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最年少S級昇格

「はいよ。レッドドラゴンの牙二本、爪十本、目玉一個――あぁ、もう片方の目玉は破壊しちまった、悪い。後は……残りの部位は表の荷馬車にある。確認してくれ」

「えっと……レッドドラ……えぇ?」


 スカルディア王国南部に位置する街、ローウッド。

 その街の一角にある冒険者ギルド、ローウッド支部。夜ということもあって、酒を飲んでどんちゃん騒ぎをしていた冒険者ギルドは、黒いローブに仮面をつけた男の声に反応し、一斉に静まり返った。


 レッドドラゴン。最近、ローウッドから南にある霊峰ジドナに住み着いていたドラゴンで、本来ならばA級冒険者三十人、あるいはS級冒険者十人は必要とされる、討伐難度S級の災厄だ。


 その日の早朝、この男が冒険者ギルドを訪れ、「S級のクエストを受けたい。ソロだ」と受付嬢に言ったとき、酒場は爆笑の渦に包まれた。それは、自殺にも等しい要望だったからだ。止める者はいなかった。なぜなら、この手の輩は毎年数人は居る、恒例行事のようなものだったからだ。


 また一人、功を焦ったA級冒険者が来たぞ。と、男たちは嘲笑した。

 A級に成れる冒険者というのは、実は意外と多い(といっても、()()()()()()という程度だが)。パーティを組めば上位のクエストに参加できるため、A級到達の条件をクリアするのはそこまで難しくないのだ。


 だから、A級冒険者は良く自身の実力を履き違え、こうやってS級クエストに挑んでいく。そうして死んでいった冒険者を、男たちは数多く知っているのだ。


 ――しかし、こうして雷鳴と共に戻ってきた男の手に握られていたのは、レッドドラゴンの部位だった。完全に酔っ払い出来上がっている男達が、唖然として静まり返るのも当然だろう。


「えっと……冒険者名ヴァン様……でお間違いないですか?」

「あぁ」


 その名を聞き、冒険者ギルド中がざわざわと騒がしくなる。


「ヴァンって……最年少でA級昇格した天才魔術師!?」

「A級の中でも相当やるって聞いてたが……本物か!?」

「あの仮面、見た事あると思ったら"雷帝"か!」

「そういえばさっきの雷鳴は……」


 口々に、ヴァンのことを噂する冒険者たち。


 A級冒険者ヴァン。最年少、十四歳でA級に昇格した天才魔術師。しかし、防護魔術の掛けられた仮面をつけ、その正体は一切不明。突如現れ、その圧倒的な魔術の力でソロで数々のクエストを達成してきた最強の魔術師。


 しかし、そんな周りの声もどこ吹く風で、ヴァンは受付嬢と会話を続ける。


「一年以内にB級クエスト三十個以上の達成、A級クエスト二十個以上の達成、A級モンスター五体以上の討伐……そして、S級クエスト一個以上の達成。――確か、S級になる条件だったよな?」

「は、はい……えっと、失礼ですがギルドプレートをお願いします」


 ヴァンは首にぶら下げた銀色に輝くプレートを外すと、受付嬢へと渡す。


「――はい、今回のクエストの達成で、ヴァン様は……エ、S級への昇格が達成されました……!」


「「「う――うおぉおおおお!!!!」」」


 ギルド中が歓声に沸く。

 ここに、最年少S級冒険者が誕生したのだ。


 首から下げたプレートは銀から金へ。大陸でも三十人ほどしかいない階級。この上は、大陸に七人しかいないSS級のみだ。


 伝説の誕生に立ち会った興奮で湧くギルドとは裏腹に、仮面の冒険者ヴァンは嬉しそうな素振りは一切ない。


 報酬の金銭を受け取り、事務的な手続きを済ませると、静かにギルドの外へと向かう。


「お、おいヴァン! S級だぜ!? 俺達と飲んでいかねえか!?」

「そうだそうだ、めでてえことだぞ!? まさかうちの支部からS級が誕生するなんてよ! ほら見ろ、支部長も祝いに来てるぜ?」


 冒険者ギルドの奥からは、黒髪の大男が、祝いの酒を片手に姿を現していた。


「……S級昇格おめでとう! A級に続き、十五歳という最年少でのS級昇格……! ローウッド支部としても鼻が高い。僕たちも一緒に祝わせてくれないかな?」


 気の良さそうな支部長は、細い目を更に薄めて笑みを浮かべる。

 しかしヴァンは、頭を振る。


「いや、いい。俺にとってはS級なんて通過点だ、祝う程じゃない」

「いやでも――」

「……はあ。ったく、俺が昇格したのを理由に騒ぎたいだけだろ。ほら」


 ヴァンは手に持っていたクエストの報酬の入った袋を支部長へと投げる。


「っと。……これは?」

「騒ぎたいならこれで好きなだけ騒げ。俺に金は要らない」


 瞬間、歓声が沸く。


「うおおお! さすがS級冒険者様! 話が分かってらっしゃる!!」

「酒だ、酒を持ってこい! ヴァン様の奢りだああ!!!」

「よっ、最強の魔術師!!」


 と、全員が祭りのように騒ぎ始める。冒険者ギルドらしい光景だ。支部長も、やれやれといった様子で溜息をつく。


「それじゃあな。俺は帰る。勝手にお祭り騒ぎでもしててくれ」

「あ、おい! ヴァン君!」


 支部長がヴァンを追いかけ冒険者ギルドを出る。


「待ってくれ!」

「待たない。次のクエストを受けるときにまた来る」

「ちょ――」


 支部長は目の前で展開された魔法陣から放たれる光に、思わず顔を覆う。


 足元に現われた巨大な魔法陣。その上に立つヴァンの身体が金色に輝きだした、次の瞬間。

 落雷のような激しい爆音と、光と共に一瞬にしてその場から姿を消した。


 後に残ったのは、異様に焦げた地面と、巻き上がる灰色の煙だけだった。


 ヴァンの去った冒険者ギルドでは、赤の他人のヴァンの昇格祝いが朝まで続いた。

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