平民
「にしても、ファンクラブとは……どこまで行っちまうんだお前は」
アーサーはもはや少し呆れた様子で俺の肩に手をのせる。
「あぁ、昼間のやつな。俺もよくわかってない」
ファンクラブと言われてもなあ。
「おいおい、あんな慕われて、お前はもっと嬉しがれよ! くそ~俺も家の復興のためにも派閥を作らなきゃいけねえってのに!」
「相変わらずだなまったく」
「にしても、お前が指導までしてやってもいいなんて言い出すのは意外だったぜ」
「そうか?」
魔術を教えてもらいたいという話だが……悪くはない。
いろいろと自分の感覚を言語化するというのは試したことがなかった。
もしかすると、俺自身もなにかつかめるかもしれない。
「まあ、仮に教えたやつが強くなってくれれば、俺のいい練習相手になるかもしれないからな」
「……はは、さすがだな。俺も負けてられねえぜ……! 俺も教えてほしい……が、そんなことはしねえ! 俺は俺の道を行く!」
「アーサー、お前なら大丈夫さ。楽しみにしてるぜ」
「おう!」
そうして、アーサーは先に帰るわ、と言って寮へと戻っていった。
俺は中庭のベンチに座り、ふぅと一息つく。
ファンクラブにテトラルクス、魔女狩り部隊……なんだか考えることがいろいろだな。
後期は演習系の授業も増えるみたいだし、忙しくなりそうだ。
◇ ◇ ◇
「あっ! ノア・アクライト! 頼むぜ、お前が希望の星だ!」
「君がノア君か、思ったより普通だね。でも、期待してるから!」
「お前が新人戦優勝のノア・アクライトか……。実力は定かではないが、使える旗なら使うまでか」
そんな調子で、朝からすでに数人の上級生に俺はすれ違いざまにいろいろと言葉を投げられた。
あれが全部ファンクラブとやらのメンバーだとしたら、昨日クロフォード達が言っていた人数構成と合わなくなる。
ということは、ただのやじうまか?
少なくとも、俺の名前が知らないところで勝手に広がっているらしい。
新人戦優勝は恐らくそれなりにでかい成績だろうし、名前くらいは目にしている人も多いのか。
「あの人たち、みんな平民らしいよ」
「ニーナ」
後から追いついてきたニーナは、俺の隣に来るとそう口を開く。
「平民?」
「そう。ほら、やっぱり魔術師って貴族に多いから、割合でみると平民はこの学院の10%くらいしかいなくて、一部ではまだ貴族重視の空気が流れてるんだけど」
「あぁ、まあ確かに」
食堂も、平民貴族平等に食事を与えてくれるが、料理に近い席や中央は自然と貴族たちが居座り、平民は端に追いやられている。
演習場や各種施設も、なんやかんやと貴族側の利用が優遇されるような風潮もあるらしいと、以前ニーナから聞いたっけ。
「工房区の予算もいろいろと平民には不利になることもあるみたいで。一応私も、公爵家の人間ではあるから、そういった貴族側の優位性が何とかならないかなっていろいろと話はしてみたんだけど、こういうのってルール化されてたり何かきっかけがあるわけじゃなくて、本当に空気みたいなもので……みんな悪意があってというわけでもないからどうにもならなかったんだけど……」
「あぁ、なるほど。それでか」
俺はニーナの話を聞いて合点がいった。
つまり、この空気を打破するための突破口がようやく開いたというわけか。
俺の存在によって。そりゃあ、みんな期待を込めるわけだ。
「そう! 新人戦で平民が優勝だなんて、歴史上一度もなかったらしくて。それにノア君の……ファ、ファンクラブとかが出てきていろんなところでノア君のことを持ち上げるから、学院中の平民の人たちが今活気づいてるみたいなんだよね」
「……正直面倒だな」
「そう? ノア君はやっぱりすごいなって思ったけどな、私は。私の口添えくらいじゃ何もできなかったのに、行動一つでこんなに学院の空気を変えちゃうなんて」
羨望のまなざしを向けるニーナに、俺はため息をつく。
「別に俺にそんな平民の権利向上みたいな大層な野望はねえからな。それに、その活気をただ泣いて喜ぶ奴らだけじゃないのは明白だろ、この学院は」
「そ、それは……確かに」
少なくとも、貴族主義みたいな思想を持つ連中が黙っちゃいないだろうな。
まあ、これも最強にはつきものな問題か。
「ニーナも用心しとけよ。俺の仲良い奴ってだけでなにかされるかもしれねえからな」
「な、仲良いやつ……!」
ニパッと笑みを浮かべるニーナ。
「……いや、忠告したんだから喜ぶところじゃないだろ」
「そ、そうだよねごめん! ノア君にそうあらためて言われると嬉しくって」
「おいおい、一番最初に知り合ったのはニーナなんだぜ、当然だろ」
「そ、そうだよね。……うん! 気を付けるね!」




