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ギルティスノウ  作者: JUN
2/8

鹿の赤ワイン煮

 一向に止む気配のない吹雪と、外界との連絡手段の無いこの状況に、不安が募り、それが苛立ちを加速させる。携帯電話を試してみたが、電波が入らなかったのだ。

 ここがどこなのかすらわからない。ホテル側も僕達が帰らない事に気付いて、警察に届けてくれているとは思いたいが、この悪天候じゃ捜索隊も出られないだろう。

 皆、段々言葉が少なくなっていき、黙ってストーブの前に座るだけだ。

 昨日、最後のカップめんを、皆で分けた。そうめんももうない。僕は風邪をひいたのか、熱まで出だしている。

「腹減ったなあ」

 草津先輩が言って、黒川先輩に、

「言うな。余計腹が減る」

と言われている。

「食料が無くなった。助けが来ないと、寒さより先に餓死するな」

 黒川先輩が言って、別府先輩は引き攣った笑みを浮かべ、

「ハードなダイエットねえ」

と言うが、合わせて笑う者はいなかった。

 翔子は僕の額に手を当てて、

「寝てた方がいいよ、健太君」

と言い、それには皆がその通りだとソファをストーブの前に運んでくれたので、ありがたくソファをベッド代わりに、横にならせてもらう。

「こんな時に、本当に役に立たないで、申し訳ないです」

「ばかね。風邪なんだから仕方ないわよ」

 翔子と別府先輩は笑ってそう言うと、毛布を被せ、ぼくはウトウトとまどろんだ。


 夢現に、声を聞いた。

「このままでは、全員死ぬ」

 黒川先輩が押し殺したような声で言った。

「救助に来てくれるんじゃないの?」

「ここにいる事を誰も知らないのにか?それにこの吹雪は、おさまりそうにない」

 すがるような別府先輩の声と、冷たく否定する草津先輩の声が続く。

「どうすればいいんですか」

 翔子の声は、震えていたか。

「……食料を、何とかしないとな」

「ああ。……足手まといから……」

 熱のせいで再び眠りに落ち、あとはもう、わからなくなった。


 額に触れる冷たい手の感触で、目が覚めた。

「大丈夫?まだ熱は下がらないみたいだけど……水分も摂らなきゃ」

 翔子だった。

「ありがとう」

 かすれた声で礼を言って、差し出された水の入ったコップを受け取り、飲む。自分で思っている以上に喉が渇いていたらしく、一気に飲んだ。

「はああ。美味しい」

「シチューができたぞ。

 お、山代。食べられそうか」

 草津先輩が、鍋を、黒川先輩が食器を運んで来た。

「はい。すみません。

 でも、材料はどこにあったんですか」

「鹿肉が保存してあったよ。庭の納屋に」

 黒川先輩が言い、草津先輩と、シチューをよそっていく。

 いい匂いに、空腹が刺激される。

「野菜は無かったんで、シチューというより、赤ワイン煮かな。野菜抜きの」

 草津先輩は言って、4枚の皿にシチューをよそった。

「あれ?別府先輩はどうしたんですか?」

「別府は、助けを呼びに、山を下りて行ってみると主張してな。行ったよ」

 黒川先輩が答え、草津先輩が継ぐ。

「まずは食べよう。冷めてしまう前に」

「そうですね。さあ、健太。スプーン」

「あ、うん」

「じゃあ、いただきます」

 皆で手を合わせ、皿にスプーンを突っ込む。

 温かくて、しっとりとした弾力の肉に、深い赤ワインのコクが馴染んでいた。

「ああ、美味しい」

 翔子がホッとしたように言った。

「何か、申し訳ないですね、別府先輩に」

 今頃、寒い吹雪の山中を歩いているだろうに。

 皆は手を止め、しばし考えるようにしてから、また食事を再開した。

「しっかり食べろ。熱量を失ったら死ぬぞ」

「はい」

 黒川先輩に返事をして、僕達は久しぶりに、温かい食事をお腹一杯に食べた。

 吹雪はまだ、やむ気配がない。






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