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皇帝になった独裁者  作者: ツァーリライヒ
第4章 革命の春
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第26話 全ての権力をコミューンへ!!


 1917年の夏は、とても熱い夏となった。


 パリを中心に各地で蜂起したコミューンに対し、ボルドーのフランス第3共和国政府はすぐさま鎮圧部隊を差し向ける。最高司令官ロバート・ニヴェル曰く、「コミューンに同調する者は“非国民”であり、ドイツ軍に協力しているも同然」とのことだった。


 さらに反乱を早期に鎮圧すべく、ニヴェルは「ヴェルダンの英雄」ことフィリップ・ペタンにコミューンの鎮圧を命じるも、期待とは裏腹にペタンは「自国民に銃を向けることは出来ない」と命令を拒否。命令違反の罪によって解任されるも、こうした強硬姿勢がかえって共和国政府の信用を失墜させることとなり、軍の中にもコミューンに同調する者が増えていった。


 さらに混乱に拍車をかけたのが、英米を中心とする他の連合国の対応であった。



「フランスの国債を国内投資家が大量に購入している以上、現体制に倒れてもらっては困る」


「共産主義革命が輸出されては困るし、そもそもドイツとの単独講和は裏切りに等しい」



 アメリカは自国の投資家を保護するため、イギリスは革命と単独講和を防ぐため、こぞってコミューンを非難、第3共和国への支持を明確に打ち出した。


 ところが、既に大衆の支持を失っていた第3共和国を外国が支援したという事実は、かえって排外的なナショナリズムと共産主義思想を結び付けるという最悪の結果をもたらしたのである。



「共和国政府はフランス国民のためではなく、グローバル資本主義の操り人形へと堕落した!」


「こんなに大勢のフランス人が死んでいるのに、なぜ政府は国民ではなく戦争で大儲けしているアメリカ人投資家の味方をするんだ!」


「ロシアとアングロサクソンの帝国主義者どもは、我々に火中の栗を拾わせてドイツとの共倒れを狙っている!」


 

 こうした陰謀論が民衆の間に浸透していくのに、それほど長い時間はかからなかった。


 事実、フランス軍の犠牲者は他の連合国の倍以上と突出しており、唯一の本国が戦場と化して荒廃した国であったからだ。イギリスやロシアの戦死者も決して少なくはないのだが、本国にまで被害は及んでおらず、フランス人の間には「自分たちだけが割を食っている」という同盟国への不信が募っていた。


 これに加えて愛国心を煽って「フランス第一」を掲げるナショナリストや、「戦争でグローバル金融資本が大儲けしている」という陰謀論を吹聴する共産主義者が加わる。

 こうした状況下で、イギリス・ロシア・アメリカ等の外国勢力が「現政権支持」を打ち出し、コミューンを「陰謀論とポピュリストに踊らされた愚かな非国民」とレッテル張りしたことは、理屈の上では正しくとも、国民感情まで考えると完全な悪手であった。



 そして、トドメを刺したのが1人の男の登場であった。



「――全ての権力をコミューンへ!!」



 スイスに亡命していた革命家、ウラジーミル・レーニンが封印列車に乗ってパリに到着したのである。



 レーニンはすぐさま各国の共産党員と連絡を取り合い、パリにて「第3インターナショナル」あるいは「コミンテルン」と呼ばれる国際協力組織を設立。その上で、フランス支部となる「フランス人民戦線」を組織し、既存の政府に愛想を尽かしていた人々の不満を代弁することで支持を獲得していった。



「フランスの兵士諸君、農民と労働者の諸君! 全ての善良な市民たちに、まず最初に敬意を示したい。君たちはこの苦しい戦時下にあって、耐えがたく忍び難い困難に挑み続けた。誰もが真面目に働き、勇敢に戦った」



 ラジオに流れるレーニンの言葉は、大勢の民衆の心に浸透していった。


 「善良で、勤勉な、普通の人々」が真面目に働いているのに、どうして生活がこうも苦しいのか。自分たちは努力しているのに、なぜ報われないのか――。


 続けてレーニンは訴える。



「普通の人々が、普通に働けば、普通に幸せになれる社会こそが、普通なのだ! もしその程度の“普通”ですら得ることが出来ない社会ならば、それは民衆ではなく社会の方が間違っている!」



