異世界ハラスメント
女神から魔王を倒し、狂った世界を救ってほしいと懇願された青年。
チートな能力とスキルをもらい、勇者となって異世界へ降り立った。
予想に反してモンスターは、可愛い娘の姿をしていた。
所謂モン娘と呼ばれているものだったが、青年は心を鬼にして攻撃を仕掛けた。
しかし様子がおかしい、私は悪いスライムじゃないよ! と言っていたのを無視したのが不味かった。
「キャーこの人パワハラよ!」
「ちょっと待て、俺は上司でも何でもねーぞ!」
叫びを聞きつけて、警備兵が飛んできてしまった。
「どうした何があった! 君まさか圧倒的力を誇示して、モンスターをいじめようとはしなかったかね? 立派なパワーハラスメントだぞそれは!」
「リアルパワーかよ! どうやって経験値稼げってんだ!」
牢屋にぶち込まれつつ、色々聞かされることとなる。
「魔王からの要求で法が改正され、魔物にも適応されるようになってしまったんだ」
「それでハラスメントかよ、いったいどんなのがあるんだ」
「まずは盗むハラ、盗むだけ盗んで逃走を繰り返す輩がいて問題になった」
「現実でも犯罪だからまぁ納得できるけど、戦力UPを悉く阻害しやがるな……」
「あとデバハラも気を付けるように」
「デバハラってなんだ?」
「能力低下ハラスメント、よく能力低下の状態異常をふんだんに駆ける戦法があるだろ。それが問題になっている」
「色々と積んでるなおい」
「あと麻痺ハラも、動けないことをいいことに好き勝手やる輩がいてな、これも訴えられた」
「モン娘にナニするきかよ! やらねーよ!」
「他にも細かく上げればキリがない、訴えられるのが嫌で引退した者は数知れないな。まぁ努力と根性でどうにかして?」
弱点狙いも弱点ハラスメントと呼ばれろくにダメージを与えることすら出来なかった。
法を盾にされ、ろくに攻撃が出来ないまま、気づけば逆にチャームやスリープなど、状態異常を掛けられ、巣穴に持ち帰られる始末。
どうしてこうなった。
「立場逆じゃねえか、性癖歪むわちくしょー! てかセクハラだろこれ! お前ら訴えてやる!」
詰め所に訴えたが、何故だか兵士はあまり真面目に、相手をしてくれない。
「かくかくしかじかでモン娘に襲われて、大事な貞操を奪われた……」
「ハイハイ、魅了ハラか睡眠ハラね、彼女たちに訴えられない事を祈るんだな」
「それどういうことだ!? 男にはハラスメントは適応されないってのか!?」
「てめー! 自慢か!? 羨ましいんだよこの野郎! こちとら勇者が軒並み既成事実作らされて引退してるんだよ! 幸せな家庭作りやがって! おめーら強い勇者どもには、可愛いモン娘が選り取り緑だろーがなー! 俺たち平凡な下っ端には、人間の彼女すらなー! 未だに童貞だバカやろー!一昨日来やがれ! 冤罪に震えて眠れ帰って糞して寝な!」
ダメだこの世界、早く何とかしないと。
ほうほうの体で、魔王城までたどり着く。
モン娘に性的な意味で喰われた回数はもう数えきれない。
ついに青年は魔王と対峙する。
しかし魔王は、どのモン娘よりも美しく可憐な女性の姿だった。
「この狂った世界を終わらせてやる!」
「フッフッフッようやく来たな勇者よ、しかし貴様は勘違いしている」
「一体何のことだ、俺が悪とでもいうのか」
「遠からず近からずと言った所か。ハッキリ言おう貴様の存在自体がこの世界にとってイレギュラー。魔王に対する、勇者ハラスメントだと言うことだ!」
「な、なんだと……俺自体が嫌がらせだと言うのか……」
「余りの事実にショックを受けたか? そのチート染みた圧倒的力で、私に一撃でも加えてみろ、貴様は社会的に死ぬぞ」
「止めて! そういうのほんと止めて!」
「それから部下に偵察させていたが、道中ずいぶんとお楽しみだったようだな、ほら映像もバッチリ」
部下のプライバシーどうなってんの。
「止めろ! てめーも逆セクハラかよ! 無駄かもしんないけど、訴えるぞチキショー!」
「だいぶ効いたようだな勇者よ、最後に一ついいことを教えてやろう」
「何しても無駄っぽいし、もういい好きにして……」
「相手が不快に思わなければ、ハラスメントは成立しないのだぞ。お前は私のことは嫌か?」
「え」
それから勇者と魔王はめちゃくちゃ朝チュンした。
モンスターと人間の間で和解と和姦が広がり世界は平和になった。
後で異世界に嫌がらせしていた女神は、シバいておいた。
終わり。