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8 ポーション製造

レオが教えてくれたのは、幼い頃、毎年リントラムから帰ってくると、湖で一緒に遊んだ男の子の話ばかりしていたこと、その男の子と魚のダンスや大きな虹を見たこと、男の子からキャンディーを貰って食べたから、結婚すると言っていたこと。その男の子のことを湖の王子様と呼んでいたこと。

 


「・・全然思い出せない。しかも、飴を貰ったから結婚するって、食べ物に釣られる恥ずかしい子じゃない。」


「お嬢は昔から食い意地が張ってたからなあ。リントラムも水と料理の街にしちまうくらいだし。」


レオが笑いながら軽口を叩く。


何かがすごくひっかかったのに、レオの話を聞いてもまるでピンと来なかった。そんなにレオに熱心に話してたこと、なんで思い出せないのかしら。自分の記憶なのにとモヤモヤして気持ち悪い。



「姫様、記憶を封印されてる」


セルキーが肩からポツリと言った。


封印?何のこと??



アーサーの商会に向かう途中の宿泊地で、オリヴィアはセルキーに尋ねた。


「ねえ、セルキー。今日馬車の中で言ってたこと、どういうこと?」


「そのままだよ。竜王様との記憶を誰かに封印されてる。」


レオの話の男の子は、サーガラのことなの?!戸惑うオリヴィアの額にセルキーはフワリと浮いて鼻先をつけた。


「姫様、少しこのまま目を瞑ってて。」


オリヴィアが目を瞑ると、セルキーに鼻先をつけられた額が急に熱くなり、パチンと何かがはぜるような音がした。


その瞬間、本当に、ほんの一瞬だけどフッと黒髪の男の子の姿が思い浮かんだような気がした。


「ダメだ。僕より力の強いヤツが封印してる。」


セルキーは悔しそうに言う。


可愛らしい外見に反してセルキーは、サーガラの臣下の中でもトップレベルの力を持っているそう。オリヴィアも、それは竜宮城(ドラゴニアパレス)での周りの態度から何となくわかってはいた。見た目はかわいいアザラシのぬいぐるみなんだけどね。


「けど、さっき一瞬、黒髪の男の子の姿が思い浮かんだわ。あれが昔のサーガラだったのかしら。」


「他は何か思い出した?」


うーんと首を捻り、他は何もとオリヴィアは答えた。


セルキーは、何のために姫様の記憶を、と呟いて考え始めた。


オリヴィアはといえば、その姿を見ながら黒髪の男の子ーサーガラのことを考えていた。


昔、会ったことがあるなんて。思い出せない自分がもどかしかった。


けど、誰かに記憶を触られてるなんて、怖いーーオリヴィアはぶるっと震えた。



商会兼ポーション工房のあるインブリー領パトナベリに着くと、アーサーが和かに出迎えてくれた。


義姉(ねえ)・・いやオリヴィア、今回は本当にありがとう。ようこそ僕の商会へ。」


「この貸しは高くつくわよ~。なんてね、商会設立おめでとう、アーサー。」


冗談まじりに挨拶を済ませ、早速アーサーは工房を案内してくれた。


清潔に掃除の行き届いた工房は、オリヴィアの提案通りの道具が据えられ、数人の職人が背筋を伸ばしてオリヴィア達を出迎える。工房の奥からはよく知った人達が顔を出した。


「奥様、、いえオリヴィア様、お久しぶりでございます。」


「久しぶりね。バート、チャーリー!貴方達ここで働くことになったのね。元気にしてた?」


「はい、アーサー様にお声掛け頂きまして。またオリヴィア様とご一緒出来る事、光栄に存じます。」


離婚前、オリヴィアのポーション販売に関わっていた、敏腕経理のバートに、資材調達から市場調査までフットワーク軽くこなすチャーリー、この2人なら安心して仕事を任せられるわね。



さて、じゃあ今回の本題の生産部門ね。


オリヴィアは職人達を集めた。みな真面目で勤勉で人柄が良く、アーサーが厳選した人材だというのが一目でわかる。


まずポーションは売れ筋だったヒーリングと解毒の2種類に絞ったポーションの製造販売から始めたいと思っていた。


ポーション製造は分業で、それぞれの工程に専門性を持たせたかったため、簡単な作業から個々適性を見て仕事を割り振った。


濃縮液の希釈濃度など重要なものはアーサーも交え書面に残し、濃度差による効き具合なども具体的に見せ、完成見本も作ることにした。


職人達はオリヴィアの意図を汲んでサクサクと仕事を覚えていく。わからないことはハッキリと聞いてくれるからやり易い。


これだったら早く販売に滑り出せそうね。



初日の指導はあっという間で、終わる頃にはくたくただった。明日は解毒ポーション製造の指導、以前からの顧客情報の引き継ぎ。やることはたくさんあるわねと思いながら、今晩の宿であるアーサーのパトナベリの屋敷に向かった。



 

「今日はありがとう、オリヴィア。素晴らしい指導で職人達も仕事が良くわかったと思う。感謝してる。」


夕食の席でアーサーが感謝を述べる。


「私はただ説明しただけよ。みんなが優秀だったから。楽しかったわ。」


軽くお酒も交えた夕食は、今日の仕事の充足感もあり2人して今後のことに会話が弾んだ。


ひとしきり話が済むと、急にアーサーは俯いて押し黙った。

どうかしたの?とオリヴィアが心配して尋ねると、しばらくしてアーサーがポツリと言った。



「こんな日に話すのも何なんだけど、実は兄さんとディアナ、あんまり上手くいってないみたいなんだ。」


 


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