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始まりは


 ある日の仕事の帰り道での出来事である。


 いつもは車だったが、その日は珍しく他事業所での応援の仕事だった為に電車に乗っていたのだ。

 都会から地方へ向かうこの電車は、時間帯のせいか人混みもすごい。

 運良く座席に座れたのはよかったのだが、長時間の電車の揺れは疲れた体に効いた。

 ねむい。

 眠すぎて寝てしまう。

 いつもは着ないスーツを気にして、足が開いてしまわないように気をつけながらうとうとしていると、突然


ピカー


 と、目蓋を閉じているのにもかかわらないのに凄まじい光が目を刺した。

 私は思わず腕で目を隠した。

 どうやら周りの人も同じだったようで、あちこちから眩しいという声と共に少しの悲鳴も上がった。

 状況を確認したいが目を開けられない。

 目を開けられないから動けもしない。

 どうしたものかと考え出したところで、周りの喧騒がオーディオのつまみを回したかのようにするすると小さくなっていく。


「え」


 今度はなんだと私は身構えた。

 途端に体の力が抜けた。

 重力に負けて顔を覆っていた腕が落ちて体にぶつかる。

 まだ辺りは明るいようだったが、もう眩しくはなかった。

 力が入らないので目蓋はまだ開けられそうにない。


 そして気づかぬうちに、靴を履いているにもかかわらず足裏に土や水の感触がするようになった。

 揺蕩う水に、足先からきめ細かく柔らかい砂のようなもので覆われていく。

 まるで砂浜に立っていただけなのに、押し寄せる波で砂に埋れていくような感覚だ。

 さらにけして空調ではない風が吹き始め、次第に激しさを増していく。

 とうとう暴風とも呼べる勢いになったところで、体制を立て直そうとなんとか踏み込もうとした途端足元の砂が流砂のように後ろへ流れ出した。

砂と一緒に波にさらわれるようにするすると後ろへ流されていく。

 私はそのとき何故だか、とても遠くに連れて行かれてる!と確信めいたものを感じた。



 慌てて動き出そうとするが、腕が動かない。

 足も動かない。

 私は焦った。

 ちょっとしたパニックだ。

 おまけになんだか肩を叩かれている気がする。

 こんな時になんだ!

 私は起きようとしているんだ!


「ーーい、おーー」


 それに耳元でうるさい!


「おーい、おーい!」


「起きろ‼︎」

「ひぃっ‼︎」


 私はがばりと起き上がった。





「おい、大丈夫か?あんた」


 私を起こした男の人が、呼吸の乱れた私の背中を心配そうにさすりながら顔を覗き込んでいた。


「こういうのに慣れてなくて怖い夢でも見たのか?

こういう時は深呼吸だ、深呼吸!

吐く息を多めにすんだぞ、ほれ、吸ってー、吐いてーー」


 そうして何度か深呼吸をすると気分も落ち着いて、一息つくことができた。


「ありがとうございました」

「いいってことよ!

あんた、なんかすごく苦しそうにしてたから早めに起こしてやったほうがいいと思ってな」


 彼は人の良さそうな笑みを浮かべた。

 彼はどちらかというとつり目だったが、笑うと人の良さが出るようできつい印象が霧散する。




 ふと、彼に向けていた視線が止まる。

 驚いた。

 髪がとてもきれいな水色だ。よほど良いトリートメントでも使っているのか、こんな色に染めているのに目立った傷みがない。

 快活さを感じさせる短めの髪に、一房だけ腰にも届きそうな長い三つ編みが結ってあった。


「ん?どーした?」

「いや、なんでも、ん?」


 瞳も少し濃いが、青だ。

 鼻も少し高くて肌は白い。

 もしかしたら海外から日本に越してきた人かもしれない。

 それくらい、旅行で来たというよりは近所で知り合いのお兄さんに会ったような印象を受けた。


「おーい」


 格好もそこら辺を歩くような、白Tシャツに黒のスキニージーンズだ。

 ただ元々の体の大きさからか、スタイルの良さからなのか、お店に行くと壁などにかけてある見本写真のモデルのようだった。

 実際にそんな人を目の前にするとすごい違和感を覚える。


 よくそんなぴったりサイズの服着れるな。こちとらハイネックを着ただけでも苦しくって気持ち悪くなるのに。


「おい!」


「うおっ」


 物事を考え出すと意識がどっかにいってしまう。私の悪い癖。


「なー、あんた、本当に大丈夫か?」


「大丈夫です」


「なら、いいんだが」


 彼の顔に書いてある。本当かよ、と。

 すまん。




「立てるか?」


 手を差し出されて初めて、自分が地べたに座り込んでいたことを知る。


「あんたが寝てたところ、苔がむしてたから服が濡れちまったな」


「ぎゃあ」


 慌てて服をはたいたが、濡れた土はきれいには落ちず、むしろ私の手が汚れてしまった。


「ああ、こりゃ、一回手ぇ洗うのに水でも探しにいくか」


 彼は頭を後ろ手に掻きながら言った。


「そうですね

 ここら辺で一番近い公園はどこですか?」


「公園?公園ねえ

 一体どこにあんだか」


「住宅街の方に行けばきっと」


 言いながら辺りを見回して私は絶句した。


「どこ、ここ」


 地面を見渡す限り草だ。

 苔だ。

 野花だ。

 でもよく見ると、下から所々覗いていたのは土だけじゃなくてコンクリートだ。

 しかも両わきには蔦がびっしり絡んだ高めの建物。

 そして見通しの良さから考えるに、ここは何車線もあるような大型の真っ直ぐな道路。



 多分ここは


「ここか?さっき誰かが言ってたんだが、どうやらここは






"アキハバラ"って言うらしい」

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