5. しばしの休憩をはさみつつ、
「おはようアンネ」
フーゴはソファーの上で目を覚ました、なるべく寝心地を上げようとしたアンネの魔改造によってソファー周りが異空間に代わっていたのを直していると隣の部屋からアンネがやってきた
「おはよう兄さん、もういいの?」
「ああ大丈夫だ、いつまでも寝ていたら体がなまるしな、ソレに腹も減ってきたし、何か食べに行かないか?」
フーゴは近くに上手い店があるらしいと友人から聞いた話をアンネに話すが
「ううん、私作りたい、兄さんに食べてほしいの」
アンネは自分で作るという、フーゴは折角家に帰ってきたのだからアンネの作った食事が食べたかった、しかし自分が帰ってきた所為で家の仕事は増える、もちろんフーゴも手伝うつもりだが足の悪いアンネにはせめて今日くらいはゆっくりしてほしいと思っての発言だった。ソレをアンネは察して自分で作ると言ったのだ、アンネとしては折角兄が家に帰ってきたのだから練習した料理を食べてほしかった
フーゴの性格をアンネは理解していた、フーゴは自分の事をいつも後にする、妹であるアンネが目の前に居ればまず妹を第一に考える、どうすれば妹が楽になるか、どうすれば妹が喜ぶか、しかしアンネにしてみればそんな事を考える兄自身をもう少し労わってほしかった
だからアンネは兄を理解し、そして思うのだ、兄は自分の事を考えるのが下手すぎるのだと、例えば兄に好物を聞いた事があったがその時兄は「・・・ビスケ・・・スープ」と答えた、きっとこういう順番で考えたに違いない、好物→美味しい食べ物→アンネが作る物なら何でもおいしい→であればアンネが楽に作れる物の方が良くないか?→ビスケットはどうか?→それだと焼く手間暇がかかる→ならばスープだ。兄の考えたスープはおそらくお湯に調味料と野菜粉と栄養剤を混ぜた物、材料さえあれば3分で作れてしまう、だから私は作ったのさ、手間暇かけた具だくさんスープを!あの時の兄の嬉しいような困ったような顔は今でも忘れない。アンネはそう思い出して少し顔が緩む
「どうしたアンネ何か変だったか?」
思い出に熱が入りすぎたアンネは、いけないいけないと気を引き締める
「何でもないの、すぐに作るわね」
だからアンネはこういう時は少し強引に兄の好きそうな事を押し通そうと考えている、「兄が自分の事を考えないのならば私が考えてあげればいいのだから」と
アンネは台所に行き料理を開始する、とはいっても下ごしらえと準備は二日前、兄が家に帰った日にはすでに済ませていた、料理を前に出されたフーゴは最初聞き間違いかと思った
「二日前?」
家に帰ってきたのは昨日だったはずだとフーゴは聞き返す
「兄さんは疲れてたのよ」
聞き間違いではなかった、家に帰り気を失ってから丸々一日寝ていたというのだ、フーゴは一日無駄にしてしまった事を一通り嘆いた後に料理に目を向ける、ソレは小麦粉を練って発酵させた後焼いた物の中央に切れ目を入れ、野菜粉をパリパリに焼いた物とチューブ状の食用被膜に大豆粉や油などを入れて表面を軽く焼いた物をはさみ最後にケチャップとマスタードをかけた、ホットドッグに似た形状の食べ物だった
「美味い、本当に美味いよアンネ」
美味しそうに食べるフーゴを見て、アンネも心の中でガッツポーズを取る、何を食べても美味しいとしか言わないフーゴだが今日の食べ方はかなり美味しいと思ってる時の食べ方だったからだ
この世界において食べ物は食べ物の見た目をしていない、プラントからとれた野菜や穀物はそのままでは毒で汚染されている、その為毒を取る必要があり、まず細かく刻んで解毒用の酵素が入った薬液に付け込んで水で濯ぐ、そして再び別の解毒用の酵素の薬液に付ける、ソレを何度か繰り返し、最後に乾燥させて粉状に精製した物がこの世界の食べ物だ、もちろん薬液に溶け込んだビタミンなどの栄養も後で回収して栄養剤として販売している。なのでこの世界の料理は人口調味料を使って味を調えていく前に触感を付ける工夫が必要でソレが美味しい料理の大前提であった
