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自警団

「な、なんだったのかな……」


 ドマが去り、急に静かになった訓練場でニーナが唖然とした様子で出口の方を茫然と見つめる。


「さあな。何だか行き当たりばったりで突撃してきたみたいだったな」

「おいおい、そんな気まぐれでこんな攻撃されちゃ敵わねえよ……」

「ふん、だらしないわね。あのくらい挨拶みたいなものじゃない」

「クラリスちゃんは強いねえ……」


 イテテっとアーサーは鳩尾の辺りを擦る。


「まあでも、ある意味挨拶ってのはあながち間違いじゃねえな。本当にすぐ帰って行ったしよ……。それに、何かノアと戦おうとしてたな」

「あぁ。どうせならここで戦ってみたかったけどな」

「お前なら万が一にも勝っちまいそうと思えてくるよ……。でもあの人はかなり有名だぜ? ドマ家……俺が目標とする魔術の名家さ」

「有名なのか?」


 アーサーはコクリと頷く。

 すると、横からニーナも顔を出す。


「私も知ってるよ。岩操魔術のドマ家……その長男がこの学院にいるとは聞いてたけど、まさかあそこまでとはね……」

「いいじゃねえか。あれくらい面白い人がいねえとな。この学院に来た意味ねえよ」

「物好きね……ま、そうじゃなきゃ務まらないものかしら」


 そう言ってクラリスは何やら一人納得する。


「とにかく、勝ちそうと思えてくるっつっても、あのドマって先輩はルーファウス何て相手にならないレベルの強者だぜ? 正直あそこで帰ってくれて俺はほっとしたよ。さすがのノアも相手が悪すぎるぜ……」

「やってみなきゃわからねえさ。ま、俺が勝ったと思うがな」

「本当ブレないなお前は……」

「私もノア君なら勝てると思うよ……! ドマ先輩相手でも!」

「そしてニーナちゃんの相変わらずのファンっぷり。……ま、確かにトップを目指してるんだ、ノアくらいの気持ちでいかねえとダメなんだろうな」


 そう言ってアーサーはパチンと自分の頬を叩く。


「――ふぅ。俺も気合入れねえと! ノアの力見たり、ドマ先輩の魔術に押されたり、少し俺は弱気になってたみてえだ。だが俺は我が一族を名家として復興することを目指してんだ……! 俺だって誰にも負けねえ!」

「はは、その意気だぜ。それでこそだ」

「はっ、お前もいずれ倒すからな!」


「ちょっといいかな?」


 と不意に声を掛けられる。

 目の前には、長い黒髪をポニーテールにしたすらっとした女性。そしてその後ろには二名程のむすっとした男が立っている。


「なんです?」

「見た所何かあったようだが……」


 と、女性はまだ少し苦しそうに座り込む他のクラスメイト達を見て言う。


「あー、ちょっと嵐に巻き込まれまして」

「嵐……? 詳しく聞かせてもらおうか。訓練場で非公式な魔術戦が始まっていると通報が有ってね」

「通報……?」

「私たちは自警団(ヴィジランテ)。この学院の治安を守るものだ」


 この人達がさっきドマが言っていた自警団か。ということは、別に学院公式の組織ではないと。だが、自分たちでヴィジランテと名乗る程だ、魔術には自信があるのだろう。


 そして恐らくこの女がハルカ……この国の名前じゃないな。腰に下げた剣も、刀という島国の剣だ。面白いな。


「あーやっと来てくれたんすね! 遅いっすよ登場が! 見てくださいよこの倒れてるクラスメイト達を!」

「派手にやったな。……新入生で、しかも入学間もないこの時期にここまで暴れるとは」

「? 何か勘違いしてないっすか……? な、なあノア?」

「あぁ。ヴィジランテだか何だかしらないっすけど、俺達は何もしてないっすよ」


 ハルカはポニーテールを揺らし、ギロリと俺を睨む。


「――ほう、それは私達に対する挑発と取っていいか?」

「なっ……なんでそんな――」


 刹那、風圧が吹き抜ける。


 瞬きほどの僅かな間で、腰の鞘から引き抜き、加速した刀は俺の顎下目掛けて最短の軌跡を描く。


「ノア君!!」


 しかし、異変を感じ取り、ハルカの冷ややかだった目が僅かに険しくなる。

 振りぬいた刀は空を切り、何もない空間にただ突き出されていた。


「…………何……?」

「俺らじゃないっすよ、先輩。刀下ろしてくれないっすかね」


 俺は"フラッシュ"で加速し、一瞬にしてハルカの背後を取る。


 背後の気配にハルカは反応し、くるっと身体を反転させ、刀を正面に構え直す。


「ほう……私の居合を初手で見切るか。――ということは、貴様だな。この生徒たちを傷つけたのは」

「ち、ちがいますよ先輩! ノアがやる訳ないじゃないっすか!」

「そうですよ! ノア君はそんな人じゃないです!」


 これ以上話をこじらせるのも面倒くさいな……。自警団っていうくらいだ、一応は正義の側なんだろう。目立つことは大いに結構だが、悪名を広めたいわけじゃねえしな。


 俺は両手を上げ、ヒラヒラと泳がせる。


「俺じゃないっすよ。ドマって奴が暴れてったんだよ」

「ドマ……? ベンジャミン・ドマか?」


 俺はコクリと頷く。


 ハルカはドマの名前に少し考え込む。


「……なるほど、確かにあの大男ならやりかねないか……。それによく見ると散らばっている岩の欠片……ふむ……」


 そう言い、ハルカは刀を鞘にしまう。


「ふぅ。どうやら勘違いだったようだ。すまないな。詳しく話を聞かせて貰えるか?」


◇ ◇ ◇


「はあ~疲れたな」


 一日の授業が全て終わり、夕食後俺たちは寮一階のソファーに座りゆったりとくつろぐ。


「昼のは流石にびっくりしたね」

「本当だぜ、まさかあんな急に魔術を使って攻撃してくる奴がいるとはな……ドマ先輩……ドマ家の長兄がかなりの破天荒とは聞いてたけど予想以上だったしなあ」

「そうだね。それにあのヴィジランテって人達もかなり武闘派って感じだったね。まさかいきなりノア君に刀向ける何て……」

「はは、好戦的なのもおもしれえじゃねえか。……それに、あんだけの騒ぎだったのに、いつも通りの事件って感じの対応だったしな。きっとこの学院では魔術での衝突はそう珍しいものでもないんだろ。いろんな立場の奴が居るみてえだからな」


 結局俺たちの話を聞いたハルカたちはドマの名前をだすとあっさりと納得し、ダメージが重い奴が居たらついて来いと言って治療室へと消えて行った。


「……一応気を付けろよ、ニーナ」

「え?」


 ニーナは何が良く分からないと言った様子でキョトンとした表情をする。


「公爵家ってのは立場的に危うそうだからよ。この学院にはいろんな貴族が居るらしいからな。狙ってくる奴がいたとしてもおかしくねえからよ」

「……うん、確かにそうだね。気を付けないと」

「はは。ま、俺がそばにいるうちは安心しろよ」

「あはは、ありがと。でも自分でも何とか出来るようにしないとね。私も頑張るよ! せっかく反対押し切って入学したんだから!」

おかげさまで書籍化決定致しました。ありがとうございます!

引き続き読んで頂けると幸いです。

続報をお待ちください。


※本作品はカクヨムにも掲載してます。

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