人々はどこへいった
「ええー」
「足裏怪我したら歩きに支障が出んだろ」
「確かに」
「だが、そのままで危ねえのは事実だからな
靴屋も探すか」
「ありがとうございます」
「いいってことよ
足元気を付けろよ、速度は落とすからゆっくり歩け」
「ありがとう!ヒュー、男前!」
「お!わかってんじゃねえか!」
「イヨッ女泣かせ!」
「ん?」
「大将日本一!」
「お前、思いついたの適当に言ってねえか」
「ばれた」
「居酒屋じゃねえんだぞ、わかるわ!」
「あ!で、しつもーん!」
「話ぶった切りやがった」
「なんで都心ほど被害が大きいの?」
「んあ?
えーと、この星の主力となってるエネルギーとかがもう一つの星に取られたからだ」
「こんな流れでも話してくれる!優しい!
エネルギーっていうと、電気とか?科学?」
「今回の場合は多分電気技術だな
俺のいた星にも電気はあったが、この星は活用方法が違う気がする」
「ほほう、技術とな
ん?てことは技術者も連れてかれてる?」
「だろうな
知らない技術で出来た物受け取っても向こうは使い方がわからねえだろうし」
「てことは人間移動してる?」
「そりゃな
現に俺もここに来てんだろ」
「もしかしてこの星は人減った?」
「さあな
そんなに変わってねえと思うけど、なんでだ?」
「だって、今歩いてきてて、誰ともすれ違わないよ?おかしくない?」
(そういえば車も見ないし)
「ここはただ道があるだけだろ?
建物なんかはツタが絡まって入れないし、見たところ俺たちが欲しいものも置いてなさそうだ
だから人が集まってるとすりゃ店がある所かあるいは
なあ、そろそろ出てきてもいいんじゃねえか」
「え?」
彼は静かに後ろを振り返った。
見ても通ってきた道があるだけで何もない。
カラカラカラ
「うい⁉︎」
「ほお〜」
不意に左右の狭いビルの隙間から鉄パイプを引きずったヘルメットの人が5人ほど出てきた。
それを見て彼はどこか楽しそうに、口端を上げて八重歯を見せながら不敵に笑った。
「な、なぜに⁉︎」
「ま、何をしていいか分からない連中の中にはこういう行動に出るやつもいるってこった
前の星にもいたぜ、別の星から来たやつが混乱して襲いかかってくるなんてのはな!」
「いやでも!2対5、いや実質1対5だよ?
やばいよやばいよ!こっち丸腰だし!」
「これでも俺は鍛えてるんでね、そこら辺のやつにはやられねえよ」
「あ、これワタシガシンデマウ」
死ぬ危険よりも別の危険があるんじゃねえかなー?と彼は頭の片隅で思った。
「安心しな、万が一俺が危なくなってもあんたは逃してやる」
「いや、私こんな目に遭ってこの道を今更一人で歩いていける自信がない!ヒールで早く走れないし
それになにより!
こんな状況で人置いて逃げれるほど賢く出来た人間でもないのよね!
