ナノナの町
君は砂漠のなかを歩いていたどれ程歩いたのか、もはやわからなくなっていた。
君は大きな剣を背負い歩いている。
日は沈みかけているがまだまだ暑い、やがて夜になると日中が嘘のように寒くなることを君は知っていた。虚ろな目をして君は歩き続ける。
--「ほら、振り向かずに進みなさい・・・」
君を動かしているのは彼女の声、彼女の最後の一言。君は彼女の指差した方へ歩き続けた。
やがて君は小さな湖を見つけた。君はもつれる足を必死に動かし向かう。
--「・・・行って」
泣きそうな声であの時彼女はいった。君は悲しそうな顔を彼女に見せうなずいた。
彼女は君にとって全てであった。
育ての母であり、遊び相手でもあり、なにより好いていた。
君は湖の近くまでいくと崩れるように膝をつき頭ごと湖に突っ込んだ。
喉をならし水を飲む。胃がビックリしたのか飲み込んだ水をすべて君は吐き出した。だが、気にすることなく再度水を飲み始める。吐いては入れて吐いては入れてを繰り返した。水を飲み終わると空の水筒のなかに水をいれる。
一滴も入っていなかった水筒が満杯になる。
君の虚ろな目に少し光が宿った。
君は水筒を一杯にすると、服を脱ぎだし泳ぎ始めた。水に潜り、浮上し浅瀬で浮かんだ。
君は浮かびながら久しぶりに空をみたことに気づいた。既に日が沈みかけている空は紅色に染まっていた。
君は夜に備えなければならない。
砂漠に落ちていた枯れ草を鞄から取り出す。
君はあたりに落ちていた枯れ木を集め、枯れ草に火をつけ枯れ木へと移す。
火は上手く移り大きく燃えた。
今夜は寒さをしのげそうだと安堵したが食料は湖の中にあった貝が数個だけだった。昨日食べた保存食が最後で何も持ち合わせてはいなかった。
やがて、日は完全に沈み闇夜が訪れる。
君は布切れを鞄からとりだしくるまる。薄い布切れだが無いよりはましだった。
目指している町は近くまで来ている。
明日の昼頃にはつけるであろう。ただ食料をそんなに食べていないそれが心配であった。
朝、寒さに目を覚ました。
君は力がわかず立つのも一苦労であった。当初朝日が上るまえに旅立つ予定だったが食べるものを探すことにする。
君は湖の近くの茂みでバッタや芋虫などを捕まえ、湖の浅瀬で貝を拾いそれらを焼いて食べた。
そこらに生えている草を食べようかと君は思ったがそこらに生えている草を君は知らなかった。知らないものを食べて腹を崩すことは命取りになるので食べなかった。
君は一日ここにとどまり体調を戻すか、このまま町に向かうか考えた。まだ日が登ったばかりであったので出るなら今のうちだ。
君は湖の回りを見渡した。
ここを旅立つことにした。
今日一日日差しを遮れるような場所は湖のそばにある木の影のみであったことと食料が大量にとれそうではなかったからだ。
君はすぐに身支度をすると顔を洗ってから湖を出た。
1時間歩くと気温はかなり上昇し君は湖にとどまっていたほうがよかったのではと考え出した。
だが、湖近くの木の影にとどまっていてもどのみち体力は減っていたであろうと首を振る。
ひたすら歩くが景色が変わらないため進んでいる気がしない。
町の近くに来ているのは間違いない後2時間もしたら町も見えるようになるだろう。
君は鞄のなかから水筒を出すとわずかに水を口に含んだ。
ジャリジャリと口のなかに入って来ていた砂を洗いだし吐き出した。その後水を一口飲み込む。朝は満杯にあった水も1時間で1/3も減ってしまった。
君は汗を拭うと首から下げていた飾りを握りしめた。
旅立つ日に貰ったものだ。綺麗に輝く石に加工がしてあり石の上部に丸い穴が空いておりそこを上部な太い紐が通っていた。
何でも母から子へ成人になると渡すものらしいが君はまだ成人では無いし母もいなかった。
君が生まれた町はもともと別の町でそこは山賊に襲われ滅んだ。
君はそこで母親と思われる人に抱かれ気を失っていたと聞いている。抱いていた女は既に息絶えていた。
君を拾った女はシュナという名前で、その彼女から首飾りを貰った。
君はそのときのことをぼんやりとしか覚えていない。
シュナはその頃成人を迎えたばかりであったようだ。
シュナは両親を説得し一緒に住むことになった。シュナもシュナの両親も優しく君が旅立つその日まで我が子のように育てた。
君の旅の目的はそのシュナを守るためであった。
少し前から不可解な事件が君の住んでいた町で起きていた。
大きな爪で引き裂かれたような傷を負った遺体が発見されたのだ。初めは熊か狼の類いのものが町付近に迷い混んで襲ったのだと思われていた。
だが、同じような事件が多発し国から調査部隊が送られてきた。それは正式な部隊ではなく冒険者を中心とした雇われの部隊であった。
