ハジマリ
君が目を覚ますと既に太陽は上っていた。
抱きしめたままのシュナを見る。
ふと、彼女に温もりがある気がしたが自分の体温が移ったものだった。
シュナの墓を掘ろう。
洞窟から出て穴を掘ろうと良さそうな場所を探していると違和感に気づくと、土を手で掘ろうとするとそれは人間の手だった。昨日はいびつに指が長く先が鋭利になっていたのに。
君は自分の顔を手で触れてみた。頬が裂けていない。
足を見ても太く歪んでいなかった。
「人間に戻った?」
君は自分の体になにが起きているのかわからなかった。
ひょっとしたらシュナも生き返るのではと思った。
シュナのそばに戻るとシュナの手首にふれる。動脈は動いていない。やはり死んでいる。
シュナの胸に突き刺さっている短剣を抜こうと君は思った。
この短剣に刺されてから異常な事態に巻き込まれた。
胸に刺さっているそれはいくら抜こうとしても抜けなかった。
不思議に思い君はシュナの上着を脱がせ刺さっている箇所を確認した。
すると、短剣とシュナの肉体が融合していた。
傷口がなく皮膚と短剣とががっちりと一体化していた。
「どうなっているんだ」
君は墓を作ることをやめた。
シュナの様子を観察しようと思ったからだ。
シュナは心臓が止まっているにも関わらず体温が下がっていないことと、短剣と肉体が一体化しているため体になにが起きているのかわからずひょっとしたらという淡い気持ちがあったからだ。
君は一糸まとわわぬ姿であったため服を取りに帰りたかったが村には帰れなかった。村人に見つかりたくなかったのだ。
もし見つかったら事情を説明しなければならず、シュナの事を説明したときに恐らく、もし生き返ったときに化け物だった場合を考えて今のうちに火葬またはバラバラにしようと言いそうな気がしたからだ。
もし、シュナの事を隠した場合、この洞窟に頻繁に通う必要がある。事件が起きたあと頻繁に洞窟に足を運べば怪しまれるだろう。
君は薬草や山菜をとり飢えをしのごうと思ったが鞄がないことに気付き昨日の初めてフードと出会ったところに向かった。
そこにはビリビリに破れた服と所々破れた鞄があった鞄を拾い洞窟まで君は戻る。
火打ち石をとりだして火を起こし山菜を焼いて食べた。
鞄のなかから水筒をとりだして薬草を火で炙ったものを粉末にしなかにいれた。これが正しい薬の作り方かはわからないがそれをシュナの口のなかへいれた。やはり飲まなかった。
夜がくるまでそれからシュナの近くに君はずっといた。
夜になると町に忍び込み家にはいり服とお金と必要なものを漁った。
この体に戻っても身体能力などは上がったままだった。走っても速いし夜のなかでもものを見ることができた。
洞窟に戻ると君はそのままシュナの横で眠った。
シュナの体は変化していった。
朝起きたときぱっと見で異変に気づいたがそれがなんなのかわからずしばらくじっと見ていたが顔が少し幼なくなっているのではと思った。
また、短剣を肉体に取り組もうとしているかのように昨日より深く刺さっている。
次の日には既に短剣はすっぽりと胸のなかに収まろうとしていた。顔も君の年齢と同じくらいに見えるくらい若くなっていた。
君は昼下がり山のなかで山菜や薬草を取り洞窟に戻ってくるとシュナが起きていた。
君はシュナにかけよる。
「シュナ」
シュナは君の方を向いた。
シュナの瞳が赤くなっていた。
「なにか変な感じとかする?痛いとことかある?気持ち悪い?」
君は立て続けにシュナに聞いた。
「ーーー」
シュナの声はかすれて声にならなかった。
君は薬草を燻し粉末にして見ずに溶かしたものをシュナに飲ませ横になるように言った。
シュナは吐息をたて眠った。
君は山菜を焼きシュナが起きたときに食べれるよう用意をした。
用意し終わると洞窟を出て天を仰ぎ涙を流した。
シュナは日が沈んでから起きた。
君は山菜を暖め直しシュナに食べさせた。
シュナは若干掠れていたがしゃべれた。
「ありがとう。なにが起きたのかわからないけど、あなたがここまで運んできてくれて色々来てくれたのは知ってる。私が起きていない間体から意識が離れて俯瞰しているような感じがしたの」
君はシュナを見つめる。
「で、君があんなに泣くのは久しぶりに見たな。小さいとき以来だね。」
シュナはニヤニヤしながら君を見るが君は泣きそうな顔をしていた。
「シュナがいなくなったら俺に家族はいなくなるんだよ。ーー」
君はまた泣きそうになったので続きの言葉を発するのをやめた。
シュナは微笑みながらごめんねといって君の頭をなでる。
「これからどうしようか」
シュナは言った。
「今から村に戻っても変な目でみられるよね。異端のものとして狩られるかもね。
どうしようかねぇ。」
困ったなぁというような雰囲気をだしながらシュナは言った。
君とシュナの目は赤く染まっていた。
いきなり2人帰ったら本当に何かに取りつかれたと言われて牢屋なりに入れられる可能性は否定できなかった。
「どうしようかねぇ」
シュナはもう一度呟いた。
「ここを出よう。遠くへ行こう。
