表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/157

完封

 予備のストックの様に、地面に数本の魔剣・聖剣が突き刺さる。

 一本一本が非常に禍々しい、そして神々しいオーラを放っており、観客たちもその荘厳な光景に感嘆の声を漏らしている。


 魔剣聖剣の類は一本操るだけで相当な鍛錬が必要とされている。それを複数同時に扱えるとなるとそれだけでレオの力が良く分かる。


 ――さて、どうするか。

 レオの攻撃を待っているのもいいが、そろそろこちらも攻撃を試してみたいところだ。対人戦の経験積ませてもらうとしよう。まずは手始めに……。


 一気に身体に電撃が流れ、俺は一瞬にして加速する。

 地面に焦げ跡が付き、俺の姿がレオの視界から一瞬で消える。


「速い……!!」


 レオは咄嗟に聖剣を構えると、防御態勢に入る。

 だが、遅い。とりあえず脇腹に蹴りを一発――が、しかし、捉えたと思った脇腹が幻影のように霞む。俺の足は、宙を舞う。


「!」

「聖剣ラグウォール――そこに僕はもういない」


 レオの右手に握られていたのは紫色をした細い聖剣。地面に刺されたうちの一つ。

 幻影を作り出す聖剣か。


 完璧に俺の背後を取ったレオは、すかさず地面に刺さった青い魔剣を引き抜く。


 氷を纏いながら、まるで舞うように俺に連撃を繰り出す。

 魔剣士としての剣術と、魔剣を使った魔術攻撃のコンビネーションだ。


「――"スパーク"!」


 紫電が、レオを襲う。

 レオはスパークを受け切るが、張り出した氷が一気に吹き飛ぶ。

 

「ぐっ……!! こんな単純な魔術で……なんて威力……!」


 俺はそのまま連続でスパークを放ち、レオの一瞬のスキを突き魔剣をその手から弾き飛ばす。咄嗟にレオは別の聖剣に手を伸ばすが、俺は先回りしてその聖剣を拾い上げる。


「へえ、これが聖剣――」


 が、手に取った瞬間その聖剣は元から無かったかのように消滅する。

 次の瞬間には、その剣はレオの手へと渡っていた。剣召喚の応用か。


「おっと?」

「はは、僕以外に触らせるわけにはいかないからね」

「へえ、さすがにそう簡単にはいかないか。まあ、そんなことだろうと思ってたけどよ」


 これが魔術師としての戦い……人間との戦いを想定した魔術か。

 モンスターが相手なら、相手に剣を使われるなんて想定する必要ない。なるほど、勉強になる。


 力で押してくるモンスターと違い、様々な効果を持つ魔術(レオの場合魔剣・聖剣だが)を使い俺の隙を作ろうとしている。だが――。


 レオは緑色の聖剣を構える。

 手に持たれたその一本の剣以外、地面の剣たちが消える。

 

「――聖剣"ヘルメス"」


 歪な形をした、美しい剣。

 レオはそれをゆったりと構える。身体の力を抜き、まるで普通の剣をもつようだ。


 次の瞬間。俺の”フラッシュ”と見まがう程のスピードで一気に動く。 

 

 高速での剣戟。インパクトの瞬間、"スパーク"にて威力を相殺するが、スピードの乗った重さに僅かに俺が押し込まれる。


 次は剣術重視の近距離戦! 面白い! 使う剣によりここまで戦闘スタイルが変わるか。


「っと……! "雷刀"!」


 雷の刃が、レオの聖剣を受け止める。

 バチバチと火花が散り、激しい光が迸る。


「くっ……聖剣を受け止める魔術……! さすがノア……!」

「はは、レオもやるじゃねえか」

「見せてくれよ、君の本気を……! こんなものじゃあないだろ!」


 レオは目を輝かせ、ニコリと笑う。


 なるほど。いいね、いい向上心だ。仕方ない、ここは俺が一肌脱ぐか。

 俺はぐっと力を入れレオの剣を弾き返すと、一定の距離を取る。


 手を前に構え、魔力を練り上げる。

 そのプレッシャーに、レオの顔が歪む。


「これだ……これだよ……! 僕はこの魔術を打倒して、君を倒す!」

「巨大すぎる力は得てして正確に測れないものだが……レオ、お前にはさすがにわかってるみたいだな。受け切れるか? この魔術が」


 魔法陣が展開され、眩い黄色い閃光が輝く。

 光に照らされながら、レオは目を輝かせる。


「もちろんだ。この魔剣に賭けて……! この身でその魔術を! その経験が僕をより強くする……!」


 レオは魔剣アルガークを構えると、ワクワクした様子で待ち受ける。

 さすが、根っからの魔術好きだな。


 レオは紛れもない天才魔術師の部類だろう。だが、まだ甘い。

 恐らく負けたことがないのだろう。それじゃあここで成長はお終いだ。


 俺の今後の脅威になってもらうためにも、完膚なきまでに潰してやろう。一撃で終わらせる。


「いい覚悟だ。本物を見せてやる」

「いいね……ゾクゾクするよ。これが僕の求めていた戦いだ」


「――――"雷光らいこう"」


 瞬間、静寂。


 眩い白い雷が何度も屈折し、そしてレオを貫く。

 遅れて、激しい雷鳴。


 剣を構えたレオは、一歩も動かない。……いや、動けなかったのだ。

 雷光の速度を上回る受けをするなら、剣を変えるべきじゃなかったな。ま、そっちだと受け切れないんだろうが。


 少しして、レオは片膝をつきながら苦しそうにせき込み、呟く。


「くっ……はは……! すごい……魔術……! これが……キマイラを倒した魔術師の魔術……!」

「意識があるレオもすげえよ。まあこれはその時の下位版だけどな」

「それでも……本望さ……!」


 そうして、レオはそのまま前のめりに倒れる。


 瞬間、歓声が沸き上がる。


「あのレオ・アルバートが手も足も出なかったぞ!?」

「どうなってるんだ今年の歓迎祭は……!!」

「本当に何者なんだあのノア・アクライトという奴は!!」


 激しい歓声が沸き起こる。

 レオは確実に優勝候補だった。それを、殆どレオにペースを譲ることなく撃破した。文字通りの完封勝利。会場が驚きに満ちない訳がなかった。


 レオとはもうちょい駆け引きをして戦いたかった。そこだけが残念だな。

 恐らくあの幻影を見せる魔剣や、速度を上げる聖剣、そのほかにも属性を纏った魔剣聖剣で剣戟の応酬をするのがレオの戦い方なんだろうが、俺の魔術に対抗できる手段はなかったというところか。まあしょうがねえ。


 この闘いを機にさらに強くなってくれることを願うぜ。

 ……いや、レオなら当然そうなるに違いない。それだけの気迫を感じた。


 確かに俺が圧倒したが、成長すれば厄介になるのは間違いない。

 さらに強くなったレオと本当の対人戦が出来る日が楽しみだぜ。


「しょ、勝者――ノア・アクライト……!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