2. 最初の遭遇
一応プロローグで書いたことをもう一度説明すると
空を飛べる完全ステルスロボットに乗った主人公が目視された瞬間に地平線の彼方まで追ってくるミサイルに怯えながら進軍中
です
フーゴはそんなロイクを操りミサイルが飛んでこないか今も神経をすり減らしている、完全ステルスとはいえ敵のカメラに見つかれば音速でミサイルが飛んでくるのだ、亜音速で飛ぶしかない鈍足のロボットでは逃げ切れない、モニターに映る1ドットの小さなゴミがミサイルだったなんてケースは珍しくないし、ミサイルだと気づくのが遅れれば遮蔽物に身を隠せずチャフスモークを展開して祈る羽目になる、祈る神を持たないフーゴにとってソレは致命的だった
起伏の激しいこの山岳地帯では身を隠す事はできるがそれでも十分にはロイクの性能を発揮できない、下手をすれば戦車の方が強いくらいだ、それでも任務である以上仕方がない、ソレに仮に戦車に乗ってもいいと言われてもフーゴはロイクを選ぶだろう、ロイクのほうが慣れているというのもあるが戦車では数発のミサイルに耐える可能性があるだけで、敵が倒せない限り高い確率で死ぬ未来しかない、まぁほぼ確実に死ぬ飛行機に乗れと言われるよりはまだしもマシではあるが
80機のロイクは進んで行く、この日フーゴ達は運が良かったのか見逃してもらったのかミサイルが撃ちこまれることなく隣国の領地を抜ける事が出来た。一応事前にただの通過ということは通知して許可もとってあるが油断は出来ない、油断させて後ろから刺すなんてことは日常茶飯事だからだ、そして本番は領地を抜けた後のココからだった
「全機最大警戒、最大巡航速度での進行開始」
光無線通信で隊長機から連絡があった、ココから先は地獄の3丁目、この先にある農業プラントを襲って中にある食料なり機材なりを持って帰るのがフーゴ達の任務だ、この世界はすでに終わりかけていた、太陽の活動が弱くなり昼間でも夕焼け以下の光しか出さなくなったからだ。下がる気温や成長しない作物の為の照明等、太陽の代わりにといろんな発電施設や工場が稼働した結果、空は汚れ、有毒な雨まで降りだし、農場からとれる作物は汚染されていた、世界中のほとんどの国がそんな状態のなか1国だけ例外があった、優れた完全密閉プラントの技術によってその国の人口すべてに安全な食料を供給している国があったのだ
移住希望者が大勢詰め寄っているその国は閉鎖的で技術を他国に渡す事をほとんどしない、だからフーゴ達はそんなプラントを襲い技術を持ち帰ろうとしている、もはやそんな強盗みたいな・・・ではなく強盗そのものと言っていい方法でしか国が生き延びる方法が無かった、そうしなければ餓死者の増加を止められない程にフーゴの国は追い詰められていた。
フーゴ達のロイクは機体間の距離を開けて目的のプラントへ向けてジェットを起動し酸化剤を節約しつつ進んで行く、ココからは発見されないようにルートを選ぶという考えはない、この先にいる連中は何をどうやっているのかドローンすら使わずにこちらを発見してくる、おそらくフーゴ達は既に発見されていて、奴らの基地からは迎撃用の兵器が出撃しているはずだ、フーゴ達は機体間の距離を開けて爆撃で一撃でやられないようにしつつ、敵が来た瞬間に酸化剤を使い最大戦速でプラントを襲って帰還する予定だ
ロイクのジェットエンジンでは酸化剤を使わないとまともに空を飛ぶ事は出来ない、せいぜい脚部の動きに合わせて跳ぶことで少し高くジャンプできる程度だ、フーゴ達は短時間だけ酸化剤を使い高く跳んだ後にジェットエンジンで緩やかに降下していく、ロイクに積んである酸素の電気単離装置は今のジャンプで使った分の酸化剤を40秒ほどで補充する、補充が済んだら再び高くジャンプする、ソレを繰り返すのがロイクの最大巡航速度だ。とはいっても着地してから40秒経ってすぐにジャンプをし続ける事は永遠にはできない、ジェットエンジンの熱は勿論、酸化剤の補充にもかなりの熱量が発生してしまう、だから最大巡航速度は長時間維持できない
フーゴ達は昼でも弱まった太陽と空を覆う雲によって暗くなった山岳地帯をジャンプを繰り返し進んで行く、何度目かのジャンプを終え、補充までの間地面を走っている時にソレは起きた
僅かに周囲が明るくなった気がした。たったそれだけで敵を視認する前にフーゴは酸化剤を使い前に飛んだ。次の瞬間後ろで爆発が起きた、何機ものロイクがその爆発によって破壊される、フーゴは爆風と飛んでくる破片でジェットエンジンにダメージを受けた、飛ぶことに支障はないがこれからの事を考えると痛いダメージだ、避け切った後に上を見れば空高くに敵が見える
「全機、武器使用自由!なんとしてもプラントへたどり着け!」
隊長が光無線通信を使いそんな命令をしつつ最大戦速でプラントへ向けて飛ぶ、他のロイク達も言われる前に飛び始めていた。フーゴも敵に向けて威嚇射撃をしつつ飛ぶ。威嚇射撃と言っても右手の火器だけじゃなく機体に積まれたミサイルの半分を発射するものだ、仲間のロイクも次々発射していく。
