10. 勝利しました
ベルナール達は基地へ帰投した、プラントの技術を手に入れ勝利した、その事実は国中に知れ渡り喜ばれた、お祭りなどは開かれないが任務を達成し生き残ったベルナール達にはささやかながらも御馳走が振る舞われた、餓死者を出しているこの国からすればかなりの贅沢だろう
そんな夜を超えた翌日ベルナールはとある家の前に来ていた、気に入った女の子の家に行ってデートに誘う時は気軽にチャイムを鳴らすし、電話をかける時だって全然気兼ねなんてしない、しかし今度ばかりは手も足もどうしようも無く重かった。この家に来たことは何度かある、親友と話をするときや見舞に行くとき、そして・・・フーゴの妹に情報を流すとき
ベルナールがフーゴの家に行く理由の大半は彼の妹に情報を流すときだった、下心が無いわけじゃないが、一番の理由は罪悪感であった、フーゴが優れた作戦を立てる事が出来ると軍に認められたのは、雑談の中フーゴの作戦を聞いたベルナールが彼の作戦を上官に話したからだった、その上官はすぐさまベルナールに詳しい話を聞き、あの手この手でフーゴから作戦を引き出した、そのせいで本来なら乗るはずのないロイクに乗せられて、いくはずのない無茶な作戦に組み込まれた、フーゴが死んだ責任が誰にあるのかを問うのなら一番大きいのは自分なのだとベルナールは考えている、その罪の意識を少しでもなくすためせめて彼の情報と少々のお金や差し入れを妹に渡して家でねぎらってもらおうとしていたのだった
チャイムを押そうとする手がどうしようも無く重い、そのまま3分が経過し不意にドアが開いた
「ベルナールさん・・・」
アンネが顔を出してきた、アンネは家の前に誰かが来た事に気付いていた、しかし兄であればカギを持っている、この家にやってくるのは兄を除けばベルナールだけだった
アンネは察している、昨日この国が戦争で勝利した事を、そして勝利してなお兄が帰って来ず連絡も寄越さない事を、ソレがどういう意味を持つのか嫌でもわかってしまっている、この国に来る前に兄がスピリット国との戦争に行き敗北したと聞いて兄が死んだかもしれないと想像して目の前が真っ暗になった、帰ってきた兄はどうやら小さな怪我だけで済んだのだが、とても怖かった、アスファルト国の軍に入って市民権を得て今度こそ少ない時間でも一緒に居られると思ったのにまたロイクに乗ってスピリット国と戦うと聞いたときはどんなに軍を抜けるように説得した事か、それでも兄は戦争に行って今度はMIAという行方不明の報告を貰った、二日後ベルナールさんがこっそり兄が生きていると教えてくれなければどれだけ苦しかったかわからない、そして今回だ・・・アンネは察していた、もし兄が生きていることを報告するのならこんなに玄関で立ちつくすわけが無い、ソレはつまり・・・
「あのさ・・・・・・アンネちゃん」
「言わないで!・・・・・・下さい・・・」
両耳を塞いでアンネは家の中に入ってしまった、アンネは自分に言い聞かせる。きっと今回も大丈夫だ、兄はきっと不死身に違いない、だから大丈夫なんだ、少し帰るのが遅れてるだけなんだ、だから・・・だから・・・
「また・・・来るよ・・・」
そう言い残してベルナールは帰っていく、それから毎日のようにベルナールは親友の家を尋ねる、必要ならどんな事でもするつもりだった、例え憎まれても、せめて親友との約束だけは果たさなければならないから。
スピリット国では先日行われた戦闘についての話し合いが行われている、アスファルト国が行ったのは無茶苦茶な作戦だった、二度と誰も使わないであろう作戦ではあるが、その作戦がうまくいってしまった以上対策は練らないといけない、対策自体は簡単だった。例えば援軍を出すタイミングをほんのわずかに早めればよかった、基地からのミサイル支援をもっと早くやっていれば、今回任せたのは絶対的エースパイロットだった、とはいえ一機ですべてを相手にしようとせず最初から全力で戦わせ、ある程度戦ったら別のキルリオに交代させていれば・・・等々簡単に考えるだけでもいくつも思いつく、問題はそれらが全部今回の戦いでは行われなかった事だ、別にスピリット国の軍部が無能というわけでは無い、あんな作戦を使ってくる事自体が予想外だったのだ、ほんのわずかにどこかが狂えば簡単に崩れていたあの作戦は、まるで詰将棋のようにキルリオとスピリット国を追い詰めていった、対策が簡単であり、内容自体は遅くとも10分で終る、今やっているのは話し合いというよりも責任の押し付け合いという表現が近かった
「やはり現場判断を優先しすぎたのが敗因ではないかね」
所謂お偉いさんの一人が先日の戦いで出撃したキルリオのパイロット、ヒナノ アーベラインに向けて言い放った、こういうどうでもいい話し合いは良く行われているが、今回のは特にひどかった、付き合う気がさらさら起きないヒナノは
「すみません、体調がすぐれないので医務室で行ってきます」
と曲がりなりにも形式上は重要な会議を途中で抜けた、会議に参加している国の首脳陣の何人かは彼女の奇行に慣れているもののこれからの事を思うと頭が痛くなってくる、その中でも一人の男が大きくため息をついていた
キルリオのパイロットはスピリット国の国防上極めて重要だ、彼女あるいは彼らのようにキルリオを高レベルで動かせる魔力を持った人間は本当にごく少数しか生まれない、ゆえにキルリオのパイロットは体調不良を言い訳にすればこんな事しても何の罰則も無くゆるされていた。背後で猿たちの喚き声がするなと思いつつヒナノは医務室へ向かっていく、別に本当に体調がすぐれないわけでは無い、先日拾った面白い物を見たいがためだ
「そろそろ目を覚ました?」
ヒナノは医務室の先生に尋ねる
「まだですよ、確かにそろそろ目を覚ましても良い頃合いではありますが」
先生はそう返す、ヒナノはそのままベッドの横に行き寝ている病人の寝顔を見る、客観的にあまり良い顔つきではない、髪はボサボサで傷だらけの顔、しかし目の前のこの病人が前回の戦いであそこまで自分に酷い目を見せたと考えると腹が立つと同時にどうしてあんな事が出来たのか興味が尽きない
フーゴは医務室のベッドを占有し今日も眠っていた
前回の戦いにおいてフーゴはキルリオにぶつかる直前に脱出していた、その後AI操作によって緩やかに降下するロイクをヒナノが撃墜し、ヒナノとしてはパイロットは死んだとばかり思っていた。撤退中のヒナノがフーゴを見つけたのは本当に偶然だった、視界の端に一本の線が見えたのだ、そしてそこは死んだと思ったあのロイクの機体の近く、まさかと思い画面を拡大すると、ソコにはパラシュートと片手で這いつくばって移動する人間が見えた、敵のロイク達は別方向から撤退している、このままならあのパイロットは死ぬだろう、ならばとヒナノは拾うことにした、おそらく自分と2度以上戦い生き残っているであろうあのパイロットを
三行要約のターン
戦争に勝ったけど、辛いベルナールとアンネ
そんなの関係ねぇ、と寝るフーゴ
おしまい
っという事で終了です。万が一要望でもあったら次を投稿しますが、次はまた別作品を投稿予定。まぁ、そもそもこの作品の、しかも後書きまで見てる物好きが一人でもいるのかって話になりますが、書き溜めたらのんびりとコレの続きも投稿予定ですがいつになるやら
以上誰も読まない後書きでした