その18・必殺技
「オマエハコンヤオレトネロ」
読みづらくてすみません、オマエは今夜オレと寝ろ、と、
黒のゼロは仰った。
「は?はぁ?」
顎が外れそうなくらい驚くワタシ…だってね、こちとら人妻のアラサー(地味)、
あちらは金髪イケメン推定20代前半である。
なんというか、正直対象外だと思う…お互い。
女ならとりあえず誰でもいーやー、というスタイルのヒトかもしれないけど。
ゼロはモジモジしているワタシの肩をグイッと引っ張った。
コレは憧れの少女漫画的シチュエーションでは⁈
きゃー(棒読み)とか言ってみる。周りの人はあまりのワザとらしさにシラケたけど。
「いいから早く来い!」
いやいや強引なのも悪くはない気もしてきたが、
いかんせん全くヤル気が起きないんだけど…弟みたいな感じだし…
とかとか思っていたら、ゼロがそっと耳打ちしてきた。
「一緒に寝て、溜まったモノを出してくれ…」
え?もしかしてウ○チのこと?
いや待てよ、結構な下ネタ?
上の2行はしっかり口に出ていたらしい。
「ウ○チのことだよ!!」
ゼロは下腹を押さえながらそう言った…
満点の星の下…。
ちょっとした崖の窪みに、マントを敷いて、ワタシはゼロと寝るハメになった。
確かにゼロのお腹の辺りには、随分溜まっているようだ。
「昨日出したんですけどねぇ」
お腹をクルクル撫でながら呟いてしまった。
ゼロの返事はない。
「宿便、ってヤツですかね」
なんの救いもない声も掛けてみたり。
なるべく丁寧に集めてあげようと思う。
くるーくるーくるー
時折、
((くるくるされてるー))
などというあの可愛らしい声が聞こえてきて和んだ。
(ちなみに声の正体は多分ウ○チちゃんです)
((お腹がスッキリしたら、ヨッシーとヤリタイナー))
「ん?」
ウ○チちゃんがとんでもないことを言ってる。
((ヨッシー可愛い…ヤリタイナー))
ええ⁈
ウ○チちゃんの声は、多分だけど主人であるゼロの声な訳で、
ゼロはワタシを可愛いと、
しかも
ヤリタイナー
と思っているの⁈
チラリとイケメンの顔を見ると、
頬を赤くしてこちらを見ていた…
かなり久しぶりに見た、男子が、
「まあまあ好意を持っている女子」
に向ける眼差しである!
(う、嬉しいんだけど、心構えと体毛の準備が出来ていない…!)
ワタシは必殺技を繰り出した。
この商い(ウ○チ職人)を始めてから、密かに特訓してきた、
秘技!恐怖!震撼!ゲリゲリウ○チ!!
だーー!
コレはもちろんその名の通り、ウ○チを必要以上にゆるくしてお腹を痛くさせるという
世にも恐ろしい技なのだーー!
「うっ」
小さくうめいてゼロは森の中へ走っていった。
ああ、生理現象の前では、イケメンも台無しだな…
何故かしてやったりと思いつつ、ワタシは星空を眺めたりした。
そんなわけでワタシは何事もなく朝を迎えることが出来た。
ゼロは不満顔だが、仕方あるまい。
しかし、こんな有名な軍団のリーダーが、ワタシのことを憎からず思ってくれている、というのは気分の良いモノだ。
「なに、ニヤニヤしてるんだ」
思いっきり顔に出ていたのであろう、ゼロがワタシを睨みながら聞いてきた。
「なんでもないでーす」
朝ご飯の支度をしながらシラを切る。
支度といっても、持ってきたパンと干し肉、果物を切り分けるだけの簡単なお仕事だ。
(いやー、しかし異世界転生っつても、やってることは地味だな…当たり前なんだけど…)
などど呑気に思っていたら、
ドーン!!!
とものすごい音と共に足元が揺れ、大量の砂煙りが舞い上がった。