可愛いお洋服は好きですか?
ギィーッ・・・ギルドの扉を開けて入ってきたのはたくさんのフリルのついた深紅のドレスを着た少女だった、カウンターに着くより早く、俗にいうチンピラ冒険者が彼女に声をかける。
「よぉよぉ、お嬢ちゃん依頼か~い?それともおぢちゃんがた~のしいことをおしえぐぇ・・・」
チンピラ冒険者は股間を抑えて崩れ落ちる、そして少女はドスの利いた声で、
「美的センスの欠片もないようなドサンピンが気安く声をかけてくるんじゃねぇ」
他の冒険者もあまりの光景に声も出ないでいた・・・
少女は雰囲気も表情も口調も声色まで変わってこう言った。
「すみませ~ん、わたしぃ~服飾デザイナーのアオイって言います~、それで~ここの偉い人に会いたいんですよぉ~制服デザイン売り込みに来たんですぅ~、受付のお姉さまたちも普段着る制服は可愛い方が良いとも居ませんかぁ~?」
ハスキーな声で甘ったるい言葉を話す少女にギルド職員は冷や汗を垂らす、正直男性職員は股間をけられたチンピラに同情的だ、女性職員はあまりの変り身に呆然としていた。
間も無く二階から初老の男性が降りてきて「全く・・・何の騒ぎじゃい」と冒険者たちを見回す、「マスター違うんですよ」と男性職員たちが説明を聞き、初老の男性も唖然とした表情に変わる。
十分距離を開けてギルドマスターと思われる男性が腰の引けた体制で「嬢ちゃん少し話を聞かせて貰ってもいいか?」と奥の部屋に向かう。
「ギルドマスターって偉い人ですよねぇ~?わたしの話も聞いてくれると嬉しいな」
とハートの飛びそうな表情で了承した。
「リタ、サマンサすまんが一緒にきてくれn「嫌です」「お断りします」・・・じゃあメリアは「勘弁してください」・・・じゃあ女性の冒険者で誰か護衛代わりに一緒に話を聞いてくれんか?」
女性冒険者も渋い顔をする、なぜならさっき少女がどう動いてあの見事な金的を決めたか目で追えなかったからである。
「嫌ですわギルドマスターさんか弱いオトメに向かって酷いです~」
「じゃあ念を押させてもらうが・・・蹴るなよ?」
「当然です~クライアイント蹴り上げるなんてめったにしませんよ~」
「・・・すまんが着替えてくるから奥の部屋で待っててくれ」
・・・・・・・・・・
少し待ったがギルドマスターは上等な服に着替えて入室してきた。
「先に嬢ちゃんの話を聞こうか?何をしにギルドに来たんだ?」
「はい~、わたし服飾デザイナーのアオイって言いますぅ~じつわぁ~ギルドの受付嬢の制服を新調しませんかっていう売り込みなんです、デザインのですけどね」
室内はギルドマスターの緊張のせいかピリピリと張り詰めた空気となっていた、たっぷりと間をおいてギルドマスターが絞り出すような声で
「非常に魅力的な話だがギルドの制服はギルド本部からの支給品でな、デザイン関係なら大手の商会かお針子に話を持って行った方が良いんじゃないかな?」
「も~みんな頭固いですねぇカワイイは正義なのに~支給品じゃしょうがないか~、お邪魔しました~」
彼女が出てってから30分経ってもギルドマスターが出てこないので心配した職員が中を覗くと彼は机に伏せて荒い息をしていた。
何があったのか聞く彼は一言だけこう言った「二度とかかわり合いたくない」と・・・
「あ~あデザインを見てもくれないって結構クルわぁ~」
と一人ごちるアオイの耳にデザインと言う言葉が入ってきてそちらを見ると屈強な男と防具屋が言い争っていた。
「だーかーらー皮鎧にはパターン彫りも押し柄も無理なんだって、斬撃や衝撃を逃がすためのつるりとした表面なのにわざわざ引っかかるもん付けたら意味がねぇだろうが!」
「色は茶色がこげ茶、縫製も皮使ってるから可愛げも色気も出ないからせめてデザインパターン彫ってって言ってるんじゃない!じゃあせめて染め色位してくれていいじゃない!なんであれもダメこれもダメっていうのよ!」
「茶色やこげ茶は森や洞窟で敵に見つかりにくい色なんだよ、冒険者なんだから派手にしてどうするんだよ!」
アオイは両者の言い分は分かるが可愛くないと言い張った屈強な男に味方したくなった、
「横から口を挟ませてもらうわ!可愛い物を着たいと言う心にリスクなど些細なことだって言う事なんじゃないの?この革鎧の事なんでしょ?確かに機能性のみで味もそっけもない、一言で言うならダサいわよね」
「そうなのよ!あなた良い事言うじゃない?気が合いそうね、お姉さんとお茶しない?」
「そうですねぇ、いいお店知ってますぅ?わたしこの町来たばっかりでぇ~」
「ワタシはアレクサンドラ、サンドラって呼んでね」
「ぷぷ、アレックスだろうがお前のぐえ」
アレッ・・サンドラさんは片手で要らない事を言おうとした防具屋の頭をつかみ宙釣りにし渋い声で
「過去を引きずるやつぁ・・・嫌われるぜ」
男を放り投げサンドラとアオイは人気の紅茶を出す店に向かっていった。
・・・・・・・・・
喫茶店でデザイン談議に花を咲かせた後、サンドラはため息をついた。
「そりゃワタシだって似合わないってことくらいは分かってるのよ、落ちない筋肉、張ったエラ、割れた顎、そしていくら剃っても生えてくる髭、アオイちゃんが羨ましいわぁ~」
「私だって苦労してるんですよぉ~ダイエット、食べる物を制限したりしてるんですから~」
漢女と男の娘の会話は取り止めが無く続いていった。
その後無手にて相手を圧倒する可愛い洋服を着た『漢女と男の娘』と呼ばれる戦闘集団が生まれた日でもあった・・・
おわれ
白莉様アイデアありがとうございました。
修正
「可愛い制服を女性ギルド職員に、うん、悪くはないけれど、女性の中にはお年を召された方もいる訳で」
と感想で教えていただき言われて初めて気が付いたので受付嬢の制服に変更しました。
じゃあ責めて染め色位←じゃあせめて 誤変換の修正をしました。