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出会い その3

 雪菜は何やら商業ビルの壁に貼ってあるポスターをじっと見つめていた。「何をそんなに熱心に見ているのだろう」と気になったが、大方美容サロンとかマッサージの類だろうと秋人は予想した。


 熱心にポスターを見る雪菜、そんな彼女の元へ二人の男性がやってきた。


 一人は金髪碧眼の、日本人が想像しそうな欧米系の白人だった。もう一人の男性はこれまたジャズでもやってそうな背の高い黒人で、夜にも関わらずサングラスをかけていた。


 様子を見ていると別に知り合いというわけではなさそうだ。むしろ雪菜は困った表情をしていた。


 とりあえず事情を知るために近寄ってみると、困っている理由が分かった。


【このポスター見てたってことはお嬢ちゃん、俺たちに興味あるってことだろ。良いぜ一緒にアメリカンドリームを楽しもうぜ】


【もちろんドリームはベッドの上で見るもんだから、場所はホテルか俺たちの部屋の二択だぜ。もちろん野外もアリだけどな!】


 ……ナンパだ。


 外国人二人はアメリカ訛りの英語で下品なアメリカンジョークをかましつつ、随分強引と迫っていた。


雪菜の方を見ると、言葉も聞き取れずともナンパされているのは男たちの態度から理解しているようで、若干おびえた様子で「ア、アイ ドント スピーク イングリッシュ」とカタコトの英語で何とか断ろうとしている。


 けれど男の方は雪菜の英語を聞き取れないのかあるいは聞き取れないふりをしているのか、構わずに口説き続けている。通行人の中には彼女が困っているのに気付く人は何人もいるが、見慣れぬ異国人を恐れて誰一人として助けに行かない。


普段全く話さないクラスメートとは言え、さすがにこれを放置して通り過ぎるほど秋人は腐っていなかった。近くに交番があったのを思い出し、ダッシュで警官を呼びに行こうとした矢先だった。黒人の男の方が雪菜の腕をがしっと掴み、無理やりどこかへ連れて行こうとした。


 ……もう悠長なことは言っていられないらしい。


【ちょっとすみません、彼女は俺の連れなんですが、何か用ですか?】


 英語で話しかけながら雪菜の腕から男の手を振り払う。突然の介入者に驚いて雪菜は秋人を見つめていた。


一方ナンパ二人組の方はというと、一瞬きょとんとしたものの、すぐ機嫌悪そうに秋人を睨んだ。


【なんだお前、俺たちの邪魔すんなよ。見ればわかるだろ、今このプリティーガール口説いている最中だからあっちでじっとしてろ】


 黒人の男はそういうと、秋人の目の前に立って威圧してきた。しかしここで引くわけにはいかない。後ろには未だおびえた様子の雪菜が控えている。


【あんた、高校生をナンパとか何考えているんだ。警察呼ぶぞ、母国へ強制送還になりたいのか?】


 そういうと秋人はスマホを取り出して電話をかけようとする。すると白人の方が途端にうろたえだした。


【なぁ、行こうぜ。さすがに警察はまずいだろ】


【チッ、くそが】


 男たち二人は悪態をつくと、足早に去っていった。


 雪菜の方を振り返るとおびえた様子はもうなく、代わりに状況が整理できず呆然としていた。


「大丈夫だった?」


「えっと、大丈夫。ありがとう。同じクラスの秋月君だよね? 英語、話せたの?」


 口調の方はいつもの冷静な感じに戻っていたが、目には疑念の色が浮かんでいた。


「え~と、実はそうなんだけど……」


 仕方がないとはいえ英語が話せることはバレてしまった。「さてどうしようか」とどう口止めしようかと考えていると雪菜の見ていたポスターが目に入る。


『Practical English conversetion』


 直訳すれば「実用的な英会話」、おそらく英会話教室のポスターだろう。なるほど、さっきのナンパ二人組が水川さんをナンパしていたのはこういうことだったのか。確かにこれなら外国人に興味があると勘違いされるのも納得だが……、それでもあんな強引なやり方が許されるわけではない。


 心の中でボソッとさっきの外国人二人に文句を言っていると、スマホから呼び出し着信音が鳴った。叔父からだ。


『もしもし。思ったより時間かかっているけど、大丈夫?』


「あ~ごめんなさい。大丈夫、今戻ります」


『なんだ、事故に巻き込まれたとかじゃないんだね。それならよかった。気をつけて帰っておいで。ゆっくりでいいからね』


「了解です。でもまだ仕事も残っているしすぐ戻ります」


 そう一言言って電話を切ると、雪菜の方を見る。「仕事?」と不思議そうにしていたが、まだ残りの翻訳が終わっていないのですぐ戻らねばならない。


「ごめん、ちょっと急ぎだからこれで。あと英語が話せることは黙っててくれる? あんまり人に知られたくないんだ。電話の件も内密にお願いします」


「……分かった」


 深く考えた後承諾したのを確認すると、秋人はすぐにその場を離れた。

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