薄青く輝く少女
「着いてきて」
そう言った少女の後ろ姿を、ただ見つめて歩き続けた。
一寸先すら見えない暗闇の中、彼女の身体だけが薄青く輝いていた。
足元は見えない左右も見えない、ただ少女の裸体だけが目印となっていた。
その裸体には淫靡さなんてまるでなかった。ただ惹きつけられる何かがあった。
「どこへ向かっているの?」
どれくらい歩いただろうか。僕は彼女に問いかけた。
少女は立ち止まり、身体ごとこちらへ振り返る。
僅かに膨らんだ乳房。女性らしい肉感が整いつつある上半身。
薄らと生える陰毛。骨と皮だけのように細い下半身。
美しいアンバランスさがそこにはあった。
「それを聞いてあなたの行く先は変わる?」
そう聞かれて、僕は首を横に振る。意味のない質問だったと後悔した。
「そうだよね。だったら聞かない方が……賢明、と言えばいいのかな? ごめんね、あたしはあまり言葉を知らない」
「いや、賢明であってると思うよ」
「よかった」彼女はそう言うと、また前――前というのがどちらなのかも分からないけれど――を向いて歩き始めた。
長い髪の毛は少女の小さいであろう臀部を覆い隠し、ゆらゆらと左右に揺れている。振り子のように、規則正しく、時を刻む。
僕はまた彼女の後ろ姿を追いかけた。
その後ろ姿を決して見失ってはならない。否、見失いたくない。僕は少女の後ろ姿に魅入られていた。
「ねぇ」
前を向いたまま、歩みを止めることなく少女が口を開いた。
「あたしを抱きたいと思う?」
「いや、思わない」即答した僕の応えに、彼女は「そう」と嬉しそうに頷いた。
彼女が向かう先に何があるというのだろう。
それが気にならないと言ったら嘘になる。
だけど問うても意味はない。僕はただ彼女を追いかけるしかないのだ。
暗闇はきっといつまでも続くのだろう。
そして彼女はずっと薄青く輝き続けるのだろう。
そのことに僕は無情の喜びを感じる。