その19・爆音
ドーン
ドーン
ドーン!
景気の良い爆音はしばらく続いた。
「えっ?なに?きゃー」
ワタシは訳も分からず逃げ惑う。
1番安全そうな、ゼロの背中あたりに隠れてみた。
“宵の黒”の戦士たちは、慌てる事なく背中の大きな剣を引き抜いて構えている。
「誰だ!」
ゼロとゼロニ以外の人(すみません覚えてません)が叫ぶ。
「ガッハッハー!」
あちこちに立ち登る砂煙の中から、
1人のでっかい男が
ニョキッ
と現れた。
まだ煙の立つ大砲みたいな金属の筒を背負っている。
「やっぱりオマエか、赤のガイ」
ゼロは剣を下ろして筒男を見た。
「戦争だってのに、この俺様を呼ばないなんて水くせ〜じゃねーかよー!
格安で役に立つぜ!」
赤のガイと呼ばれた男は、通りすがりに他の戦士と手のひらを合わせて挨拶した。
(かなり親しいんだな…)
ワタシはゼロニの横に移動した。
「ゼロニさん、あの、赤のガイって人は何者なんですか?」
「ああ、ガイは、少し前は“赤のゼロ”だったんだ。つまり、“空の赤”のリーダーだったんだよ。」
「だったってことは、今は…」
「うん。ちょっと色々あってね、今は傭兵になってるの。で、いろんな隊に出入りしてるんだよ。」
「おう…(色々ってのが非常に知りたいが、空気読んで我慢します)」
赤のガイは、めざとくワタシを見つけて、ドカドカと歩いてきた。
身長も190センチぐらいありそうだが、体重も100キロは超えてそうな巨大である。
歩くと冗談抜きで大地が揺れる。
低身長のワタシの目の前に立たれると、お日様が見えなくなるレベル…視界が暗い…
「おう、黒が女連れなんて珍しいな!
…戦士って訳でも、慰み用(⁈)って訳でもなさそうだし!
どうしたんだ⁈拾ったのか⁈」
ヒトを落とし物みたいに…
ゼロが答える。
「コイツは、こう見えて凄く便利なんだ。
☆(便なだけにね!とワタシは心で突っ込みます。以外☆のセリフはワタシの心です)
ま、そんなことはどうでも良い。後で体験してみればわかる。
☆(まあね)
今回の戦場は沼のローコリ王国だぞ。
厳しい戦いだ。
☆(なんですと⁈)
それでも一緒に行くのか?死んだ場合はゼロ報酬だぞ。
☆(なんですとーー!)」
「いつものことだ、行くさ!
(☆戦〈いくさ〉なだけにね!)
そうだ、急いだほうがいい。ある筋の情報によるとローコリ王国に援軍が集結するらしいからな。」
とまあ、1人増えてワタシたちはローコリ王国という謎の国へ急ぐ事になったのです。
しかし困ったことに、この大男が、めちゃくちゃワタシにちょっかいを掛けてくる…
「ちっちゃ!(身長)うっす!(顔)短っ!(足)」
でっかい肘をワタシの頭に置くので、重くて仕方ない。
その度に、「ヤメロ」とゼロが注意してくれるのだが、ガイはお構いなし。
それどころか、ドンドンエスカレートしていく始末。
ほっぺを摘んで伸ばす、髪をもしゃもしゃする、突然首根っこを掴むなどの被害が。
会社だったらセクハラでコンプライアンスがぁぁとか叫びたくなった。
「いーーー加減にしてください!いーーー加減にしないと…」
ついに温厚で有名なワタシも切れた。
怒りを込めて、手のひらで素早くガイのお腹で回す。
「う、あっ?」
ガイは秒で林の中に駆け込むハメになった。
天誅である。
ドーン
大砲ではない音がしたかと思うと、青い顔をしたガイがノソノソと出てきた。
「な、何をした女…」
戦士たちは皆笑い転げた。
ゼロをチラリと見ると、ゼロも笑っている。
初めて見た。
流石にイケメン、笑顔が眩しい。
ガイはゼロに意外なことを言った。
「オマエ、変な女を好きになったんだなぁ」