 そうだそうだ、と賛同する声が多く上がった。


 戦況は悪化する一方だが、決して自分たちが怠けているわけでは無い。誰もがベストを尽くし、戦時下の物資不足という苦労に我慢し続けてきた。自分たちに落ち度はない。



 であれば、何かが間違っている。



 その「何か」が何であるかは分からない。ラジオで演説している、ロシア生まれのインテリ革命家の言葉の全てを信じたわけでも無い。



 ―――それでも。



「今ここにある間違った社会を作った共和国政府、そこに巣食う既得権益を許してはならない!!」



 今の体制がダラダラと続くことには、もう我慢できない。国民は既に忍耐の限界に達していた。そこに、レーニンは目を付けたのだ。



「この期に及んで共和国政府は自らの非を認めず、異を唱えた者を“非国民”と決めつけて投獄している! 真の“非国民”は国民の生活に目を向けず、外国のグローバル金融資本の飼い犬となった彼ら自身ではないのか!?」



 民主主義と共和制の限界に、フランス第3共和国は有効な手を打つことが出来なかった。複雑に絡み合った利害関係と硬直した官僚主義的な制度は、戦時の最中にあって強力なリーダーシップを発揮することが出来ず、国会は空虚な議論に延々と時間を浪費しているだけ。政治の腐敗を正すことも出来ず、一部の投資家だけが戦争を利用して市民から搾取している……。



「はっきり言おう! 今の共和国政府において、民主主義は機能していない! あるのは既得権益と派閥争いだけだ!」



 レーニンは理想に燃える革命家ではあるものの、それ以上に既存の議会制民主主義に限界を痛感していた。


 そして同じ思いを、程度の差こそあれ多くのフランス国民が戦争の長期化と共に共有するようになっていた。



「戦争が始まって、既に3年の月日が経とうとしている。その間、市民の皆さんは血を流し、ひたすら我慢して耐え続けてきた! その忍耐力は尊敬されるべきものだ。そして同時に、それだけの猶予を与えられながら、事態を好転させるどころか悪化させ続けた政府の無能さには失望を禁じ得ない!」


 

 我慢の時はとうに過ぎたのだ。政府にチャンスは与えた。にもかかわらず、政府は国民の期待に応えることが出来なかった。これ以上の忍耐は無意味である。


 レーニン率いる共産主義者に積極的に賛同する者はそれほど多くなかったが、既存の共和国政府への不満の受け皿として消極的な支持が集まっていき、左翼から右翼まで「反グローバル資本主義・反帝国主義・反戦主義」を掲げ、コミューンの赤い旗のもとで“共通の敵”を倒すべく団結していく。



「我々の自由と民主主義、パンと平和のために! 今一度、共和国は解体・再編成されなければなりません! “普通の人々”の声を代弁してくれる、より民主的で効率的な政府へと!」

 


 そのためには、改革が必要だ。変革が求められている。今こそ、革命の時――。



「フランス国民よ! 無能と圧政に苦しめられた、全ての市民よ! 団結せよ、その手で未来を勝ち取れ! さすれば与えられん!」


 レーニンの言葉は万雷の拍手で迎えられ、第3共和国の権威は地に墜ちた。


「特権階級に告ぐ! 怒れる民衆の声なき声を忘れるな! もはや我々に失うものは何もない! 失ったものを取り戻さんとする全ての民よ、我等を求めよ!」


 これから始まるのは、失われたものを取り戻すための戦いだ。不当に搾取された正当な権利を、普通の人々のもとに取り戻す。


 

「全ての権力をコミューンに! ―――万国の労働者よ、団結せよ!!」


  

意識の低いレーニン「自由恋愛に任せとくと、モテる人とモテない人の間で格差が開いちゃうけど、別に非モテだって努力してないわけじゃない! 非モテでも美男美女と付き合えるよう、自由恋愛を禁止してモテ資本を公平に再配分せよ!」


広い意味の社会主義って割とこういうイメージで、感情論的には共感できなくもない(まぁ結局、再分配する官僚の権力が肥大化してアレなんですが)

  

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― 新着の感想 ―
[良い点] レーニンの演説。アジってるところがなんかヒトラーの演説を思い浮かべてしう。関係ないけど実際のレーニンの演説をyoutubeでみてヒトラーに比べるとヒトラーの方が上な気がする。 (; ・`д…
[一言] 現行の政府が倒れた後は、反戦穏健派、サンディカリスム内政派、ラジカル世界革命派みたいな感じで分裂して、結局は政治的(非暴力とは言ってない)な闘争を始めるんだろうなぁ(遠い目 戦争に嫌気がさし…
[一言] フランス、オワタ\( ˆoˆ )/。遂にあの男が君臨してしまうのか…。対共干渉戦争待ったなしなんですが。でも、アメリカが本気出したら潰れそう。史実でも最終的に320万人動員したし…
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