誰も俺達を知らない場所へ。」
「そうだねぇ。
でも家は無くなっちゃうね。すむとこどうしようか。」
「テントを買おう。今体力と筋力が凄くあるから僕が冒険者になって、すぐに家を立てれるくらい稼ぐよ」
「だめ。危ないから。」
シュナは撫でていた手を止めて。答えた。
「明日となり町に行こう。
今日の夜に家に帰って必要なものをここまで持ってきましょう。
それから考えましょう」
君はうなずき眠りについた。
□■□■□■□■
バッツは銀色のプレートの冒険者であった。
白、黒、銅、銀、金と冒険者はランク付けされており、銀色のプレートはなかなかの実力の持ち主とされていた。
今回バッツは国からの依頼を受けることになっていた。何でも獣を討伐する依頼で報酬がかなり良かった。だが、この任務での出来事知り得た情報は外部に決して漏らしてはいけないという制約がついていた。
また、10人程度の団体を組むということで異様な依頼であった。
通常の獣を狩りや討伐は1-2人程度で挑むことが多いが今回は団体での行動となる。
獣の数が多いのだろうか。
「嫌だねぇ」
今日、ギルドで参加者に詳細説明が行われる予定でバッツかギルドにつくと参加者と見られるメンバーは既に集まっていた。
バッツは受付を済ませると受付はロビーにいる参加者に会議室にいくように指示をだした。
周りをみるとほとんどが銀ー金のプレートの冒険者だった。
会議室は一番広いところに通され椅子に座らせると説明が行われた。説明は依頼主である国からの使いが行った。
今回の目的は、死者の短剣というアイテムの回収と獣の討伐であった。
死者の短剣は錬金術師が所持している、その錬金術師は確実に村の近郊に潜んでおり、発見しだい殺しても構わないとのこと。
獣の数は不明で獣1匹あたりの強さも不明であるが恐らく熊などの比ではないといっていた。
これだけ情報が不十分なのも珍しい。通常であればギルド側もしくは依頼者側で獣の数などは大体目星をつけてくれるのだが。
説明が終わり質問の時間になる。
「錬金術師の強さは?」
バッツは一番気になっていたことを聞いた。
「冒険者で言うと金だ。かなり強い」
周囲がざわつく。
「どんな格好をしているんだ。」
「それは後程人物画を渡す、それを確認しろ。」
別のやつが質問をした。
「死者の短剣はどんな形た。また、どんなアイテムだ」
「死者の短剣は剣先が歪んで歪な形をしている。それがどのようなアイテムかは詳しくは伝えることができないが現在伝えることができるのは、兵器を作ることができるということだ。」
その後色々な質問が出た。
聞いていくと錬金術師はもともと国に雇われていたが行方不明になりその錬金術師が研究していた情報などがすべて消えていたそうだ。
危険な任務になる、そう思った。
後日、村に派遣されたバッツたち一同はまず近くの山を探索することになっている。
村の近くに潜伏できる場所は山ぐらいであった。
10人は2組のペアをつくり5組にわかれた。
この村には冒険者の他国の監視役がついてきていた。この監視役より指令が与えられ任務に取りかかる。
バッツが組んだ相手はレイブンという男であった。同じ銀のプレートを所持していた。
バッツとレイブンは与えられた山の範囲を探索したが初日は何も得られる情報はなかった。
その日は酒場に戻り他の探検者などと情報交換や村の情報などを入念に調べた。
異変が起きたのは2日目だった。
バッツは任務を終えてその報告を監視役に行ったが一組だけ時間になっても報告に現れなかった。監視役は一先ず残りの4組の報告を聞き解散させた。
3日目その日は何も起きなかったが監視役から夜は宿から出歩かないようとの命令が下った。
バッツたちは宿から出ることを許されず行方不明の一組はまだ帰ってきていなかった。
4日目にはまた1組、報告の時間が来ても現れず、皆が異様な雰囲気のなかその組が帰ってくるのを待った。
結局その組が姿を表すことはなかった。
5日目バッツとレイブンは任務を終えると報告のため村に戻ろうとするが、悲鳴が聞こえたためその付近を更に探索することにした。
バッツはレイブンに先に帰るよう指示をだした。
レイブンは危険だと反対し一緒に行動すべきだと言ったが報告と援軍を要請したいのでレイブンには先に帰ってもらう。
既に日は沈んでおり松明に火をつけて悲鳴がした方へと向かう。
付近を探したが誰もいない。
それにレイブンが村の方に行ってから時間がたつが援軍は一向にこない。
引き上げた方がいいか。
そう思いバッツは山を下った。
山を下り終えるとドドドとなにかがかけてくる音がした。
援軍が馬を連れてやって来たのか?
それはないだろうこんなに暗いのに馬を引き連れて走るのは危険だ。
バッツは剣を抜き姿勢を低くする。
松明を音のする方へと投げる。
それは一瞬だった。
松明が地面につくと同時にものすごい勢いでバッツを目掛けて見たことのない獣が飛びかかりバッツはなにもすることができないまま首をへし折られた。
プロローグ 終わり