空高くに見えるその敵はたったの一機だった、人型のロボット、ただし武骨でいかにもロボットといった感じのロイクとは違いより人に近い形状で流線型のフォルムが多くみられる機体、それが先ほどの爆発を起こし、そして今度はフーゴ達のミサイルをロイクではありえない程の速度と飛行機ではありえない程の旋回速度で飛んでいる、ミサイルの追尾能力すら超えるその機動によってミサイルを躱していく、ミサイルは回避されてもすぐに旋回し再度敵に向かって飛んでいくが、敵は回避しつつ右手に装備したライフルで次々とミサイルを迎撃していく、200発以上のミサイルを避けながら迎撃している様はさながらダンスのようだった、その中には避けきれず当たった物が何発もあったが、敵の機体には文字通りのバリアが張られている、ソレに阻まれて敵はダメージを受けない、けどダンスの間だけは攻撃がフーゴ達に向きずらい為比較的安全に進んで行けた
敵の機体はミサイルと踊りながらも時々フーゴ達に攻撃してくる、敵の使うライフルは太い光の筋を描いてミサイルよりも早い速度で仲間の乗るロイクを貫いていく、フーゴは爆発する仲間の機体をよそに右へ左へ機体を揺らしながら目標へ向けて進む、ココで直線的に進むと的になりやすい、仲間のロイクが再度ミサイルを発射すると敵はライフルのモードを切り替え小さな光線をミサイルに向けて連射していく
目標のプラントが見えたころ頭上から光の筋が無数に発射された、敵のミサイルだ。フーゴ達の使うミサイルとは明らかに違うソレは綺麗な光の筋を描いて向かってくる
「くそ!」
フーゴは思わず悪態をつきながら手近な岩陰に身を隠しチャフスモークを展開した。敵の使う光のミサイルを迎撃しようとした仲間のロイクは回避機動を取りながら向かってくるミサイルによって破壊され、フーゴと同じように岩陰に隠れたロイクの内2機はまるで岩を回り込むように迫ってきた光のミサイルによって破壊された、攻撃が止んだのを確認し再び前進する
「もう少しか」
プラントはもう目の前だ、フーゴは再び飛ぶ前にモニターを確認した、機体のダメージはまだ許容範囲、推進剤も機体の冷却状態もまだ行ける、スモークを抜けて敵の状態を確認し、再度飛ぼうとしたその瞬間フーゴは敵と目が合ってしまった、いや、お互い兵器に乗ってるのだから目が合うわけがないが、敵の機体の頭部についてある二つの光がこちらを向いているのを見てしまったのだ
「くそが!」
フーゴはとっさに横に飛ぶ、次の瞬間に敵のライフルが光を放った、前に飛ぶのを予想していた敵はフーゴが横に飛んだことで照準がずれた、その後もフーゴに向けて撃つが3発目を外した所で攻撃が止んだ
「嘘だろ!やめろヤメロ止めろ!」
フーゴには攻撃が止むことが良い兆候とは思えなかった、他のロイクに攻撃を向けてくれたのならまだいいが、フーゴの脳裏に最悪の予想がよぎる
「誰か援護をし」
言い終わる前に敵から攻撃が来た、光のミサイルがフーゴに向けて何発も発射されたのだ、フーゴはチャフスモークを自身の周囲に巻きつつ更に前方にミサイルのような物を発射して進行方向に出来るだけ長くスモークを展開した、、まるで煙で出来た煙突が横に倒れたような形。そしてその中を地面すれすれを飛ぶ、敵が光のミサイルを複数撃ってきた場合通常はどうやっても防げないし避けきれない、でもチャフスモークを展開しその中を高速で飛べば、記録上は生き残れたケースが2つは存在する
「こんな所で死ねるか!」
フーゴは飛ぶ、チャフスモークを展開してる場所は敵から視認されないはずだがこちらも何も見えない、頼りになるのはロイクの電子機器に保存された直前の地形データと勘だけだ、そんな中を地平すれすれに時には岩にぶつかるギリギリに飛ぶ、ソレが功を奏したのか、敵のミサイルは外れフーゴの機体の近くで爆発した、だがそれが2つ爆発しただけでフーゴの機体は左手が壊れ二基あるジェットエンジンの一つが壊れた、地面に脚部が接触し火花を上げながらもなんとかバランスを崩すのを阻止する、ココで機体が転んでしまえば機体が爆発する、そうでなくとも動きが止まってミサイルの的になる、煙を上げながら燃える左のジェットエンジンを切り離し残った右のジェットを吹かしつつ脚部を使いジャンプする、僅かに高度が上がりチャフスモークが薄くなったせいで敵のミサイルの機動がうっすらと見えた、ミサイルは自分の展開したスモークにつられてあらぬ方向に向かっている、ただ一発を除けば
「おおおお!」
確実に直撃コースだと言えるそのミサイルに向けて照準補正装置を切りライフルの弾を撃ち続ける、フーゴは回避アルゴリズムだの弾道解析だの小難しい事はわからない、だが生死を分けるこの瞬間を機械に任せたくなかった。ミサイルは弾が当たったのか近接信管が起動したのかロイクに当たる直前で爆発した、そしてそれによって残った右側のジェットは機能を停止し脚部や右手も壊れた、フーゴの乗るロイクはサッカーボールが弾むように勢いよく跳ねていき、止まった。倒したことを確認した敵は他のロイク目がけて飛び去っていく、後に残されたのは鉄くずにも等しい残骸、それでも
「う・・・生き・・・てる?」
フーゴは辛うじて生きていた、どれだけ気を失っていたのかはわからないがフーゴは目を覚ました、機体は完全に大破し緊急脱出用の装置を起動しても小さな爆発音とともにハッチが歪むだけ、それ程のダメージを受けていたが、それでもパイロットは無事だった
っと言うことで第二話と言う名の第一話です
あまり間延びした展開は嫌いなんですが、ノリで書いた為、妙に長い文章になってます
以上、誰も読まない後書きでした