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第四話 残された者

 エルロイを追放した第一王子と第二王子は祝杯をあげていた。

「とうとう奴を殺せなかったのは残念だが、ウロボロスラントへ追放した以上早晩野垂れ死ぬであろうよ」

「全くだ。ようやく王宮で目障りな奴の面を目にせずに済む!」

 特にヘルマンはエルロイが目障りで仕方がなかった。

 婚約者のコーネリアがエルロイと仲がいいのもそれに拍車をかけていた。

 正直血筋さえよければ、父である国王もエルロイを後継者にしたのではないだろうか。

 そんな疑念がどうしてもヘルマンは払拭できずにいた。

 しかしながらエルロイは血筋が悪く、そのため支援してくれる派閥を形成することができなかった。

 それではたとえいかに有能でも国政を担うことはできない。一人で国家を運営することはできないのだ。

 もし公爵クラスの大物がエルロイを全面的にバックアップでもすれば、あるいは事態は変わったかもしれないが、そうした空気ができる前に排除に動いた母カサンドラは慧眼であったといえるだろう。

「何か月もつと思う?」

 アンヘルの意地悪な問いに、ヘルマンはぐっとエールを飲み干して断言した。

「手持ちの食料が尽きたら終わりさ! 魔物に食い殺されるのが早いか、飢え死にするのが早いか、一か月ももたないだろうよ!」

「…………だろうな」

 少なくともアンヘルやヘルマンが行けばそうなる。

 ウロボロスラントへの追放は、いわば死刑執行されたにも等しいのだ。

 あの土地は人が生きていくには厳しすぎる。

 なのに、なにかを忘れているような焦燥感が、アンヘルの胸から消えなかった。

(なんだ? 俺はいったい何を忘れている?)

 答えの出ない問いにいらだちを覚えつつ、アンヘルはヘルマンに倣ってエールを喉へと注ぎ込んだ。

「それでだな兄上」

「うん?」

 早くも酔い始めたヘルマンは機嫌よくアンヘルに言った。

「そろそろ俺も結婚式をあげる頃合いだと思うのだ。邪魔者もいなくなったことだしな」

 婚約者のまま留まっていたコーネリアとの結婚を口に出すヘルマンに、アンヘルは内心で嘲笑した。

(あんな生意気そうな女と政略結婚することがそんなにうれしいか)

 確かにコーネリアはアンヘルが見ても美しい女性だが、所詮は外国の女である。

 当然同盟国に対して気を遣わなければならないし、向こうも故国に恥をかかせられないからプライドが高い。それに何より色気という点ではマルグリットに劣る。

 そんな女は飾りとして、自分の好みの女と楽しくやっているほうがよほどいいではないか、とアンヘルは思う。

 それはそれとしておくびにも出さず、アンヘルはにこやかに言うのであった。

「両国の絆を示すためにも盛大に催すのがよいだろう」

「おおっ! やはり兄上もそう思うか!」

 基本的に単純なヘルマンは立ち上がって喜んだ。

 王位をめぐって争う関係にある兄弟とは思われぬ光景である。

「スペンサー王国の手が伸びてくるのもそう遠い日のことではないだろう。我が国も一国で対抗するわけにはいかぬ」

「いやいやスペンサー王国といえど先年戦ったばかり、しばらくは内治に勤しむであろうよ」

 勝利しても敗北しても、戦争は巨大な消費を伴う。その消費された人命や物資を補充するのは並大抵のことではない。

 通常の国家ならしばらくは外征などできなくなるのが普通であった。

 だからこそ二人も悠長に構えて居られたのである。

 本来、第二王子の結婚は吉事とはいえ取るに足らない話であるはずだった。

 しかしこの結婚式が、ノルガード王国とヴェストファーレン王国にとって大きな分岐点となることをまだ誰も知らない。

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