冒険者は国の軍隊ではなく、独自に冒険者の組織がありそこに依頼をすると組織から人員が送り込まれる。この冒険者たちの仕事内容としては狼や熊などの獣退治から行商人の護衛などが主であった。
調査部隊は10人程いた。1週間ほど調査部隊は村にとどまった。
そして5日目には調査部隊の人数が減っていることに気付き村人たちはことの異様さを感じた。
調査部隊は最終的に半分の人数になっていた。
そしてわかったことは調査部隊の半数は死んでいたことと、大きな爪の主は狼や熊ではなく異形の存在であることだった。
君は砂漠を更に2時間歩き続けると町が見えてきた。更に1時間かけて町へとたどり着く。君は町につくとすぐさま井戸から水を組口の中に水を入れて飲み込んだ。口の中に砂が入っていたが気にせずに飲み込む。その後顔を洗い水筒に水をいれた。
お腹がすいていて君は倒れそうだったので、酒場に入った。昼間なので人は少なかった。
シチューとパンをたのんだ。
酒場は夜になると多くの人が集まる。国の兵士だったり冒険者だったり行商人だったり、情報を集めるには最適の場所だ。
シチューとパンを食べ終わると酒場を出た情報収集のために君はまた夜訪れることにする。
君は手持ちの金を数えると商会へと向かう。
商会は商人の支援をする団体の施設である。商人への情報をもたらすため他の町の商会と情報の交換をしたり、商人へお金を貸したりとするところである。
また、商会には併設で冒険者の組織であるギルドもある。多くの商会はギルドと併設されていた。
君はギルドの受付へと向かう。
「いらっしゃい。ナノナ町ギルド受付です。今回は何用ですか」
君は町を出る前に登録しておいた組合証をだして手頃な依頼がないか確認する。
君は町を出る際に多くのお金をもって出ることができなかったため稼ぎながら進まなければならなかった。
「この依頼なんかお勧めですよ」
受付の女性が依頼書を出した。
それは行商人の護衛兼荷物持ちであった。
君は他の依頼書もざっとみたが最初に進めてもらった依頼を受けることにする。
「ありがとうございます。初めての依頼になりますので簡単に説明しますね。登録する際の説明と被る部分があると思いますが--」
君は10分程度の説明を聞いた。
報酬について、冒険者の責任について、冒険者の階級についてであった。
報酬については依頼を完了するとギルドから受け取れる。獣の類いの退治依頼については獣の部位を削ぎとらなければならない。
冒険者の責任については、依頼を失敗してしまった場合冒険者の登録時に保証金をギルドに預けておりこの保証金から依頼主に失敗してしまった責任として支払われる。失敗してしまった場合冒険者は死んでいることがあるので保証金から支払われる、生きていて失敗した場合は保証金から一時的に依頼主に支払われるこの分を後で冒険者はギルドに支払わなければならない。
冒険者の階級については依頼をこなしていく毎にポイントが溜まりポイントに応じて階級が貰える。階級が上がるとできる依頼も増えてくるという仕組みだ。
「以上ですね。質問ありますか」
君は特に質問もなかったので首を振った。
「そうですか。わからないことが有ればまた聞いてくださいね。それと今回の依頼ですが行商人の護衛依頼になります。詳しく依頼者さんからお話があるので今日の夕方6時位に再度こちらへいらしてください」
君は受付へお礼をいうと依頼書を鞄へ入れて外にでた。
君は今日泊まる宿屋を探すことにする。
お金はまだ余裕があるので野宿はしなくても良かった。
しばらく町を見て回ると良い宿屋を見つけることができたのでそこの受付を済ませ部屋へと入った。
荷物をおろしたまたギルドまでいかなくてはならないが後3時間ほど時なんがあった風呂に入っていなかったため風呂に入りたかったが君はベットに腰を下ろすとそのまま寝てしまった。
君はシュナの夢を見ていた。
小さい頃の夢だ。
君は心を閉ざしたまま誰とも話そうとはしていなかった。
シュナはそんな君に対して何度も話しかけていた。
「となり町のお祭りに行こう」
シュナは君を連れて祭りに出かけた君はシュナのてを握りシュナについていった。
色々な食べ物を買ってもらった。君とシュナ合わせても食べきれないだろうというくらい買っていた。
シュナは笑いながら歩いていた。君はその顔を見上げていた。
「あそこで座って食べよ」
シュナは神社へと続く階段に腰かけると持っていた食べ物を膝の上に置いた。
君も階段に腰かけて持っている食べ物を階段に置いた。
「どれ食べたい」
君は買ったものを見渡してシュナの膝の上にのっている一つを指差した。
「はい」
シュナは竹筒に入っている蒸かした芋を箸で崩して君の口まで持ってきた。
君はそのまま食べるのが恥ずかしく自分で食べたかったが彼女の笑顔を見ているとそれができなかった。君はそのままシュナから食べさせてもらった。
「おいしいかな」
