その1・草乃よしの
(^^)日々少しずつ書いていきます。(完結していない作品を横目で見つつ…)久しぶりですがよろしくお願いします!
「草乃さんって、怒ることある?」
そろそろ三十路のワタシは、小さい頃からよく友人知人同僚などにこう聞かれることが多い。
「あるよー、あるある!
ダンナに腹が立ったら、ものすごーく怒るよ〜」
「えー、ホントー?」
「あはは、いがーい」
この手の会話は別にそこから広がることなく少しの笑いを起こすだけで終わる。
ワタシは草乃よしの、結婚して2年目に入ったばかりの29歳、派遣事務。
名前が「よしの」なのに、「草乃」の苗字になって、「くさのよしの」などというちょっと古いお笑いコンビ名みたいになってしまった。
でもお陰で覚えてもらいやすいけど。
ワタシは外見が小柄なのと、常にニコニコ(ニヤニヤ?)しているのと、喋り方がゆっくりなせいで、おとなしい性格に見られることが多いのだけれど、
中身は
おとなしいというか、多分皆様の想像以上の
ヘタレ
である。
小さい頃から躾が厳しかった祖父のお陰で、人の顔色を伺うタイプになってしまった。
とにかく目上の人を敬えとか、男を立てろとか、友達にも礼儀正しく出過ぎるなとか、時代錯誤なことを言われて育った。
この歳になった今となっては、その理不尽さに気がついたけれど時すでに遅し、
上司にペコペコ、男女問わず下に見られていいように使われる、という女が出来上がっていた。
とはいえ、モテなかったわけではない。
お声だけは少し掛けてもらうタイプだ。
よく言われるのが、「恋人よりもお嫁さんにしたい」らしい。
それって誉めてるの?
「着飾って連れて歩いてお洒落なレストランに同席させるというより、家に置いてお茶漬け食わせて家事育児させたい」と言われてる気がして、大変微妙な気分になる…
まあそのお陰で、平凡なワタシが高学歴のダンナと結婚できたわけだけどね。
今日も定時に、派遣先の小さなデザイン会社を速やかに退社する。
3日に1度は残業を頼まれるから今日はセーフな日だ。
とは言え、ビルを出るまでは安心できない…とか思っていると、
「草乃さーん!」
後ろのエスカレーターから自分を呼ぶ係長の声が聞こえてきた…
ああ…今日はアウトだったか〜と思いながらも、1秒で気持ちを立て直し笑顔で振り返る。
「はい、大山係長、何かやること残ってましたか?気が付かずに出てしまってすみません。」
大山係長は大袈裟なくらい「はーはー」と息を切らせながら言った。
「ちがうちがう!今晩うちの課で、歓迎会をすることになってるの!
草乃さんに連絡が回ってなかったみたいで、ゴメンね?6時半からだけど来られる?」
嘘だな、とすぐに分かった。
初めから派遣は誘う気がなかったくせに、女子の参加率が悪くて急遽声をかけてきたに違いない。
ワタシなら断らないの分かってるからね…
そしてもちろん、
「はい、大丈夫です。
参加させてください(^^)」
って言っちゃうのよ…。