邪魔になるのわかってるけど!」
「そうかい
なら、まあ」
カコンッ
誰かが地面で鉄パイプを鳴らし、それを合図にヘルメット達が弾かれたように振りかぶって襲いかかってきた。
「そうならねえように俺も頑張るとするかね!」
「グエッ!」
その瞬間、彼はターンしながら私のお腹に腕を回すと後方へボーリングのように転がした。
「うお!うおぉぉお」
私は後方へゴロゴロ転がる。
転がった先は草がクッションになっていて全然痛くなかった。
彼は私を後ろへ追いやった後、ヘルメット達の連撃を避け続けていた。
彼の方が余裕はありそうだが、向こうが手数が多い分いつ当たるかわからない。
反撃のチャンスを狙っているようだが、こうがむしゃらに攻撃を打ち込まれては難しいようだ。
(素人相手な上にこいつらの身体の柔さもわからねえ
殺さねえようにするとしても、こんだけ数打たれちゃ加減が難しい
チッ、これじゃ埒があかねえな)
その時ヘルメットの一人が何らかのハンドサインをした。
「ッ!嬢ちゃん逃げろ‼︎ぐっ」
彼が私に意識を移した時に1人の攻撃が肩に当たった。
そして彼の動きが鈍ったその瞬間、ヘルメットの一人が攻撃の輪から外れてこちらに向かって来た。
「お、おわあ⁉︎」
人間頭で分かっていてもそんな急には動けない。
普段なら有り得ない事なら尚更で。
「一発当てりゃ気絶でもすんだろ!」
「殺すなよ!死体とは勘弁だからな!」
彼を取り囲んでる方からも声がした。
こちらに来させないようとしてか、手負いの彼に畳み掛けるように先ほどにも増して攻撃が激しくなっている。
近づいて来たヘルメットが鉄パイプをゆっくりと振りかぶり、アイシールド越しの目が私を見据えた気がした。
「そこの彼氏さんには悪いが後でたっぷり遊んでやるよ
顔も体も好みじゃねえけどな」
ドカカッ
「ふえ?」
目の前のヘルメットは動いてないのに、鈍い音がした。
ヘルメットの人も思わず止まってる。
そして、振り返ろうとして
「よお、待たせたかい」
いつのまにか彼がヘルメットの肩に腕を回して横目で睨み付けていた。
「ひぃっ!」
ヘルメットの体がのけぞって彼から離れようとした時、肩に回された腕がヘルメットの首を絞め始めた。
そのまま持ち上げられヘルメット男の足が浮く。
「うっ、ぐぐっ、あ、あいつらはっ」
声は小さく気管が圧迫されて嗄れたようになり、ズーッズーッと僅かに通る空気の音が聞こえる。
「あいつらなら寝たぜ
上手く手加減できるか自信がなかったからこれだって使いたくなかったんだが、ま、しょうがねえよな
状況がこれを使えって言ってるようだしよ」
ヘルメットの男は鉄パイプを振りかぶった腕をそのまま後ろに勢いよく動かし、後ろの彼へ当てようと動いた。
カキィンと金属のような綺麗な音がする。
「この世界ですぐに手当てしてくれる医者を探すのは大変だぜ、だが自業自得だ
この痛みで精々頭を冷やしな」
彼はまっすぐで透明な刀のようなものをくるりと回し、ヘルメットの土手っ腹に柄を叩き入れた。
ミシッと小さく音が鳴った気がした。
「うがあッ‼︎」
ヘルメットの男は一度低く叫んだ後、ドサリと膝から倒れた。
「ふう
あんた、大丈夫か?」
「あ、え?」
いつのまにか驚きで腰が抜けたようで、彼の手を握っても立ち上がる事が出来なかった。
彼は私を引き上げるのはやめて、私に目線を合わせるようにしゃがみ込む。
彼はしばらく目線を彷徨わせてあーとかんーと言ってたが、いきなりガバリと勢いよく頭を下げた。
「すまなかった!」
「え」
「相手が弱いと思って、どう手加減して倒そうか考えてる内にあんたを危険な目に合わせた
さっきまであんたを逃がすだなんだ言ってて情けねえ!
元々殺す気なんざこれっぽっちもなかったが、だからって手段選んで守るべきもんも守れねえんじゃ意味がねえ!」
「え!?殺したの⁉︎」
「殺す気はねえって言ってんだろ、殺してねえよ
内臓うがって、軽く骨にヒビが入っただけだ」
「ひえ」
「この星の人間の身体がそれなりに丈夫でよかったよ」
彼は目線を倒れた彼らに向ける。
「今この世界は文明裁定のせいで医療にも少なからず影響がでてる
そんな中で、本来なら治るはずの怪我も治らずに死ぬ可能性はあるんだ
俺は戦うのは好きだが、こんな馬鹿な理由で情けねえ事の為に人を殺すという行為をしたくはねえ」
私はしばらく考える。
「結果として私達は助かってて、彼等は死ななくて、私はきっと人を殺すということを貴方のように現実で理解できてないんだと思うけど、でも私はこれが今の最善だと思ってて、
だから、
助かったよ、ありがとう」
「おう」
彼は背中を向けたまま静かに呟く。
「ま、過ぎたこと考えてもしょーがねえわな」
彼はこちらに振り返り、また人の良い笑顔を浮かべるのだった。