追跡者
君はどんどんと距離を詰めてくるものを感じながら走る。
じわじわと距離を詰められ追いつかれるのも時間の問題だろう。
君はセレナを先にいかせ追跡者と対峙することを選択する。
「先にいっててくれ、このままだと追いつかれる」
「えっ」
セレナは言葉をつまらせた。
「必ず戻ってくる。先に村には行っていてくれ。」
「そんな。」
「スピードを落とすな、走れ」
君が叫ぶとセレナは一度だけ君の方を振り返ったあと前を向き加速した。
君は立ち止まりセレナの姿が見えなくなるまで見送った。
「ふぅ」
君は息を吐き出し後ろを振り替える。
どこからか気配がする、君は耳を済ませそれの居場所を図ろうとする。
剣を抜き構える。
----ウオオオォォォ
前方から雄叫びが聞こえた。
そしてゆっくりとそれは姿を表した。
身長は二メートルあるだろうか、腕が長く細く指先が尖っており、足は馬のような形になっている。太ももが異様に発達していた。
異形だ。
君はゆっくりと間合いをつめる。
すると異形は前屈みになった。その刹那--
曲げていた足を一気に伸ばし予測できないスピードで君に向かってくる。
君は構えていた剣を会わせるのが精一杯だった。
異形は長い腕を鞭のように振り下ろす。
それを剣で受け止めるがとても重く腕が痺れた。
異形はすかさず回し蹴りを繰り出す。
君はすんでのところでかわす。
ビュンと足が空を切る。剣で受けていたら剣ごと砕かれていたかもしれない。
異形は蹴りを空振りすると一旦間合いをとるため後ろに下がった。
「不味いな」
腕が痺れていて剣を握る手に力が入らない。
攻撃に転ずることはできそうになかった。
剣は少しかけていてそうなんども攻撃を受けることもできそうにない。
また、異形は前屈みになった。
---来る。
異形はまたも物凄いスピードで君に突進する。
それを見切りよけ構えていた剣を通りすぎていく異形の背中に叩き込んだ。
「ギァァァ」
異形は叫んでいるが致命傷ではない。
腕が痺れているため力をいれれなかった。
「皮膚は固くないようだな」
君は攻撃を交わしていき少しずつ異形にダメージを与えていくことが有効だと判断し相手の隙を伺う。
異形はまたも前屈みになる。
「バカの一つ覚えか」
突っ込んで来た瞬間タイミングを見計りかわす。
君は体を翻そうとした瞬間。
---グリュッ
異形は途中で足を付け方向転換をした。
「あああっ」
左肩に異形の尖った指がめり込んでいた。
そして右腕に異形のもう一方の腕がめり込んで腕があり得ない方向に曲がっている。
君は逃げようと後ろに飛び退いたが、異形は追い討ちで左手を右足に突き刺した。
「ぐっ」
君は指がめり込んでいる足と肩に力を入れる。
「ギガァガガ」
君の足はいびつに曲がり太くなり出す。左肩は太くいびつな形に。
異形は目の前で起きていることを理解できずにいた。そして気づくめり込ませた指が引き抜けないことに。
君は左手で持っていた剣を振り上げ異形の腕を切り落とす。
「あがぁあがァァァ」
異形は雄叫びおあげたと同時に君に蹴りを入れた。
君は避けることができない。剣で受け止めた。
---ガッ グニャ
君は蹴りの勢いを殺すことができずそのまま吹き飛ばされる。
剣にはひびが入っていた。
君は呼吸ができず酸素を求め口をパクパク動かす。
異形は君に歩み寄ってくる。
それを見て君は逃げようと左手腕と左足で這いずる。
「かはっ」
君はまだうまく呼吸ができない。
もうすぐで異形がこちらにつく。
君は鞄の中に左手を入れあるものを探す。
---グチャ
異形は君に近づくと君のいびつに曲がった右足を踏んだ。
「あがぁぁ」
君は鞄から目当てのものを取り出すとそれを異形の心臓めがけ投げる。
「がっ」
異形はよろめいた。
それはいつかの短剣であった。少年が異形の姿にされたとき一緒にいた冒険者から渡されたもの。
異形はふらふらとして前のめりに倒れた。
「がはぁぁはっはっ」
君はようやく呼吸を取り戻す。
君はボロボロになっていた。
右腕はあり得ない方向に曲がり、右脇腹は蹴りを受けたとき裂けた。右足と左肩は鋭利な指で刺されたため大量の血が。
君は異形の形になっている左肩と右足を見る。
「またか」
君はそう呟くと仰向けに倒れ空を見た。
青いそらそれが次第にぼんやりと霞んでいく。
「------」
女性の声が聞こえた。
シュナ?
霞んでいく意識の中君は走りよってきて泣きながら自分に何かを叫んでいる女を見た。
◇◆◇◆◇◆◇
それは君は異形にされ
シュナととなり町に身を隠していたときのことだ。
となり町の外れにある川の近くに身を隠していた。
夜君とシュナは町外れを歩いていると前から歩いてきた何者かにすれ違いざま後頭部をいきなり殴られた。
君はうずくまっているとその何者かはシュナの腕を無理やりつかむと服を強引に破き胸が露になる。
シュナは叫ぼうとしたがその男に口を押さえられ叫ぶことを許さない。
それを見たとき君は胸の中に渦巻く黒いものを感じた。
男がナイフを取り出してシュナのスカートを切り裂いたとき。
「ぐっ」
男は死んでいた。
君の変形した細長い腕に胸を貫通されて。
◇◆◇◆◇◆◇
「---」
君は起きるとそこは家の中だった。
「いっ」
身体中が痛い。
右腕は木で固定され右足、左肩は包帯で巻かれていた。
君のベットの横でセレナは寝ていた。
目元が腫れていた。おそらく泣いていたのであろう。
君は左手でセレナの頭を撫でる。
ズキンと左肩が痛んだ。
セレナの目から涙が落ちた。それを君は指先で脱ぐってやる。
すると、ハッとした表情でセレナは起きた。
そして君を見るなり泣き出した。
君はおどおどとしながらセレナの頭を撫でて
「ありがとう」といった。
すると、セレナは抱きついてきた。
「うっ」
抱きつかれると至る所にある傷口が痛んだが我慢した。
セレナが泣き止むまで。