裂雷
俺は体内の魔力を練り上げる。
強く、強く。
確かにこのリオの魔術は学生にしては規格外。
ドラゴンの鱗に傷をつける程度の威力はあるかもしれない。
だが、その程度だ。
ドラゴンを何匹も狩ってきた俺の相手じゃない。
「さて、久しぶりに冒険者時代の魔術でも使うか」
俺は掲げた手の前に魔法陣を展開する。
黒雷では範囲が狭い。
広範囲で一気に岩石群を粉々にする。
多重魔法陣が、迫るメテオに向けて次々と連なっていく。
「いけえええ、ノアああああ!!」
詠唱破棄。
多重魔法陣最終三層省略。
身体から一気に、練り上げた魔力を腕へと流し込む。
「"裂雷"」
眩い白。視界を奪う光が放たれる。
遅れて。
――雷鳴。
「――ッ!!」
多重魔法陣から放たれた稲妻は、天高く放たれると、その中央の核から無数の稲妻が炸裂する。
それは巨大な球状の物体の中で雷が縦横無尽に走り回るように、その範囲内の異物を悉く破壊する。
「な、なんという……」
「おいおいおい……」
「天災……」
見るものすべてが、その光景に唖然とする。
規格外――リオ・ファダラスをそう評価した魔術師は多くいた。
しかし。
本物がここにいたと。
誰もが思った。
「あぁ……あぁ……!!」
空を見上げるリオは、声にならない声を上げる。
超高高度から降り注ぐ岩石は、裂雷の範囲内に入ると瞬時に落雷を受け、粉々に砕け散る。
それはまさにフルオートの迎撃システム。
サンダーボルトの純粋強化版。
物の数十秒で、さっきまで空に有った脅威はその姿を綺麗さっぱりと消し去った。
「――ふぅ。俺を殺す気だったのはいい判断だ。けどよ、最後の最後、策を捨てて威力だけに走ったのは愚策だったな」
「何……?」
「俺は最強だぜ? 真っ向勝負なら負ける訳がねえ」
俺の言葉に、リオは一瞬唖然とした表情をして、すぐさまキシシと笑う。
「……あーあ、僕の負けだ」
そう言って、リオは大の字になって地面に転がる。
もう魔力も体力もすっからかんだ。
その光景を見て、審判が声を上げる。
『長きに渡った本年度の歓迎祭!!! 決勝! 優勝者は――――』
「ノアああああ!!!」
「うおっ」
涙目になって駆け寄ってきたアイリスが、俺の胸に飛び込んでくる。
「さすがノア!! ノアが優勝よ!! 私信じてた!」
「はは、サンキューな」
『ノア・アクライト!!!』
◇ ◇ ◇
あの後は大変だった。
根強いアイリスファンからのブーイング、アーサーからの嫉妬の眼差し、そして最後凄かった! といういつの間にか出来た俺のファンからの歓声。
優勝ということで表彰台に呼ばれ、学院長から直々に勲章をもらう。
俺の制服の胸元には、きらりと輝くバッチが追加された。
そして今年の歓迎祭の最後のイベント。二年生との歓迎試合。
試合数の多い決勝組は参戦はなく、俺とリオを除いた計六名が、今闘技台の方で二年生と手合わせをしていた。
その試合も順調に進み、今はレオが戦っているらしい。
そんな喧噪の中、俺は医務室でベッドに軽く横になっていた。
「何で俺が……」
「だめだよノア君! あれだけ凄い威力の魔術を使ったんだからちゃんと休んでから戻らないと!」
と、ニーナはまるで保護者のようなことを言う。
「つってもなあ。別にそんな疲れてないし……」
「へえ、アイリス様に抱き着かれて疲れでも吹っ飛んだんですか」
「えっ」
ニーナの今までに聞いたこともない程冷たい口調に、俺は一瞬びくんと身体を震わせる。
なんて冷たい声と目だ……なに!? どういう感情!?
「わ、わかったわかった。少し休んでから上に戻るよ……」
「それでよし。……でも本当にノア君が優勝しちゃうなんて」
「疑ってたのか?」
「いやいや! 信じてたけど、実際そうなるとあらためて凄いなあって。なんだか別世界の人みたいで……」
ニーナは少し照れ臭そうにそう言う。
「何言ってんだよ。ニーナも凄かったじゃねえか。いい勝負だったぜ」
「ふふ、ありがと。私もノア君に追いつけるように頑張らないとね!」
そう言ってニーナはグッと拳を握る。
「そういや、リオはいないのか?」
きょろきょろと周りを見回すが、眠っているレーデ以外誰も居ない。
「あぁ……彼女はほら……ね?」
「?」
「ノア君が吹き飛ばしたからいいけど、危なく会場に甚大な被害が出そうだったでしょ? だからちょっとお叱りというか……呼び出されていると言うか」
「なるほど」
「まあでも、ちゃんと実力のある魔術師の人たちが万が一の為に会場で防御魔術をいつでも使えるように準備していたから、問題はそんなにないと思うんだけどね」
「ふーん。まあ後で聞けばいいか。退学とかなったらつまらねえからな。あいつには良い対人戦の相手としてまだいてもらわねえと」
リオはなかなか強かった。
俺の為にもいて貰わないとな。
「相変わらずだなあ。……それじゃあそろそろ私が試合だから行ってくるね」
「おう、がんばってこいよ」
「うん!」
そういってニーナは席を立つ。
終わった。歓迎祭が。
俺なりになかなかのインパクトを残せたんじゃないかとは思う。
シェーラの課題としては、まあ及第点だろう、多分。
とその時、コンコンと医務室のドアがノックされる。
「ん……?」
特に俺からの返事を待つことなく、その扉は開いた。
新作「最強剣士の下克上~魔術が使えず家畜と蔑まれたが、代わりにすべての魔術を破壊できる力を得たので剣術で最強を目指します~」を投稿してます!
「雷帝」を好きな方は気に入っていただけるのでは思います。
作者マイページなんかから飛んで見られますので、何卒よろしくお願いします。
感想評価待ってます!