君はうなずく。
「ふふ、よかった」
シュナは笑っていた。
君は急に泣き出した、なにが悲しいのか君はわからなかった。何で泣いているのかもわからなかった。
「----」
君は何かを言っていたが声がかすれて聞こえない。
シュナは慌てた顔をして大丈夫、大丈夫と君の頭を擦っていた。
君は目を覚ますと時間を確認した。
君は風呂に入らずに寝てしまっていたのでシャワーを浴びに風呂場へと向かった。風呂は誰も入っていなくて貸しきり状態であった。
頭、体を洗うとお湯にさっとつかりすぐに出ていった。
君は着替終わる頃にはちょうどいい時間になっていた。
そのままギルドに向かう。
ギルドの中にはいるとそれに気づいた受付が声をかけてきた。
「お待たせしました。依頼主は上でお待ちですよ。案内しますね」
君と受付は階段をあがり上の階へと上がった。
連れてこられた部屋には女の子がいた。
彼女は君に気づくとお辞儀をした。
少女の髪は金色で長く美しかった。
顔は幼いように見えるがしっかりしているように感じる。
「では」
受付は案内が終わるとお辞儀をして姿を消した。
「はじめまして、私はセレナといいます。この町の牧場で働いています。」
君も自己紹介をし今回の依頼の詳細を聞いた。
「今回は私の牧場で取れた乳製品をヒゼンの村まで届けるのでその護衛と荷物を持ってもらいたいと思っています。
ヒゼン村までにいくつかの町に寄ってそこにも乳製品を卸します。
傷みやすいものは近くの村に下ろし長持ちしやすいものはビセンまで運びます。
私は馬車があり馬に乗るのですが今回は荷物が多く荷台に荷物の全てをのせることができないので、ヒゼンにいくまでの食料と水を持っていただけますか。」
セレナは鞄から地図を取り出しヒゼン村を指差す。
「ヒゼン村に着くまでに寄る村はウィン村、ノース村、キーン村、トゥルの町になります。」
君はうなずきどのくらいの重さになるか訪ねる。
「となり町までは2日で着くので4kg程度になります。となり町からは次の町までの食料を調達してとなり町を出発します。町につく度食料を調達しますが5kgを越すことはないでしょう。」
君はうなずきその他問題がないかを確認する。
特に問題はないようなのでこの町を出る時間を確認した。
明日の昼下がりに出発するとのことだった。
確認をすべて終えると互いに握手をして解散した。
そして君は酒場へと向かった。
酒場には20人程度人がいて冒険者、錬金術師、商人がいた。
君は早速冒険者から情報を集めた。
君が本来目指している場所についてと、ヒゼンという村について。
君が本来目指している場所の名前はカノという場所だ。その場所についての情報はてに入らなかった。
ヒゼン村についてはここから11-12日程度かかるとのこと。
ヒゼン村までの道のりで注意すべき場所もおさえた。
地図を持っていなかったため地図を売っている場所やその他買った方がいいものなどを聞いた。
買った方がいいものはリストをつくり明日買いにいくことにする。
錬金術師にも話しかけた。
錬金術師は魔法使いのようなもので何かの素材と素材を掛け合わせ新たな物を創る人のことだ。
君は実際に錬金術師を見たことがなかった。錬金術師についての知識もあまりもっていなかった。
村で起きた事件に錬金術師が絡んでいると君は知っていた。人を襲っていた異形あれは錬金術師が作ったものだと。
錬金術師は分厚い一冊の本を持っていた。
この本に自分の錬金術の全てが入っているといった。
実際に錬金術を使っているところは見せてくれなかった。
錬金術師はあまり話したがらなかった。
錬金術師は君に断りを入れて去っていった。
夜も深まりそろそろ部屋へ帰ろうかと思っていた矢先君の名前を呼ぶ声がした。声がした方を見るとセレナがいた。笑顔で手を振っていた。
君は彼女の近くに座った。
なぜここにいるのか気になった君は彼女に聞いてみる。
「私は乳製品をこちらにも届けているんですよ。そのついでにこちらでお食事をと思いまして。」
君は彼女が牧場で働いていたことを思い出した。
お昼に酒場に来てシチューを食べて美味しかったことを伝えると彼女はにっこりと微笑み良かったですと言った。
「ここに来たのは初めてですか」
彼女が聞く。
君はうなずきカノという所を目指していること、その途中でこの町に立ち寄ったことを伝えた。生まれはもっと西の方にある町だということも君の生まれた町の名前を彼女は知らなかった。
10年前に滅んでいたので彼女が知らなかったことは不思議ではなかった。
「カノには何のようで」
君は適当な嘘をついた。そしてすぐに話題を変えた。
その後君と彼女は他愛のない身の上話をした。
君は途中で眠くなり彼女に断りを入れて自分の部屋へと向かった。
宿屋につくと服を洗濯し干してから眠りについた。