その14・コロッケ地獄
“宵の黒”のリーダーは、意外にも親切に、足元に転がって来たジャガイモを拾ってワタシに手渡してくれた。
「あ、ありがとうございまぅす…」↑
緊張で声が裏返る…少しでもご機嫌を損ねたら斬り殺されるのではないかと思うと手も足も震えた。
幸いな事にリーダーはワタシを一瞥しただけでトイレの方に行った。
良かった、ありがとうトイレ。
意味もなく万物に感謝を始めるワタシ。
通りすがりにふと、声が聞こえた。
((可愛いな))
「?」
可愛い、とは、ワタシのことだろうか??
そしてこの声は?
“宵の黒”のリーダーにしては、ちょっと可愛い声だった。
表現しにくいけど、「丸っこい声」みたいな感じ。
いや、幻聴かもしれない。
命拾いした安堵感が生み出した幻の…
まあ、そんな事気にしている場合ではないので、ワタシはジャガイモを再び抱えて台所に戻った。
そこからはコロッケ地獄だった。
ワタシのコロッケは、“宵の黒”軍団の皆様に大好評だったのだ。
作っても作っても注文が入る。
一度に1人3個としても、それだけで60個。
(アホウドリかカモメだかがコロッケを揚げる絵本あったなぁ)と思い出に浸る暇もなく、
ひたすらコロッケを揚げる。
お酒が進むのかお酒もガブガブ飲む。
そしてコロッケを食べる。
からのお酒。
エンドレスコロッケ&アルコール…
そろそろワタシの腕とジャガイモが終わる、という時になってやっと戦士たちは食事を終えた。
何が驚いたかって、そんな状態なのに何人かの男たちはウチのお嬢さん方を上の階のお部屋に連れて行った…元気すぎる…
まあ、でも多分コロッケに入れまくったスパイスのおかげで、彼らは早々に眠りにつき夢の中で楽しい思いをするだろう。
大量のお皿を台所に運んでいると、リーダーと数名の戦士がまだ奥の机に座って話し合いをしているのに気が付いた。
地図らしきものや、何か描いた紙を広げているので、作戦会議のようだ。
(何も起こらないうちに早くこの町を出て行ってくれるといいけどな…)
後々、この考えは大甘だったと知る事になるのだけど、その時は呑気にそんな事を願っていた。
大量の皿は、コックたちが力技で洗うというので、
ワタシはサービスのお茶でも提供する事にした。
コーヒーのような飲み物にミルクとお酒を少し入れたもの。
「それ、なに?」
匂いにつられたのか、サンダーダー先輩がすり寄って来た。
「食後の一杯にと思って。先輩も欲しい?」
先輩は目を輝かせてウンウンうなずいた。
まだ余っていたので、平たいお皿に同じものを注ぐ。「はいどーぞ」
サンダーダー先輩は、恐る恐る小さな舌を付けた。
熱かったのか、最初は「にゃー」とか言っていたが、すぐにペロペロ飲み尽くした。
「旨ーい!お代わり!」
猫にあげていいのかしらと思いつつ、まあ普通の猫ではなさそうだし、今度はたっぷり注いであげた。
にゃーにゃー喜ぶ先輩を背中に感じつつ、男たちにも運ぶ。
「コレはなんという飲み物だ?」
戦士の1人、中ではまだ優しそうな顔をした栗色の髪の男が聞いてきた。近くで見るとみんな20代前半くらいに見える。
名前がなかったな、と思いつつ、
「コレは…ホッとコーヒーです」
と答える。
我ながらセンスがない。
一応説明すると
ホッとするコーヒーだから、ホッとコーヒー…
なのよ…
「そうか、ホッとコーヒーか。」
戦士たちはうまいうまいと飲んでくれたが、ただ1人、金髪のリーダーだけは酷くこちらを睨んでいた。
「おい!キサマまさか、このお茶で近寄り、私たちの作戦を盗み見する気じゃないだろうな?
敵方のスパイか⁈」
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