11 央座
「~~私があなたと幼い頃会ったことがあるって本当ですか?」
オリヴィアはサーガラの愛撫に恥ずかしさの限界がきて思わず叫んだ。
サーガラはオリヴィアの左の手の甲に落とした口付けをぴたりと止め、ゆっくりと口を開いた。
「いつでも花のように笑っていた。」
そう言うと、オリヴィアの左の人差し指を口に含んで、その先をねっとり舐めた。
「・・っ!!」
サーガラは、恥ずかしがるオリヴィアの表情を満足気に眺めながら、もう一度ゆっくり舌を動かす。
「・・っ・も、だめっ・・!」
・・コホン・・
こほん?
「・・サーガラ様、そろそろ良いでしょうか?」
眼鏡の青年、イシュカが喉を鳴らす。
イシュカとセルキーはいつの間にか寝所の入口あたりに控えていた。
サーガラは無粋なイシュカをジロリと睨むと居住まいを直した。
~~またっいつからいたの??
そんなオリヴィアの気持ちは他所にイシュカが話し出す。
「セルキーに例の者を見せました。」
寝所を出たセルキーとイシュカは、鍵のついた鉄格子の奥にある階段から宮殿の地下へと降りて行った。
地下牢。
イシュカはスタスタとその1番奥にある赤い格子のはまった牢へと歩いて行く。
「ーー上魔力牢に。」
セルキーが上魔力牢と呼んだ赤い格子の牢の前に立つと、牢からバチンと火花が上がった。
中にいる者がこちらを睨みつけながら魔力を放つが、再びバチンという火花が牢の中であがり、魔力はその中のみで消え去る。
手足を拘束し、口には舌を噛まないよう猿轡がされている。
セルキーは、牢の中にいる者を見て絶句した。
魔力を放ち、こちらを睨み付ける者の背にはーー薄赤い翼があった。
「翼が・・。竜族の、、水の眷族ではない・・?まさか・・迦楼羅?」
「上手く擬態していて、最初は南家の眷族かと思った。しかし拘束し魔力を封じたら、あのような姿を現した。セルキー、お前はどう見る?」
イシュカが竜王の面前でセルキーに問う。
「あの薄赤の翼。陸の眷族と見ます。私は、、赤き翼の、迦楼羅族の配下ではないかと見ました。」
迦楼羅族、それは地上の、特に空中を統べる赤き翼の一族で、水を統べる竜族と匹敵する力を持ち、魔力毒蛇を好んで食べることから竜喰いの異名を持つ一族。
「お前もそう見るか。」
イシュカが自分も同様だと頷く。
「しかし、長らく迦楼羅族とは境界が引かれ、互いに障ることがなかったはず。なぜ襲撃など。」
セルキーの言葉に今まで黙っていたサーガラが口を開いた。
「おそらく央座の儀を阻むためだろう。」
「・・・!!」
セルキーは大きく目を見開いた。
「そんなっ、なぜ陸の、それも空中を領域とする迦楼羅族が属性も領域も違う竜族の王の誕生を阻むのですかっ!」
「・・セルキー、お前は央竜がどのようなものか知っているか。」
サーガラはセルキーに問う。
「恐れながら央竜は、4竜家の長で、全ての水の生命や事象を統べる王と認識しております。」
「では、迦楼羅の王は?」
サーガラの問いの意図がわからず戸惑いながらセルキーは答える。
「陸にあり、全ての空中の生命や事象を統べる王かと。」
「違う。」
サーガラの予想外の言葉にセルキーは困惑した。イシュカはそんなセルキーとは違い表情を崩さない。
「どういうことですか。竜王様の仰っていることの意味がわかりません。」
その問いの答えを待つセルキーに、サーガラは、ゆっくりと、言葉を継いだ。
「空中の生命、そして事象も全て、央竜が生むのだ。地の生命、事象も全て、だ。」
「・・・!!それはまさか、、この世の全てを央竜が統べているということですか?!」
「その通りだ。」
サーガラの発した言葉にセルキーは驚愕した。それは竜の高位眷族たるセルキーですら知らぬことであった。
セルキーは思い浮かんだ疑問を矢継ぎ早にサーガラにぶつける。
「けれど、迦楼羅がなぜ央竜の誕生を阻むのですか。竜王様のお話からすると、この世を統べる力は竜族にしか与えられぬのに。」
「・・それもまた違う。」
サーガラは続ける。
「央座の儀は竜族が行う儀。しかし、竜族しか行えぬ儀ではない。」
「では・・迦楼羅は、、この世の王に成り代わろうとしていると言うのですか?!」
その時、セルキーの隣に控えていたイシュカが口を開いた。
「この流れからするとその可能性が一番高いだろう。セルキー、このことは口外無用。それと一旦この話は区切りとした方が良い。水の姫様も驚いておられる。」
竜王サーガラの膝の上には、突然始まった真剣な談義について行けず氷のように固まったオリヴィアがいた。
重要機密を聞いてしまったらしいということだけは薄っすらと理解しているようだが。
「水の姫様もこの件は胸の内におしまい下さい。」
そうイシュカにやんわりと釘をさされるとオリヴィアはコクンと頷いた。
「さて、サーガラ様、明後日の4竜家の会議についてですが、セルキーと水の姫様も列席ということで良いでしょうか。」
ーー会議って、いったい何のことでしょうか。目が点になったままオリヴィアは思った。




