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六賢者会議

 壮麗なヴォールト天井が頭上を覆い、そこにはめ込まれた複数の窓から日の光が差し込む。白い漆喰の壁に囲まれ、その中央には大理石の円卓が鎮座する。


 その周囲には背もたれの高い、緑色のビロードが張られた椅子が複数並び、そこには六人の男女が座っていた。

 

 そこは、外から隔絶された空間だった。

 王城内に建てられている会議場だが、特殊な魔術結界によりその存在は完全に隠匿されている。


 それだけ、ここで話される内容はこの国にとって機密性が高いものだった。


 会議も終盤に差し掛かり、進行役を務める賢者長のクラバート・ハルディールは円卓に乗せた報告書を眺めながら、ううむとうなる。


「さて、次は年末のレグラス魔術学院の三校合同魔術演習の件か……今年はどうなっている? オースタイン」


 ハルディールは視線だけをちらりと正面の鋭い眼光をした男へと向ける。


「校内選考会はまだ先だが、動き出している。問題ない」

「あれもわが国の力を示す大きなイベントの一つだ、抜かりなくな」

「去年はハーロッドが総合優勝だったか?」

「今年は任せておけ」

「であればよい。頼んだぞ」


 ハルディールは念押しし、オースタインは小さくうなずく。


「話してもいいでしょうか」


 黒い装束を身にまとった、黒髪の眼鏡をかけた女性が手を挙げる。


「何かな、クラードル」

「本人から報告が漏れているようなので、私から。先日、新たなSS級冒険者が誕生しました」

「らしいな。誰だ?」

「”雷帝”ヴァンです」

「「「!」」」


 瞬間、会議場がざわッと揺れる。


「”雷帝”……確かしばらく休止していた冒険者か」

「一時期はこの議会でも毎回話題に上がる程だったが……例の災厄はそれほどだったか」


 全員の視線が、一斉に一人の若い男へと集まる。

 その長髪の男は、ヘラっとした笑みを浮かべる。


「おっと、どうやら報告が漏れていたようだ、失敬。クラードル氏が言ってくれて助かったよ」

「隠し事が好きなようだな、ローマン」


 ハルディールの鋭い眼光がローマンをにらみつける。


「滅相もない! こっちもこの国の脅威と戦った後いろいろと後処理に追われて大変だったのさ。……ただね、君たちが脅威度が足りないだのなんだの駄々をこねるせいで危うくこの国を危険にさらすところだったよ。その点についてはぜひ反省してもらいたいね」

「仕方あるまい。我々とてこの国の一部。下の組織に関しては越権行為が可能だとしても、我らを監視する立場である国王にはそうそう融通が利くものではない。あれはもともと伝承上の存在、その実在性を証明できない以上、そう簡単に許可は下りんのはやむ無しだ」


 またそれか、とローマンはあきれ気味に肩をすくめる。


「そうだぞローマン。私がどれだけ粘り強く国と交渉したことか。蔵の金を出すのだって簡単じゃないんだ、感謝してほしいね」


 ローマンの隣でずっと黙っていたメガネの男が、ため息交じりに言葉を吐き出す。


「その点については非常に助かったよ、アグギース。お陰で無事討伐出来た」

「まあ、商会の方もあの地域に異変を感じて避け始めていたことで流通も滞り始めていた。そう言う意味では、よくやってくれたと言うべきだろうな」

「そりゃありがたいお言葉どうも。私の苦労も報われるという物だ」


 すると、ハルディールがその会話に割って入る。


「”雷帝”……SS級の災厄を退けたとあっては、ただの一介の冒険者としておくには余りに力が強大過ぎる。我が国で保護・監視するべきではないかな」

「御冗談を。彼も一冒険者にすぎないさ。それに彼は休業中だ」

「その前に一人の冒険者だ。どうとでもなる」

「あんたが彼を見つけられたらね」


 ローマンとハルディールは互いにじっと見つめあう。


「……北の”白き竜”と並ぶ存在を倒したのだ、我々の保ってきた秩序を破壊しかねない力だ」

「ほかにもSS級はいる。彼に脅威性はない、私が保証しよう。今回だって国の危機とあって自ら参戦を買って出てくれたんだ、十分じゃないか」

「利用されたらどうする」


 すると、騎士団団長を務めるヴェルディが声を上げる。


「まどろっこしいな。”雷帝”がローマンの子飼いなのが気に食わないだけだろう、ハルディール殿」

「……ヴェルディ、我々は六賢者。この国の繁栄という同じ山の頂を目指す同胞だ。気に食わないなどと言う個人的な感情では断じてないわ」

「どうだか」


 すると、ローマンはふふふと笑みを浮かべる。


「何がおかしい、ローマン」

「いやあ、何。たとえ君たちが保護だ監視だといい始めたところで、彼は我々の手に負えるような人間じゃないよ。それに、あなたが心配しているようなことは起こらないさ」

「どうしてそう言える」

「そんな気があればとっくにそうしてるからさ。それに、私だってあなたと同じこの国の繁栄を願う者だ。六賢者として信用してほしいものだね。六賢者憲章第四条をわすれたのかな?」

「……”六賢者は円。そこに優劣はなく、あるのはただ循環のみ。”」


 その通り、とローマンは笑みを浮かべる。


「……そうだな。まあ良かろう。新しいSS級の誕生はこの国にとって喜ばしいことだ。くれぐれも国外流出などと言う失態は犯すなよ」

「当然さ。任せておくれ」


 議論が一段落したところで、ヴェルディがいう。


「冒険者の話は終わったが、そもそもの事件の元凶については語らないといけないだろう」

「隻眼の魔女」

「とうとう、魔女たちの一角が姿を現したか」


 クラードルは全員に人相書きを配布する。


「こりゃ、なかなか美人な女性だ」

「見た目はどうでもよい。魔女の動向を探り始めてから、ここまではっきりと姿を現したのは久しぶりだ。シャレアン王国で何やら動いているという情報はあったが、目的は依然不明。だが今回の事件は明らかなこの国の脅威となった。そろそろ本格的に手を打っても良い頃だろう」

「一人一人が魔術を極めた”魔女”……放っておけばこの国に良くないことをもたらすことは間違いないね。私は直接彼女を見たが、あれは狂気だったよ」


 ローマンの言葉に、その場の全員がかたずをのむ。


「魔女を狩るための騎士団選抜部隊は編成が完了し、すでに動き始めている。奴らが壊滅するのも時間の問題だ」

「ようやく編成が完了したか」

「あぁ、”剣鬼”も引っ張り出し、戦力は申し分ない」

「冒険者であればSS級とも引けを取らないといわれた伝説の騎士……本気ですね」

「当然だ」

「……ここからが始まりだ。魔女共が安心して眠れる日もそう長くないな……もしもわが王国をつぶそうというのなら、その時は全面戦争だ」


 その言葉に、反対の異を唱えるものはいなかった。


「ヴェルディ。引き続き貴様の部隊で情報を追え」

「当然」


 そうして、六賢者たちの会談は続く。

 この国の安寧を祈って、それぞれの思惑の元、賢者たちは語り合う。

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