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セーラ・ユグドレア

「へえ、ここでモンスターの研究を。凄いですね!」


 話を聞くと、このセーラという女はこの学院の三年で、この地下施設に入り浸ってはモンスターの研究をしているということだった。


 セーラは隈をぶら下げた目でニーナを見る。


「ふふ、そんなはしゃぐようなことじゃないわ。モンスターに詳しいソルファ先生に頼み込んでね。三年は殆ど授業はないから、皆それぞれの研究や修行に没頭してるのよ」

「へえ……」

「あなたの専門は錬金術っすか?」


 俺の問いに、セーラは嬉しそうに手を合わせる。


「あら、良く分かったわね」


 俺はセーラの持つ本を指さす。


「その本。前に見た事があってね。錬金術には実験台が必要だからな。モンスターを学ぶのもその一環かと思ってね」

「ふーん、錬金術なんてマイナーな魔術は余り知名度がないと思っていたけど」

「錬金術は他の魔術と違って公式を知っていさえすれば誰でも再現が可能だからな。俺みたいな平民出の魔術師にはなじみ深いんすよ。貴族とかだったら回復術師が医者としてくるんだろうが、ああいう田舎は錬金術師が薬作ってたりしますからね」

「あなた平民なのね。名前は?」

「ノア・アクライト」


 すると、セーラは何やら一瞬その虚ろな目を僅かに見開く。

 そして、あーっと声を漏らす。


「そう言えばドマさんがとある新入生のことをえらく気に入っていたけど。確か名前が……」


 セーラさんはうーんと頭の奥にある記憶を引っ張り出すように視線を上に上げる。

 

「そう――ノア……だったかしら。もしかしてあなた?」

「あの大男から聞いたんだったら、俺かもね」

「すごいわね。あの人、新入生に興味ある癖に扱いが悪いから相手を怪我させて勝手に失望したりするのよ。簡単に言えばタチが悪い」

「あはは……確かにドマ先輩のあれはいきなりでしたね……」


 ニーナはあの件を思い出し苦笑いを浮かべる。


「そう。だからまさかあの人が気になるっていう人が出てくるなんて思ってなかったから。……あなたもかなり優秀な魔術師なのね」


 俺は肩を竦める。


「まあな。少なくともあのドマって先輩の見る目は悪くない」

「ふふ、面白い子。あなたのことも覚えておくわ。――それで、ニーナちゃんはモンスターに興味があるの?」

「はい! 私召喚魔術を使うから、モンスターとかの知識も必要だと思っていて……それで勉強してたんですけど、本物ってあまり見た事が無くて」

「そうなのね。レイモンド家の召喚術は有名だから、私も知ってるわ。確かにモンスターの知識を持っておくことは重要ね。――だったら私達仲良く出来そうね。モンスターについて興味があるなら私に聞いてくれればなんでも答えるわよ」

「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!」


 確かに実物を見た事がないってのは大きなハンデだ。今後モンスターと契約を結ぶにしても、モンスターを知らないとそう簡単に行くものじゃない。ましてやただ紙で得た知識だけじゃどうにもならないこともある。


 俺でも教えることくらいは可能だが……戦闘の中で得た俺の知識はやや偏りがある。専門的に学んでいるこの人から学んだ方がタメになるだろう。


「あー、じゃあせっかくだし話聞いていけばいいんじゃねえか? 丁度自由時間だし。俺はここら辺でのんびりしてるからよ。アーサーもクラリスもどっか行っちまってるし」

「そ、そう? じゃあちょっとお言葉に甘えて……」

「――ただし」


 俺の言葉に、ニーナが振り返る。


「モンスターは甘く見ないことだ。下手に触れようとするなよ。……ま、そこらへんはそっちのセーラさんが詳しいだろうけどな」

「うん、気を付けるよ。ありがと!」



 こうしてニーナは檻を巡りながら、熱心にセーラの話に耳を傾ける。

 俺はその近くで、適当にぼんやりと二人のやり取りを眺めながら時間を過ごした。


 俺にとってはモンスターは今更という話だ。冒険者の頃に嫌と言う程戦ってきた。


 二人は時間いっぱいモンスターのことについて話を続けていた。

 王都周辺の生態系や、北と南のモンスターの性質の違い。北の山にいる"白き竜"と呼ばれる最強のモンスターや、他の国のモンスターなどなど……。この階層に居るモンスター以外の話もいろいろしているようだった。


 既にニーナも知っているゴブリンやオークなども実物を見ながらより詳しい情報を教えて貰っているようで、ニーナは目を輝かせて話を聞いていた。



「――あ、もう時間みたいです」

「あら、早いわね」

「そうですね。もう行かないと……」


 ニーナは名残惜しそうに口を尖らせる。

 それを見て、セーラは頬を緩ませる。


「ふふ、またいらっしゃい。ここは許可が必要だけれど、私はこの階層までなら自由に立ち入れるから。私が同伴するという条件付きならきっと先生も許してくれるわ」

「いいんですか?」

「もちろん。純粋にモンスターについて学びたいのなら大歓迎よ」

「あ、ありがとうございます! よろしくお願いします!」


 ニーナとセーラは次もまたモンスターについて教えてもらうと約束し、別れた。

 集合の合図が掛かり、クラスメイト達が徐々に入口に集まってくる。


 離れていたクラリスやアーサーも、いつのまにやら集合していた。


「参考になったか?」

「うん! やっぱり本だけじゃわからないことだらけだね。これだけでもこの学院に来てよかったと思えるよ」

「はは、大げさな気もするけどな。まあ良かったならそれでいいさ」

「セーラ先輩も優しそうな人だし、私の召喚術の為にもいろいろ教えてもらうよ」


 そう言って、ニーナは楽しそうに笑った。

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