10個ものホットドッグモドキを平らげフーゴは一息つく、アンネも食べ終え話に花が咲く、話ははずみフーゴはベルナールから聞いた衣料品店の話を出した、曰く「おしゃれで友達と良く行く」のだという、ベルナールの事だからどうせデートでよく使うのだろうと笑い話のつもりだったが、アンネはその話に興味を示した。よく考えればアンネも年頃だったなと思い直す、普段からあまり物をねだらない我慢強いアンネの性格のせいでフーゴはつい忘れそうになる
「今から行ってみるか?」
「ん~でも大丈夫?」
アンネが心配するのは兄の仕事の事だ、フーゴが忙しい事は良く知っていた
「戦闘後の休暇は規定によれば七日、つまり三日は休みが取れるはずだ」
アスファルト国の軍規をそのまま読み解くのなら、七日は無条件に休みがもらえるという一文がある、しかし今のアスファルト国にこの軍規を守る余裕などありはしない
そのことを承知しているフーゴは、それでも自分の心を安定させるため謎の理論を展開し、だから大丈夫だと言い張るが
ピーーーーーーーーー
と無情の呼び出し音が鳴り響いた、フーゴは知る由もないが、今この国はそんな休暇をフーゴに与える程の余裕は無い
「・・・聞かなかったことにしたい」
過去にアスファルト国の前に詰め寄った大量の移民、そのすべてを受け入れる事などできず、一部の能力のある人間や軍への入隊希望者とその家族に限定して移民を受け入れた、フーゴは厳しい倍率の中何とかテストに受かり軍に入隊できた、そんなフーゴが軍からの呼び出しを無視できるはずがないのだが
「私はそれでもいいよ」
アンネはそう告げる、ソレはアンネ自身が兄のお荷物になりたくないという意思の表れであった
「頼むアンネ、そう言うのはやめてくれ」
だがフーゴにしてみればアンネは生き甲斐であり、あの激しい戦闘で生き延びる事が出来た理由でもある、アンネに自分を荷物だなんて思って欲しくなかった
「うん、ごめんね」
フーゴはアンネの頭を軽く撫でる、仕方がない事だしフーゴにとってしてみれば思い通りにならないのはいつもの事だ、今更愚痴を言う気にもならない
フーゴは身支度を整えて基地に向かう、道すがら空を見れば太陽がオレンジに光っている、今日はいつもよりもガス雲が濃いのか少し暗く見えた
「せめて天気くらい明るくなってくれよなぁ」
基地に入ったフーゴだが呼び出された時刻まではまだ少し余裕があったので、寄り道をしてロイクのドッグを見ると練習機に実戦装備を付けていたり予備パーツをかき集めて新たにロイクを組み立てようとしていた、どうやらこの国はまだ戦うつもりなのだとフーゴは察した
「よう英雄、やっぱココに来たか」
考え事をしているフーゴにそう声が掛かってきた
「ベルナールか、いい加減その呼び方はやめてくれないか?お前の所為で他の連中まで真似しだしたじゃないか」
「なんだよ、別に良いじゃないか減るもんじゃないし、むしろお前はもう少しうぬぼれてもいいんじゃないか?」
「減るんだよ、俺のなけなしの弱い神経をこれ以上いじめないでくれ」
まぁまぁ、とベルナールはいつもの調子でフーゴに接する
「そういや聞いてるか?オレ昨日付けで中尉になったんだよ、んでお前は俺の部隊員ってわけ」
「お前が隊長?悪い冗談だな」
勿論フーゴは本気では言ってない、こんな冗談が言える程度にはベルナールに気を許している、フーゴにしてみれば意見しやすい上官は大助かりである、元々ベルナールは優れた人物だと思っているし、むしろ昇進が遅いとさえ思っていた
「抜かせ、これからはこき使ってやるからな」
「ならまず呼び名は変えないとな、まさか英雄をこき使うわけにもいかないだろ?」
「世の中仕方がない事ってあるだろ?俺は仕方なく英雄って書いてある旗をボロ雑巾の様に使うのさ、あ~安心しろよ?最後は捨てずにちゃんとポケットに入れて持って帰るから」
「お前・・・」
口では勝てないと悟ったフーゴは諦めて口を閉じる、ベルナールが昇進できないのには実は少し訳があった、本来昇進の予定は無かったのだが、フーゴの帰還によって事情が変わったのだ、軍の大隊長や司令官とフーゴをつなぐ橋渡し役として友人であるベルナールが隊長に任命された。ベルナール本人にしてみれば実力ではない昇進に少し不本意ではあったが、大切な友人のサポート約を他の連中に任せる気にはならなかったし、何よりも曲がりなりにも昇進である、小さな野望を持っているベルナールにしてみれば乗らない手は無い
