い、スモークに隠れて、さらに遮蔽物に隠れるロイクに正確に当てることなんて不可能なはずだが、ソレは今までのデータを当てにするならである、ロイク隊は負けられないこの一戦の為にこの一連の回避動作を何度も練習してきた
三行要約
とにかく逃げ回って時間稼く
その好きにプラントたどり着いて破壊するぜ作戦
1機では無理ゲー、キルリオはなかまを よんだ!
っということでようやく戦闘が始まりました。あまりぱっとしない戦闘なので面白いかどうかは謎ですね、あくまで書いてて楽しかった戦闘なので
以上誰も読まない後書きでした