第6話 武器を買いに
「早くいきましょう!ユオさん!」
「はいはいっと」
冒険者として活動を始めてから、既に二週間が経過した。その間二人は毎日コツコツと薬草採取をしていたのだが、より依頼料の高い魔物退治をするために今日は武器を買いに行くのだ。
「魔物退治でもっと稼げれば、きちんと宿代をお支払いできますからね!」
「そうだな。この二週間かなりよくして貰っているが、流石に少し申し訳ないからな」
宿で二人はかなりおまけして貰っていて、超格安で泊めてもらっている。そのおかげですぐに武器の代金を貯められたのだが、そろそろ正規の料金を支払いたい。
そんな風に話しているとギルドで教えて貰った武具店に着いた。掲げられている店の看板にはおそらく店名が書いてあるのだろうが、ユオには文字が読めない。早く文字を覚えないと不便だなぁ、と考えながらドアを開けるタマモに続いて店の中へ入る。
そこには剣や弓矢、槍、果てには巨大なハルバードなど大小様々な武器が陳列されていた。
武器の他にも頑丈そうな金属鎧や軽そうな革の鎧なども並んでいて実に多種多様だ。
「いらっしゃい!」
そう言って店の奥から現れたのはがっしりとした体つきの男だった。
手には鎚を持っていて、身に付けている作業服は煤で汚れている。
店にあるのは全てこの人の作品だろうか。
「見ねぇ顔だな。オレはこの店の店主のイアン・マーフィーってんだが、あんたら新人の冒険者かい?」
「はい、魔物退治のための武器が欲しいんですけど」
「なるほど、予算は?」
「えっと、二人あわせて金貨一枚半です……」
「うーむ……。まあ新人だからしょうがねぇのかもしんねぇけど、安すぎる物を使ってたら命に関わるからな」
ジジイからのアドバイスだ、と巨体に似合わぬ笑顔を見せるイアンに二人は顔を見合わせる。
「んで、どういうのが欲しいんだ?」
「わたしは後でいいので……。ユオさん、どうしますか?」
「ふむ」
少なくとも今のユオには武器を使った記憶など無いわけだが、この店に入ったときから気になっていた物があった。
「俺は、剣、かな」
その辺にあった剣を手に取って軽く振ってから戻す。ただの直感だか、それが一番しっくりくる、と思う。気のせいかもしれないが……。
「あいあいっと。んで、属性は?」
「無属性だ」
「そうか……、だったらあれが良いかもな。少し待っててくれ」
そう言って奥に引っ込んだイアンを見届けるとユオは少し前から疑問に思っていたことをタマモにぶつけてみる。
「もしかして、無属性というのはそんなに数がいないのか?」
「うーん、確かにそんなに多くはないかもしれませんね。一説によると、無属性というのは属性を二つ持つのとおなじくらいレアだというのもあるそうですし」
「ふうん」
詳しい事はまだ研究中らしい。というか、タマモは少し博識すぎないだろうか。ユオが知らなすぎる可能性もあるがいかんせん記憶喪失なため判断できない。
そんなことを考えているうちにイアンが戻ってきた。
「こいつなんだが……」
「これは……?」
カウンターに置かれたのは鞘に納められた一本の剣。
何の装飾もなく無骨で、実戦向けに鍛造されたというのが一目でわかる。
「こいつはかなりクセのある剣でな。強化魔法が付与されているんだが、魔力の消費が半端じゃない。だが、無属性で魔力量の多いあんちゃんなら使えるはずだ」
「……」
鞘から剣を抜くと、身体の奥底にある物が剣へと大量に吸い込まれていくのを感じる。恐らく魔力が流れているのだろうが、ユオの身体にはそれが大量にあるのか全く尽きる様子がない。実戦で使ってみないと何とも言えないが、振るのにも丁度良い重さだ。刀身をよく見ると小さな文字が刻まれているがこれで強化魔法を付与しているのだろう。
「……」
唖然とこちらを見るイアン。
「どうかしたのか?」
「あ、いや。オレは前にそいつを抜いたときすぐにぶっ倒れちまったんだが……。流石、無属性だな」
「そうか。よし、これにしよう。いくらだ?」
「あー。そいつは在庫処分みたいなもんだから、代金はいいさ。その代わり、その剣について聞かれたらしっかりと宣伝を頼むぜ」
「おう、任せろ」
気前のいいイアンの言葉にユオは笑って返す。
「んで、嬢ちゃんの希望はなんかあるか?」
「わたしはユオさんに前衛を任せて魔法でのサポートに回りたいので杖がいいですかね」
「ん……?まあいいか、ちなみに属性は」
言葉を切ってちらっとタマモの耳に視線を向けるイアン。
「火、でいいのか?」
「はい」
今度はカウンターから出て店内の一角で杖をまとめてある場所から一本コツンといい音のする杖を置く。
「これが火属性向けの杖。それと短剣だ」
「え?」
小首を傾げるタマモにイアンはふうとため息を吐く。
「後ろからサポートするとしても念のため短剣くらいはあった方がいいさ」
「なるほど」
「で、防具はどうするんだ?」
「予算内でなにかありますか?」
「ちょっと待ってな」
そう言ってまた奥の方に行っていくつかの革製の防具と二つ色の付いた液体を持ってくる。
「最低限、急所が守れればいいからここらへんだろ。サイズも……、問題なさそうだな」
二人とも胸当てやすね当てなどの防具一式、それから小さめのポーチを付けて軽く動くが問題は無い。
それが終わるとユオは液体を指さして質問する。
「それは何だ?」
「ああ、ポーションだよ。新人の冒険者には毎回くれてやるのさ」
「ありがとうございます!」
「いいってことよ。それによ」
一つ声のトーンを落としてイアンは話し始める。
「新米の冒険者っつうのは、簡単に死んじまう。俺の客が死ぬのは寝覚めが悪いからよ」
「……」
「……」
それは、とてつもなく重い言葉だった。おそらく、何人も彼の客は死んだのだろう。冒険者というのはそういうものだ。
「ふんっ、簡単に死ぬなよ、冒険者」
「はいっ!」
「ああ」
そう言葉を交わして、二人は店をあとにした。
補足説明
金貨一枚=10万円
銀貨一枚=1万円
銅貨一枚=1000円
鉄貨一枚=100円
一応これが貨幣の価値ですが、今後変更するかも。
なお、薬草採取で3万はヤバくない?っていうツッコミは無しでお願いします。