「まぁ、任せろよ、悪いようにはしないって、何ならお前の妹も任せてもらっていいんだぜ」
「絶対に断る」
フーゴにしては珍しくやや強めに拒否してきた、アンネが絡むといつもこんな感じである
「良いじゃないかオレの何が悪い・・・と、ちょうどいい。ルクレツィアちょっと来てくれ」
ベルナールは話を折り、近くの隊員を呼び寄せた
「何ですか?」
隊員はさっきまでコックピットに居たのかパイロットスーツを来たまま近くに寄ってきた
「フーゴ、彼女がルクレツィアだ、この前のシミュレーションで歴代最高得点をたたき出した才女であり、お前のバディだ」
この国のロイクは4機で一個小隊、どうしてもやむを得ない時を除けば2機単位で動くことが多く、相棒であるバディと相互に連携して戦っていく、そんな二機でワンセットなのを二つ集めたのが一個小隊である、小隊同士での連携は当然あるし、二手に分かれる時にバディ以外と組むこともある。あくまでバディというのは連携の練習がしやすい相手とか組みやすい相手という程度の意味合いが強い
「貴方があの英雄ですか」
「その呼び方やめてくれませんか?」
ほら見ろ移ってるじゃないかと睨むがベルナールは知らぬ存ぜぬと言った様子でそっぽを向いてしまった
「っと、すみません、他の方がそう呼んでいたのでつい、ではなんと呼びましょうか」
「できれば名前の方でお願いします少尉殿」
フーゴはルクレツィアの肩に付いている肩章を見逃してはいなかった、彼女もベルナールも専用の士官学校を出ている、その為最初から小尉という階級だったりする。ちなみにフーゴは上等兵で階級で言うなら少尉の6個下である
ロイクは神経を機械につないで動かす為女性でも問題なく動かせる、しかし非常時にはフーゴのようにその身一つでロイクから脱出して帰らないといけない事もある。大事なロイクのパイロットに体力的に難がある女性を選ぶのは同程度の技量の男性を差し置いてでもパイロットに選ばれる何か特別な理由が必要だった、ルクレツィアの場合は操縦技術、彼女は肉体的なハンデを補って余りある卓越した操縦技術でパイロットに選ばれた
「では私の事はルクと呼んでください、その条件で私もフーゴさんと呼びましょう、公の場では別ですが、これからバディとして戦場に行くっていうのに他人行儀すぎるのは困ります」
「しかし少尉殿・・・」
「駄目ならやはり英雄と呼びます、ソレに年齢で言えばあなたの方が上ですよ」
フーゴは23でルクレツィアは今年22歳、年功序列という考え方は廃れて長いが、軍隊という組織では未だ根強く残っていて規律を守る為にも年配者に従うというのは暗黙の了解になっている、もちろん階級という大前提を除けばだが
「・・・ルク・・・少尉」
「よろしいフーゴさん、ではこれからもよろしくお願いしますね」
握手を交わし、では用事がまだあるのでとルクレツィアは去っていく、隣ではベルナールがにやついていた
「前々から思ってたけど、お前は尻に敷かれるタイプだよな」
「うっさい」
フーゴは悪態をつきつつ時計を見れば呼び出しの時間が近づいていた
「ベルナール、お前の部隊に入ったのはいいんだがすぐ除隊処分になったりするかもな」
フーゴにしてみればその可能性は十分にあったのだが
「今更そんな事言ってんのか?除隊処分にするくらいならそもそも俺の隊に入れたりしないだろ」
「そんな事わかんないだろ」
「真面目な話、お前はもう少し自信を持った方が良いぞ」
あるいはフーゴを英雄と持ち上げ続ければ少しは改善するかもとベルナールは思っていたのだが、あまり効果は無いようだった
三行要約
基地からの呼び出しがあったのでフーゴのだらだらタイム終了。基地に行くと新キャラと挨拶
こうしてみると以下に無駄な文章が多いかわかりますね。まぁ、適当に投稿していきます
以上誰も読まない後書きでした