咆哮
「どうして、どうしてお前たちが俺たちの国を攻撃するんだ!俺たちは長い間同盟国として共に帝国と戦ってきたじゃ無いか。それなのに何故今になって俺たちの国を攻撃して来るんだ。」
黒騎団と呼ばれる総勢100人の部隊を率いていた俺はかつては共に帝国と戦った盟友に対して怒りと憎しみを込めて叫んだ。
「お前は俺たちに裏切られたと思っているんだろう。黒騎団団長のウヴァル、お前たちはもともと騙されていたんだ。俺たちにな。冥土の土産に教えてやろう、俺たちは帝国の第5騎士団でお前が同盟国だと思っていた国の騎士だ。」
馬鹿な。そんな筈が。俺にはそんな言葉しか頭に浮かばなかった。
「俺たちが同盟国だと思っていた国が既に滅んでいたとでも言うのか‼︎そんな筈が無い。もし、そうだとすればいくら外交力の低い我らの国であっても事前にわかる筈だ。」
「そうでは無い、お前たちが仲間だと思っていた奴らはそもそも帝国の支配下にある王国で尚且つ、諸国には帝国の支配下に思われていない王国だったんだよ。これで分かったかなウヴァル君?」
マズイ!これをなんとしてでも王に伝えなくては。俺は隣にいて、呆然としている副隊長のダリアに合図を送る。
(正面突破、お前は王にこれを伝えろ。俺が必ず退路を切り開く。)
ダリアは俺の合図を受けて、眼に強い意志を宿した。それを見た俺はやるべきことが明確に決まった気がした。
「さあ、お喋りはここまでだ。お前たち黒騎団はこの大陸で確かに最強だ。それは周知の事実だ。しかし、今からお前たちは死ぬ。当然だ。お前たちは100人、俺たちは帝国の兵を含め、総勢5000人いるのだから。もし、そのままお前たちが武器を下ろし、投降すれば手足を切り落とすぐらいで済ましてやるよ。友としての情けだ。ヒャハハハ」
俺の頭には自国の民の笑顔、自身の騎士としての誇り、国をどうにか良くしていこうとする現国王の悩める顔、何より盟友にこうもやすやすと裏切られた自分への怒りと悔しさが渦巻いていた。
「お前ら、武器を持て。黒騎団の強さと誇りを見せてやるぞ。突撃ッ‼︎」
掛け声と共に、国を目指して俺たちは駆け出した。
「敵は100人だけだ。弓兵は奴らに矢の雨を盾兵と槍兵は密集して奴らの進行を食い止めろ‼︎騎兵は1人たりとも奴らを逃がすな。全員殺せ‼︎ここで、戦果をあげたやつには特別な褒美を与える。殺れ。」
(クソッ、邪魔だ。盾兵と槍兵が邪魔で思ったよりも前に進めない。敵が俺たちを囲むように包囲していたから兵が分散しているのが幸いといったところか。)
その時、後方から声が聞こえた。
「隊長、ここは俺たちが食い止めます。だから、隊長と副隊長は俺たちを気にせず進んで下さい。隊長達の速さにはどうせ俺たちはついていけない。こんなところで足手まといになるのは御免です。その代わり、絶対に国を救って下さい。」
そうだ、速くいって下さい。と体に何本も矢が刺さっていて声を出すのも苦しいだろうに大声で俺たちにそう言ってきた。
ダリアに目配せすると、瞳に涙を浮かべながらも強く頷いてきた。俺たち2人は加速した。
「逃がすな。追え‼︎奴らは手負いだ。貴様らでも倒せるぞ。まずは、乗っている馬を狙え!落馬したところを殺せ‼︎」
俺の視界に一本の槍が高速で飛んでくるのが見えたしかもダリアの馬めがけてだ。俺は舌打ちしながら、馬から飛び降りて槍を弾き落として咆哮した。
「俺が黒騎団団長のウヴァルだ‼︎死にたい奴からかかってこい。貴様ら程度は俺1人で充分だ。」
視界を埋め尽くすほどの敵兵がかかってくる。かかってきた敵の首、腹、腕などを切っていく。ヌルッとした生温かい血が俺の体を紅く染めていくのを感じる。
「帝国の兵はこの程度なのか?唯の雑魚じゃ無いか。そんなことでは俺を倒すことなど出来んぞ‼︎」
出来るだけダリアをおわせないように俺は相手の意識を自分に向けさせる。
しまった、そう思った時にはもう遅かった。俺は帝国の大剣を振りかざした剣を避けずに剣で受け流してしまった。その瞬間、剣に皹が入った。もうこの剣は長くない。そう思い、敵兵の死体から武器を奪おうとした。
ドス、ドスッ、そんな音が俺の体から聞こえてきた。痛みは無かった。ただ、口から血が出てきたのと、視界がボンヤリしてきただけだ。
かつての盟友フラウロスはようやく追いついてきたらしい。
「あとひと息だ。あの、黒騎団を撃つまで。お前ら、速く殺せ。そいつはやせ我慢しているだけでもう大した強さも無いぞ。全員でかかれば終わるぞ。」
ああ、これが走馬灯か。小さい頃、よく馬鹿な事をして両親に怒られたり愛情を注がれたりした記憶、ダリアと結婚し幸せそうにしていた妹、仲間と過ごした楽しかった日々、そんなものが目の前に現れては消えていく。
こんな状況でも体は動き、敵を殺していく。別に死ぬことは怖くは無い。何故なら、俺は仲間の死や敵の死に何度も触れてきたから。それでも、こんなに足掻いているのは、やっぱりまだこの世に未練があるからだろうな。そんな事を考える。
急にバランスが崩れた。かすれた視界で自分の体を見ると、左腕が肩から無くなっていた。 俺は前傾姿勢になり、フラウロス目掛けて突撃した。
「ウアァァア‼︎」
ガハッと。血の咳をする。もう、手足は何一つ動かない。俺の剣はフラウロスには届かなかった。
その翌年、大陸全土は帝国のものとなった。黒騎団の抵抗は凄まじく、99人の死者を出すのに、500人もの犠牲を出した。
大陸で最期まで戦い抜いた王国の王族は今もまだ見つかっていないらしく、皇帝は躍起になって探しているらしい。