13 4竜家会議
「ふーっ、やっと一息つけるわね。」
オリヴィアは空になりかけの水甕を侍女と運ぼうと取手に手を掛けた。
「美味そうな水じゃのう。我にも一口くれぬか。喉が渇いた。」
後ろからハスキーな女性の声がしたので振り向くと、見事な真紅の美しい髪をした背の高い美女が立っていた。
金属の胸当てをし、ピッタリとした、身体のラインのはっきりわかる深いスリットの入ったスカート姿。
胸やお尻など出るところは出てウエストはキュッとしまった凄惨なスタイルの、恐ろしいほど顔の整ったその美女は、つかつかと水甕まで近寄るとその美しい手で水を掬い口に含んだ。
「ほう、これはまた格別に美味い神水。見事なものだ。そなたが作ったのか?」
「・・?はい・・」
誰だろう?突然声を掛けられオリヴィアが戸惑っていると、正面からイシュカが息を切らせながら走ってきた。
「タクシャ様!!」
「なんだイシュカか。久しいな。今日は泊めて貰うぞ。」
「ご連絡をいただければお迎えに上がりましたのに・・まさかお一人で来られたのですか??」
「侍従は後から来る。我のスピードに追いつけなかったようじゃ。」
イシュカがあわあわしながら対応しているタクシャと呼ばれる美女は、ちらちらとオリヴィアを見ながらイシュカと話し終わると、オリヴィアの方に身体を向けた。
「そなたが、噂のサーガラの水の姫か。我はタクシャじゃ。」
「・・オリヴィアです。初めまして。」
「可愛い姫じゃのう。あの無愛想な男には勿体ないわ。素晴らしい神水も作れるし。どうじゃ西家に来ぬか?ここなんぞより優遇するぞ。」
「え、、?あの、私・・」
唐突に話し出すタクシャに目を白黒させているとイシュカが慌てて間に入ってきた。
「タクシャさまっ、お戯れを。私がサーガラ様に殺されますから!水の姫様、こちらは西家の長、西竜王タクシャ様です。」
西竜王!?女性が王なのね、驚いたわ。オリヴィアは目の前の女性が何者なのかやっと繋がった。
夕食は、西竜王一行のもてなしのため、サーガラ達と一緒にとることになった。席はサーガラの隣。
あれから結局、お昼は食べそこなっちゃたからお腹ペコペコよ。
饗応の席に並ぶ料理もお酒もとっても美味しそうだった。
なんだ、私にも食べられそうじゃないと料理を見ていると、イシュカが料理を運んできた。
「ねえ、あれなら食べれる気がするんだけど。」
「う~ん、水の姫様の召し上がるものはサーガラ様のご指示ですので。」
そうイシュカが言うので、サーガラをチラリと見た。
「ダメだ。」
サーガラは即答だった。
「なんじゃ、水の姫はまだこちらの食事をしておらぬのか。随分大切にしておるんじゃの。お主にもそんな面があるとは驚きじゃな。」
タクシャが出された酒を煽りながら話に混じる。まだ始まったばかりなのにすごいペースで呑んでいるようだ。
「ここの食事をなんで私は食べちゃいけないの?」
オリヴィアは疑問に思ってサーガラに聞く。
「姫は何も知らぬのじゃな。こちらの食事は」
「タクシャ、秘蔵の酒が奥にあるがどうする。」
サーガラがタクシャの話を遮るように言うと、タクシャは話途中で嬉々として奥の酒蔵に歩いて行く。随分とラフな王のようだ。
え~なんなんだろ。またイシュカかセルキーにでも聞いてみよう。オリヴィアはちょっと不貞腐れながら運ばれた料理に手を付けた。!!美味しい。今日もまた絶品ね。
美味しい料理と盛り上がる饗宴の雰囲気に、オリヴィアはリントラムのお酒を飲んだ後あたりからの記憶が曖昧になった。
大好きな黒髪の男の子がそれはそれは優しく微笑む。
「これは僕の大事な※※※。次に逢った時、僕を選んでくれるなら、君の※※※を貰うよ。」
え、なんて言ったの?聴こえない。もう一度言って、もう一度・・・
う・・ん・あったかい。
親鳥にふわふわと包まれたようなその暖かさに幸せな心地になり、更に暖かな羽根を求めて手を伸ばす。
手を伸ばしたオリヴィアの腕を大きな手が掴み身体ごと引き寄せる。
ぱちり。
オリヴィアが目を覚ますと、目の前には美しい筋肉質な胸板。
「!!!」
驚いて離れようとするとギュッと強くその胸板の持ち主の腕に抱きしめられる。引き剥がそうとしてもオリヴィアの力では全く動かない。
諦めてそっと上を見上げると、彫像のように整った美しい顔の黒髪の王の寝顔があった。
・・くやしいくらい綺麗な顔ね、何もまだ思いだせない、けど・・。
じっとサーガラの顔を見つめていると、その黄金色の眼が開いた。
サーガラの黄金色の眼にオリヴィアが映し出されると、その唇がオリヴィアの瞼に落とされる。
「俺の顔に見惚れていたのか?」
図星を指され頬が上気する。その良く熟れた果実のように赤くなった頬をサーガラが掠めるように口付けた。
「この世のどの果実よりも甘い頬だ。・・お前はどこまでも可愛い女だな。」
サーガラの大きく美しい手がオリヴィアの頬を包み、水色の瞳を見つめる。その美しい黄金色の瞳が鼻先ほどに近づいたその時ーー
「おはようございます。サーガラ様、水の姫様。本日は4家会議にございますのでそろそろご起床を。」
至って平静なイシュカが寝所の隅に控えていた。
だからいつからいたのっ??そんなオリヴィアの気持ちはやはり他所に侍女がサッと脇に控え、着替えのために隣室に連れ出された。
昨日より長めでシックなデザインのワンピース風な上着、カミスと言うらしい、に下は緩やかなサルワー、トラウザーズのようなもの、それに加えてスカーフが今日は用意されていた。
髪も綺麗に結い上げられて、どうやらこれがここの正装なのね、とオリヴィアは思った。
「姫様、良く似合う!かわいいね。」
いつの間にか部屋にいたセルキーがニコニコしながら言った。セルキーもハイネックで丈の長い質の良さそうな上着に、サルワー、そしてスカーフを肩から掛けていた。
「セルキーも素敵よ!なんだか緊張するわ。」
「姫様は堂々と座ってたらいいんだよ。大丈夫!」
そう話していると、やはり正装のイシュカが迎えに来た。
「北竜王様も到着いたしましたのでそろそろ。」
イシュカに促されて部屋を出て会議の行われる間まで案内される。すでに西竜王タクシャと北竜王は席についていた。タクシャは今日は全身白色の衣装に身を包み、それが真紅の髪や美しいスタイルをさらに引き立てており、思わず見惚れてしまうほど美しかった。
初めて会う北竜王は、淡い金色の髪の優しげな眼をした細見の王で、全身黒色の衣装を身に纏っていた。
イシュカに促され席に着きしばらくすると、深い蒼色の所々に細かく宝石のあしらわれた上着を纏い同色のスカーフとサルワーを着こなした、見惚れるほど美しく精悍な正装姿のサーガラが現れた。




