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それから

「こんなとこでどうしたんだ?」


  夜、真っ暗になった中庭で、ニーナがベンチに座り何やら感慨に耽っていた。

 みんなでの夕食もすみ、すでに寮へ帰ったと思っていたら出くわしたのだ。


 ニーナは俺の声に振り返る。


「ノア君。何か用事?」

「いや、暇だったからぶらついてただけだ。癖みたいなもんかな」

「癖?」

「ローウッドは田舎だからな。たまにぶらぶらとその辺を散歩するんだよ。空綺麗だし」


 すると、ニーナはふふっと笑う。


「……なんだよ」

「意外と可愛い趣味があるなと思って」

「うるせえ。……隣座っていいか?」

「もちろん。どうぞ」


 ニーナは少し右にずれると、俺に席を空ける。


「考え事か?」

「んーまぁね。やっと憧れの魔術学院に入れたし、いろいろあったなあって」

「まだそんな感慨に耽るにははええだろ」

「あはは、まぁね。ただ、やっぱりあの頃の私にはこの学院で学べるなんて夢だと思ってたから」

「……」


 入試を受ける時点で家に追手を送られる程反対されている。その事実だけで大体は察してしまう。なにやら多少親子関係に難がありそうなのは、口ぶりから察してはいた。姉ちゃんの存在もあるんだろう。


「ニーナはちゃんと卒業しろよ。せっかく助けたんだからよ」

「もちろん……! やりたいこともいっぱいあるし……ノア君の助けになるっていうのも残ってるし。……ただ、セーラさんがいなくなったのは悲しいけど」


 セーラの件は、細かな内容は一切公にはされず、ただ退学したとだけ風の噂で俺達の元へと伝わってきた。まあ、まず間違いなく粛清はされたんだろう。


 ただ、セーラがニーナの命を狙っていたと言うのは知る必要のないことだ。このままでいい。


「でも、ノア君のおかげでわたし、こうやって好きなことができてる。それを考えてると、こう……ふわーっと心があったかくなるというか」

「? わけわかんね」

「あは、そう言うと思った。――とにかく、ノア君には感謝してるの。ありがとね」


 そう言い、ニーナは俺の方を向くと満面の笑みを浮かべる。月の光が反射し、キラキラ輝く瞳はまるで宝石のようで、思わず吸い込まれそうになる。


「……気にすんなよ、そんなこと。俺もニーナのおかげで楽しいぜ? ただ最強を求めて入学したけどよ、やっぱり学院に来たからにはなんつうか、他の魔術師と話したりできるのは楽しいよ。くだらない話とかな」


 すると、少しの沈黙の後ニーナがズイと俺ににじり寄る。


「ちゃんとノア君が困ったら私が一番に駆け付けるからね。友達になったんだから」

「まだ覚えてたのか……」

「そんな前じゃないでしょー! 恩はいっぱいあるから。キマイラからも助けて貰ったし」

「ありゃ、たまたま俺がその場にいただけで――」


 すると、ニーナははあっと溜息をつく。


「ノア君は情に厚いのか、天邪鬼なのか判断に困るよねえ」

「……うるせえ」

「あはは! それもいいところだよ。……一緒に学べるようになって本当に良かった」


 そう、ニーナは改めて自分の幸福を噛みしめる。

 今までこういう関係は無かったかもしれない。同業者か、師匠か……冒険者として広い世界で戦ってると思ってたけど、案外狭いもんだったのかもな。


 シェーラは、これを見越してこの学院に俺を入れたのだろうか。ま、どっちでもいいや。この学院で学ぶのは俺なんだから。


「改めて……これからもよろしくね、ノア君」

「あぁ、よろしくな」

「ふふ……。あの時私を抱えて連れ出してくれてありがとう」


 ニーナの髪が風で揺れる。フルーティな香りが漂い俺の鼻を刺激する。月に照らされ、ニーナの顔が良く見える。


「はは、なんだよそれ。それくらいならいくらでもお安い御用さ」



 レグラス魔術学院――そこは、エリートたちが集う魔術の聖地。今日も校舎からは、魔術の匂いが立ち込める。

 

 S級冒険者の地位を捨て、代わりに俺はここで、最強を知らしめる。


 いよいよ、俺はこの学院で生活していくのだと実感が湧いてきた気がする。入学後の浮かれた雰囲気は徐々に消え、本格的に学院生活が始まろうとしていた。

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