12 ポーション
セルキーが心配でついて来たら、なぜか竜族の会議に出る羽目になってしまった。
会議が終わるまでとイシュカに拝み倒されて竜宮城に滞在することになったオリヴィアは、寝室として当てがわれた、上品な調度に落ちつきのある色合いの部屋の椅子に腰掛けながら1人思った。
この部屋に案内された時にはゾロゾロと何十人もの侍女達がついて来たけど、落ち着かないからと1人を残して引き払って貰った。
いくらなんでも多すぎるわよ。
けど、どちらかと言うと豪奢さが目立つこの宮殿の中にこんな部屋があったとは驚きね、シンプルなのにとても上品で好きだわ、なーんて考えていたら部屋のドアがノックされ、外からイシュカの声がした。
「水の姫様、少しよろしいでしょうか。」
「いいわ。入って頂戴。」
そうオリヴィアが答えると、トレーを持ったイシュカがセルキーとともに入ってきた。
「あら、良く知った美味しそうな匂いがするわ。」
「姫様、ごはんだよ!竜王様が姫様は今日は疲れてるだろうからって、部屋に持ってきたんだ!」
つい先程までの態度とは打って変わった無邪気なセルキーの言葉にオリヴィアは和んだ。
「ありがとう!私も実はお腹ペコペコだったの。頂くわ。」
机の上に並べられた料理は食べなれたリントラムの料理。嬉しくなって人前なのについつい夢中になってパクついてしまった。恥ずかしい。
「ここでもリントラムの街の料理を食べるのかしら?」
「ううん、僕らは食べないよ!」
セルキーがあっけらかんと言う。料理はわざわざオリヴィアのために用意してくれたようだ。
「あら、じゃあセルキー達が一緒に食べれないじゃない。明日からは一緒のものを食べたいわ。」
そのオリヴィアの言葉に答えるイシュカ。
「水の姫様にはこちらの食べ物はまだ強すぎます。時期が来ましたらまたご一緒させていただければ。」
「うん、そうだね。いまの姫様には早いかもー。」
そう2人が揃って言うので、ここの料理はお酒でも大量に入ってるのかしら、それとも香辛料がすごいとか?けど、ちょっと子ども扱いされてる気がするわ、なーんて思いながらオリヴィアは出されたデザートまでしっかり頂いてしまった。
「ところで、4竜家の会議は明後日ですので、明日は1日予定が空きます。私もセルキーも会議のためにあまりサポートができませんが大丈夫でしょうか。」
「あらそうなの。私はそういうの慣れてるから大丈夫よ。」
そうオリヴィアは軽く答えた。
とは言ったものの、明日は何をしようかしら。
朝、寝室に食事を運んできたイシュカに宮殿内を廻っても良いかと尋ねたら、快く了承を得た。
オリヴィアは部屋を出る前に姿見の前でくるんとまわる。今日オリヴィアが着ている服は侍女が準備してくれたもので、セルキー達と同じような形の異国風の華やかな柄のチュニックと、ゆったりとしたラインで足首あたりがキュッとしまったトラウザーズのようなものだった。靴は皮素材でヒールがなく平たい形で、側面に色鮮やかな刺繍が施され、際には小さな宝石があしらわれていた。
服の材質はシルクかしら。滑らかな肌触りが気持ちいい。それにとっても動きやすいわ。デザインも素敵だし。
あ、リントラムでも作ったら流行る?いえ、斬新なスタイルだから先ずは上流階級から?上手くいったらアーサーの商会からインブリー領へも流せたりする?
すっかり気に入ってしまったオリヴィアは、商品化の算段を頭の中でイメージしてニヤけていた。
部屋から出て回廊を歩いていると、要所要所に配置された兵士達が丁寧に頭を下げてくれる。けれど、皆、手に脚に包帯を巻き、まだ疲労が取れていないのがわかる顔をしていた。
オリヴィアは1人浮かれていたのが申し訳ない気になり、頭を下げてくれた兵士達にペコリと頭を下げる。
「姫様!」
聞き慣れた声に振り向くと脇に書類を抱えたセルキーがいた。
「その格好、とても良く似合う!今日は相手が出来なくてごめんね。何か困ってることはある?」
オリヴィアはその言葉にピンと思いついた。
「セルキー、たくさんの水が欲しいんだけど、どこにある?」
セルキーに水甕とコップを準備して貰うと、オリヴィアは水甕に手をかざし集中し始めた。
しばらくすると水がキラキラと虹色に輝き出す。
「綺麗・・!こんなポーションが出来たのは初めてね。」
水甕から水をすっと一掬いすると、傷付いた兵士に近づき声を掛けた。
「これ、、どうぞ。少しでも元気になって欲しくて。」
オリヴィアがそう言って微笑んでコップを差し出すと、声を掛けられた兵士は真っ赤になって、ありがとうと受け取った。
一口、コップの水を飲んだ兵士が驚きの声を上げた。
「傷が、、傷がない。それに身体が軽い!すごい水薬だ!水の姫様、ありがとうございます!!」
顔色が良くなった兵士は包帯を外し、ブンブンと傷の癒えた腕を振り回している。
それを見た兵士が、自分も、と列を作り出した。
オリヴィアは自分が持って行くからと1人1人コップを持って回り、兵士達はそれを飲むごとに驚愕の声とオリヴィアへの感謝の声を上げた。
傍に控えてくれていた侍女にも手伝って貰い、わかる範囲の兵士達にポーションを配り終わったのは昼もかなり過ぎた頃だった。




