その15・ザワワ
スパイ容疑をかけられる事が、自分の人生に訪れるとは思わなかったので、
ほんの少し嬉しい気持ちを感じつつ、
出来るだけ真面目な顔をして答えた。
「全然スパイなんかじゃありません!
ただのウ○チ職人です!」
「ウ○チ職人?」
テーブルの皆がざわつく。
私の心もざわつく。
いや違う違う間違えた、ホントは
「コロッケ職人」
と豪語するつもりだったのだ。
(コロッケが“宵の黒”の皆様に大好評だから大目に見てもらえるかと思うて…)
色々混じったのと緊張で、
よりによってこの口から出た言葉は
「ウ○チ職人」
じゃった…嗚呼…
「ウ○チ職人とは、なんだ?」
金髪イケメンリーダーが、おおよそ似合わないお言葉を投げ掛けてくる…と同時くらいに、
宿の主人アレクセイが駆け寄ってきた。
「やだ、この子ったら、ちゃんとご説明しないとダメじゃないー!
いえね、この子は、便秘を治す事が出来るんですよ!」
ひねりもへったくれもない雑な説明。
「へ、へえ」
戦士の中の1人が、仕方なく相槌を打ってくれた。
「あ…実はオレ、ここ3日出てなくて。」
まさかの告白タイム。
「いやー、実はオレも。4日出てない」
ちょっと待ったタイムか?!
「そうよね、お兄さんたちはずっと馬上の移動で、なかなか出せないものねぇ。
さ、ヨッシー、ウ○チをお出しして差し上げて」
「うぁい?」
ウ○チをお出ししてとかいう変な言葉と、ヨッシーという自分のあだ名に違和感が残っていてマヌケな返事をしてしまった。
「まさか、そんな事出来るわけないだろう」
リーダーのバカにした笑いにムッとしてしまった。
「で、出来ます!ワタシにはコレしか特技ないんですから!
さ、便秘の皆様、並んでください!」
まさかの5人、キチンと列を作って並んだ。
もしかしたら恐ろしい軍団ながら、教育は行き届いているのかも知れぬ。
とにかく失敗は許されぬと思うと緊張すした。
顔に血液が登ってきて鼓膜がビンビン響くような感じ、分かるだろうか…
そんな状態の中、幸いにもウ○チくんはハッキリと見えてきて、
ワタシは厳かに下の出口までご案内していった。
ご案内が済んだ方からトイレに直行だ。
初めは馬鹿にしまくった顔で見ていた金髪リーダーの顔が、
3人目のご案内から変わってきた。
明らかに、「やるな、お前」の顔なのだ。
なんか気持ちいい。
そして、4人目の時、
ワタシは不思議な現象に気がついた。
((すげ〜なー))
明らかに、ここにいる誰でもないモノの声が聞こえるのだ。
((肉ばっかり食うからだな))
そう言えば、さっきリーダーとトイレ前で出くわした時にもこの声、聞こえていた。
可愛い、とか言ってたやつ(忘れぬ)
「????」
ワタシがキョロキョロしているうちに、最後のご案内の方がトイレに消えて、
あの「丸っこい声」が聞こえなくなった。
もしかして…
ワタシの心臓が騒ついた…!